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後編

 俺は夜の縁側で煙草を吸っていた。

 どうもピンとこない、話が出来すぎている。

 (あおい)ちゃんと(そら)君は父親を殺した事を受け入れたと言うが本当なのだろうか?

 そもそも、容疑者達の話は全て本当なのだろうか?

 颯君と介護者の村辺(むらべ)さんは誰に殺されたんだ?

 俺の考えが全て間違っていたのは確かな事だ、身内に殺されていたら、偽装の線は消えた。

 殺される前から〈憑物(つきもの)〉患者になっていたとしても、体はただの人間だ。異形の物の力はあるだろうが、死んでしまえば使えない。

 横には俺と同じ様に考え込んでる雫がいる。

「なぁ雫ちゃん? 今の話どう思う?」

「……」

 無言だ。

「んー。困ったな、何も考えつかない。」

「……」

 やはり無言だ。

「とりあえず、寝るか。今日は色々とありすぎた」

「そうですね。そうしましょうか」

 やっと喋った雫、吹っ切れた顔をしているが何か分かったのか?

「そうだ! 先生! これを心臓側の胸に張り付けて下さい」と言うと自分の髪の毛を束にして切り落とし、俺に差し出す。

「どうしてだ?」

「いいからいいから! お守りですよ」

 そそくさと部屋に戻る雫、よく分からないが何か考えができたのだろう。

 しかし、どう張り付けろと言うんだ?このままじゃ張り付かないだろうと心臓に近づけると――

 髪の毛に意思でも宿ったのか、俺の服を通り抜け身体に張り付く。

 流石〈憑物〉、なんでもありだな……。

 俺も雫の後を追い、部屋に戻った。


 翌朝になり、もう1度二人の死体が置いてある部屋に向かいもう一度調べてみようと思ったのだが……。

「先生はここのベッドに死体を置いたんですね?」

「ああ……」

二人の死体が忽然と消えた。

 俺はビックリして、一旦部屋に戻り雫を連れて来た。

 もう駄目だ。何が起こったのか分からない。

「まぁ、死体ですし気にしない事にしましょう」

「は? 何言ってんだよ!? 死体が無くなったんだぞ?」

「そのうち出てきますよ。それより朝ごはん食べに行きましょう」

 歩いて行ってしまう雫。昨日の縁側での事といい、何があったんだ?

「なぁ待てよ雫ちゃん! もしかして犯人分かったのか?」

「いえ、分かりません」

 それだけ言うとまた歩いて行ってしまう。

「なんなんだ?」


 朝飯を食べ縁側で煙草を吸う。そういえば、朝から碧ちゃんの姿を見なかったが、どこに居るのだろうか。

 雫にも聞いたが「知りませんよ」としか言わなかった。昨日まで仲良くしていたのに……。

 ふと、誰かの視線を後ろから感じた。後ろには幸之助の書斎があるが襖は閉まっている。

 どうしても気になった。

 俺は煙草を消し、襖を開けてみた。

 そこには、椅子に座っている碧ちゃんが居た。

「なにしてるの? 碧ちゃん?」

 俺の問いかけに反応しない。だか、目は俺を見続けている。

「碧ちゃん?」ともう一度声をかけ、俺は近づいた……。

 美しい目は一点を見つめている、どこか虚ろな表情だがそれさえも美しく見えた。襖から入る風に長い髪をなびかせている。

 まるで1つの作品のようだ。作品名を付けるなら、そう〈美しき死体〉。

 彼女は死んでいた。


 俺は碧ちゃんの死体にシーツをかける。

「雫ちゃん。周りに何かないか?」

「ありましたよ。例の紙切れ」

 俺は雫が見つけた紙の内容をみる。

「『お前は罪を犯した。だが、お前の罪は軽い。そして私の育てた最高の作品でもある。何も手を着けず作品のまま死ぬがいい。』」

 俺は考える、もう3人も亡くなった。急がないと全員皆殺しだ。

「先生。他の二人には話しましたか?」

「いや、まだだ。」

 二人には話をしたくない、慕っていた子供達が二人とも殺されたんだ……、話せるわけがない。

「そうですか。では私が話をしてきますね」

雫の言葉に俺の中で何かが切れた。

「ふざけるな! 雫! お前にはあの人達の気持ちが理解出来ないのか!」

 声を荒げ、雫の肩を思い切り掴んだ。

「痛いです、先生。」

 気にせず話を続ける。

「お前には情はないのか? 昨日、颯君と村辺さんが死んで二人には辛い事が起きたのに、今日は碧ちゃんが死んだんだぞ!」

 普通の人なら頭がおかしくなるだろう。

「それなのに、お前は二人に話をするだって? ふざけたことを言うなよ!」

「先生。手を離して下さいよ」

 突然、全身に力が入らず俺はその場にへたり込んだ。

 昨日受け取った、雫の髪が原因か?

「お前、俺に何をした」

俺は雫を見つめ問いかける。

「お守りのおかげですよ。一旦冷静になりましょう? 先生」

「冷静になれだと? ふざけるな!」

 声を荒げるが体は動かない。〈憑物〉の力は恐ろしいな……。

「冷静にならないと話が進められませんよ」

 表情も無く、いつもの雫ではない。

「なぁ、考えたくは無いがまさか、お前が……」

 雫の瞳には光が無い、出会った時と同じように。

「私は何もしてませんよ、先生。それに、あの時誓ったじゃないですか、『もう、人間は喰わない』と……」

 暗く濁った瞳で俺を見る雫、それでも俺は冷静になれない。

「なんでそんなに冷静なんだ! もう3人も死んだんだぞ! 俺達……、刑事が事件を解決しないと駄目だろ!」

 それでも雫の表情や瞳は変わらない。

「私にできる事はしましたから」

 俺を置いてどこかに行こうとする雫。

「見田さんと山島さんに手を出すな! 昔のお前に戻って欲しくない!」

 ピタリとその場に止まる雫。

「はぁー」と深いため息が聞こえた。

 彼女は振り返り俺の方まで戻ってくる。

「先生。あなたは誰ですか?」

 いきなり、謎の質問をしてくる雫。

「誰って、鬼頭天だ」と名前を言う。

「では、あなたの職業は?」

 何を言ってるんだ、コイツは?俺をバカにしてるのか?

「ふざけた質問するなよ! ()()()()()()()()()()が!」

「はぁー」とまた深いため息をつく雫。

「私からの最後の言葉をしっかりと聞いてください」

 雫はしゃがみこみ、俺の目線に合わせる。

()()()()()()()()()()()()()

 それだけ言うと雫はどこかに行ってしまう。

「まて……、しず……、く……」

 俺は意識を失った。


 何時間意識を失っていたのだろうか……。

 もう日が沈みそうだ、俺はポケットから煙草を取り出し火をつける。

 ふと、横の部屋を覗くと誰か座って居たのだろうか、椅子がこちらを向いたまま置いてある。

 背もたれにはシーツがかけてある。

 煙草を吸いながら意識を失う前のことを思い出すが、出てこない。

 俺は煙草を消し、部屋に向かう。自分でもどこの部屋に行こうとしてるのか分からない。

 廊下をひたすら歩く、すると1つの部屋が気になった。

 豪華な襖だ。こんな部屋あっただろうか?

 俺は襖を開けた。部屋の中には2つの死体があった。

 両方とも下半身がない。1人は地に突っ伏し、もう1人は首を吊っている。

「ああ、そうか。見田(みた)さんと山島(やましま)さんか」

 死体の近くに紙切れが2つ落ちていた、俺はそれを拾い上げ内容を確認する。

 1つ目には「『お前は罪を犯した。私の女に手をだし、奪い取った。』」

 2つ目は「『お前は罪を犯した。お前は私の物だったのに、若い男と恋仲になった。そして私を裏切った。』」

 そうか、二人はそんな関係だったのか……。


 ()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()


 俺は屋敷を歩き回る。

 歩き回ってるうちに、最初に居た縁側に来てしまった。

 俺は縁側に座り、外の景色を見る。綺麗な星に月が夜空に浮かんでいる。

 ふと、内ポケットに重みを感じた。

 俺は中に何が入っているのか気になり、確認する。

 取り出したのは拳銃だった。どうして俺がこんなものを?

 リボルバータイプの銃だ、中には一発だけ弾が込められている。

「そうか、これは夢だな。疲れて変な夢を見てるんだな」

 銃口を頭に向ける。

「撃てば夢から覚めるだろう」

 だが、トリガーを引けない。夢でも怖いものは怖い。

 ふと、誰かに言われたことを思い出した。

「『胸に突き付けて死んでください』」

 俺は銃口を胸に付ける。

 そして、トリガーを引いた……。



 私は暗く閉ざされた部屋に居る、扉はあるのだが鍵が掛かっている。

 先生と別れた後、誰かに後ろから強く殴られ、気を失ったみたいだ。

 時が来れば扉も開くだろうし、今回の三流小説みたいな事件について考えることにした。

 犯人は分かっている、城島碧だ。彼女が〈憑物〉患者。

 この山に囲まれた場所は彼女の劇場で屋敷は舞台上……。

 三流小説と思ってはいるが、先生や吉川刑事を罠に引っ掛けたのは凄いと素直に思った。


 容疑者達が居た部屋。

 あの部屋に居たのは碧だけだった。

 私の目には碧しか見えない。

 先生と吉川刑事には他の人達が見えていた。

 最初からこの屋敷には()()()()しか居ない。


 そう、彼女はあの部屋に存在しない4人の姿を映して見せた。

 私と先生では見えていたものは違う。

 吉川刑事と先生はそこに居ない誰かと喋って納得し、聴取も取っていた。

 私は大変だった、先生の動きや行動に合わせなくてはならなかった。

 まぁ、吉川刑事が舞台を降りてくれて助かった、流石に2人に合わせるの無理がある。

 私は先生が心配になり、見えない誰かが死んだ時、先生の瞳を確認したくて下から覗きこんだ……。

 時すでに遅し。瞳には光が無く、先生はこの舞台の役者になってしまった。

 碧が死んだときは、完全に役になりきっていた。

「『俺もお前も刑事だろ』」にはため息しか出なかった。あんたは教授だろとツッコミを入れるべきだったかも……。

 しかし、彼女の異形の物の力は何なのだろうか?幻覚や催眠術とは違う気がする……。

 まだ先生は、舞台で役を演じているのだろうか。

 私は扉に向かいドアノブに手をかける。

 鍵は……、掛かってなかった。

「なんだ、開いていたんですか」

 扉を開けて出てみると、目の前に庭園が広がっていた。

 どうやら、庭園の物置小屋に閉じ込められて居た。

 屋敷もすぐそこだ、私は屋敷に向かおうと歩き始めたとき――

 乾いた音が聞こえた、発砲音だ。

「先生。大丈夫かな」

 私は走る。この舞台の終わりを見るために……。



 男は胸に拳銃を突き付け、トリガーを引いた。

 これで、私の舞台は終わった。

 もうこれで、舞台の演出をするのは辞めよう、私も歳だ。長く生きすぎた気がする。

 この男に私は賭けていた。私の事に気づき、私を救って欲しかった。

 おかしくなった私を、救って欲しかった。

 だが、男は気づかなかった。こんなにも杜撰で矛盾がある三流小説の様な舞台だったのに。


 1人の女の子が男に駆け寄る。

 ああ、連れの女の子か。

 あの子はずっと私だけを見ていた。

 私と同じだと気付いたのは後になってからだ。 私がもっと早く気付けば、こんな舞台から降ろせたのに。

 ごめんね。こんな事に巻き込んで……。

 だけど、私と同じなら1人でも生きられるでしょ?

 私もずっと1人で生きてきた、この大きな土地で。


 女の子は周りを見渡す。何かを探しているようだ。

 私には気づかないだろう、そんな安易な考えをしてしまった。

 女の子と目が合う。私に気づいたのか!?

 だが、女の子はこちらには来ない。

 女の子は男の体を揺すって声をかけている。

「先生! 早く起きてくださいよ!」

 何を言ってるんだ?死んだ人間が生き返るわけが――

「ゴホッ! 揺らすな! 雫ちゃん!」

 男は咳き込み、女の子の名前を呼んでいた。

 そんなバカな……。

「少し位の痛みがなんですか! 私にビンタされるのと同じ位でしょ!」

「雫ちゃんのビンタの方が痛い」

 男は立ち上がる。女の子は私の方を指差している。

「まさか……、こんな〈憑物〉患者が居たとはな」

 男は私の方に近づく。そして私を持ち上げた。

 男は私を撫でる、埃を取り払うように優しく。

「さて、このままで会話できるのか? なぁ答えてくれよ、碧ちゃん。」

「先生。ちゃんと説明してくださいよ! 私には意味が分かりません!」

「早い話が()()()()だよ、雫ちゃん」

「思い込みで城島碧は()()()()()って言うですか?」


 そう、彼女の異形の物の力は、思い込みをさせる……違うな、〈想いを込める〉の方が合っている。

 彼女の想った事をそのまま周りの人に植え付ける。

 そして、自分自身にも……。

「長い間、この場所で同じ事を繰り返してきて、異形の物の力が強くなったんだろう」

「でも先生。そんなことが出来るなら、今の私達をまた思い込ませれば良いじゃないですか?」

「よく見ろ雫ちゃん。俺の手元を」

 俺は皮の手袋を外して本を持っている。

「ああ、なるほど」

そろそろ、この場所も変化してくるだろう。

「雫ちゃん、目を閉じてろ。これで終わりにする」

 目を閉じる雫。

 俺は持っている本を見つめる。そして問いかける。

「さぁ、幕を降ろそうか」

 


 黒く変色した両手。

 人間の手では無い。

 この世の物では無い。

 彼は分かっている、自分が化け物だということを。

 彼は分かっている、この両手の使い方を。

 彼の後ろで揺らめく影。

 その影は徐々におおきくなり、1つ物を象っている。

 それは、鬼。鬼だ。

 そして彼は本を引き裂いた。



 体が重い。久しぶりに力を使ったからか?

 最近は偽物ばかりに当たっていたから、体が鈍っていたんだろう。

 目を開き、周りを見渡す。

 山に囲まれ、自然豊かな場所。街灯1つもなく他の民間も無い、あるのは屋敷のみ。

 その屋敷もすでに朽ちている。

 屋敷の外から見たら分からないかもしれないが、門から入れば一目瞭然。

 横には雫と、事件の犯人である城島碧が横たわっている。

 屋敷の庭園にはなにもない、あるのは人骨と墓だけだ。

 碧はどれだけの人を殺めていたのだろうか?

 碧はどれだけ長い年月をここで過ごして居たのだろうか?

 俺は雫を起こす。

「起きろ。雫。」

 肩を揺らして起こす。

 大きなアクビをして起きた雫。

「何か夢を見ていた感じでしたね……」

 雫は周りを見渡し、そして碧を見てビックリしていた。

「先生!これが碧なんですか?」

「ああ、そうだ。これが城島碧だ」

 そこに居た碧は()()()を越えている姿になっていた。




 俺達は遠くから屋敷の捜査を見ていた。

 あの後、直ぐに吉川刑事に電話をして捜査員も一緒に来てもらった。

 自分の車のボンネットに座り、煙草を吸う。

「それにしてもですよ、先生! 何処で先生は彼女の思い込みを植え付けられたんですかね?」

「この場所……、この山で囲まれた彼女の劇場に入った時点で植え付けは始まっていた」

 同じ〈憑物〉の雫には景色や建物までは植え付ける事が出来たが、人物までは植え付ける事が出来なかったのだろう。

「そんな事ができるなら、こんな場所に留まらず

他で舞台を創ると思うんですけど……」

「彼女にはここしかなかったんだ。ここが彼女の生きる理由……」

 意味が分からないって顔をされている。

「まぁ事件も解決できたし、貴重な例も手に入った。万事解決ってことで!」

「ちょっと、先生! 誤魔化さないで下さいよ!私にもちゃんと説明して下さい!」

 俺は煙草の火を消し、車の中に戻る。

 吉川刑事からは後で聴取をするから帰っていいと言われている。

「帰ろうぜ!」

「私の話聞いてました!? ちゃんと説明して下さい!」

 俺達はこの劇場から出ていった。

 観客は存在しない。

 拍手や喝采も無い舞台はこれで終わった。

 


 俺達は家に着き、雫は「疲れたから寝ます」と言い自分の部屋に行ってしまった。

 車の中でずっと俺に「教えろ! 説明しろ!」と騒いでいたから疲れたのだろう。

 俺は今回の事件をまとめる為にパソコンと向かい合っている。


 あの場所には彼女の想いがあった。自分が産まれ、弟が産まれ、心優しい使用人に囲まれ、楽しい生活を送っていた唯一無二の場所。

 彼女は彼処(想いの場所)に居たからこそ、力を増幅出来た。

 あの事件は彼女の断片的な記憶が混ざっている。

 父の小説を書いていること、父の厳しい躾。

 使用人達との楽しい出来事。

 無邪気で楽しい子供の頃の記憶。

 全てが本当の事だった。

 だけど、ある日を境に終わってしまった。

 それは、大切な弟を亡くした……。

 俺は拳銃で自分を撃ったとき、あまりの衝撃に意識を失っていた。

 そして、俺は彼にあった。弟の颯に……。

 彼が全て話してくれた。

 そして姉を救って欲しいと。


 彼女は、弟が亡くなってから狂ってしまった。

 一番大切な者を失い、彼女の心は病んでしまった。

 そして、彼女に異形の物は憑いた。

 彼女は自分の想いの中……、自分の考えた舞台(妄想の世界)で生きる事にした。

 そこで留まっていれば良かったのだが、彼女はその想いを()()()()適用してしまった。

 自分の想いを家族や使用人に植え付け、亡くなった弟の姿までも映して見せた。

 最初は楽しく生活出来ただろう。だが、そこは彼女の舞台……、演出も脚本も彼女次第だ。

 欲が出た。もっと楽しく、もっと素晴らしい舞台にしたいと……。

 彼女はありとあらゆる手段を使って自分の舞台に人を増やした。

 そして、彼女は想う。ここで父の小説の()()()をしたら面白いのではないかと……。

 狂っている彼女には、それが悪いことだと思わない。

 家族を殺し、使用人を殺し、次々と作品を創っていっては人を殺す、何年間もそんなことをしていた……。

 彼女の力はさらに増幅した、想いが強くなりすぎたんだろう。

 あの範囲を自分の劇場にするくらいだ、もしかしたら、俺に近い存在になっていたのかもしれない。


 だけど、心の何処かでは止めたいと想っていたはずだ、初めの頃に戻りたいと……。

 そして、俺達を呼び出し最後の舞台にしたと俺は思っている。

 だから、俺達だけしか呼ばなかった。これ以上人を殺すのは止めたくて……、俺達には迷惑極まりない事だがな。

 どこで、俺達の存在を知ったのかは分からないが、もしかしたら本物の颯君が現れて、彼女に教えたのかもしれない。

 さて、こんな感じであろうか?今回の〈憑物〉事件は……。

 三流推理小説にしてはそれなりに楽しめたよ、碧ちゃん。推理と言う概念は少なかったけどね。


 俺はパソコンを閉じ、自分の両手を見る。

 黒く変色し人間の手では無い。

 俺はこの手が憎くて、たまらない。

 彼処で俺は死ぬべきだったのかもしれない。


 嫌な考えをしてしまった。煙草を吸って寝よう。

 皮の手袋を着け、ベランダに出て煙草を吸う。


 この世界は奇々怪々だ。

 色んな物が潜んでいる。

 


 そして、人はそんな物に憑かれてしまうのだ。


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