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前編

 

 彼は囁く……。

「お前は最高の作品だ……」

「何一つ欠ける事のない私が育てあげた、最初にして最後の最高の作品……」


 彼は囁く…。

「お前は最低の作品だ……」

「何一つ欠ける事のない私が育てあげた、最初にして最後の最低の作品……」


 彼は何度も囁く……。

 それが最後の務めかのように……。


 暗い部屋に最後の明かりを灯すかのようにテレビが付いている。

 音量を絞ってあるのだろうか、微かにしかアナウンサーの声が聞こえない……。

「連……騒がれ……、憑き……が……」

「……、つまらないニュース……」

 私はリモコンを手に取りテレビを消した。

 テレビを消すと完全な闇に支配される。

 彼の囁きも聞こえなくなった……。

 時折聞こえるのは、骨の砕ける音だけ……。

「これで耳障りな音は無くなったね」

「そうね」

 目が暗闇に慣れてきたのだろうか、次第に辺りの本棚や机、椅子などの形がわかる。

「さぁ、物語の続きを書きましょう……、彼に全てを教わったのだから……」

「そうだね」

 私達は物語を書き始める……。

 最低で最高の作品を作るために……。






 某県某大学に俺は講義を頼まれた、古くからの友人……、いや友人ではないな……。

 そんな彼に、最近騒がれている事件について講義して欲しいと頼まれ、車で三時間かけて辺鄙な場所にある大学まで行くことになった。

「あの野郎……、この前みたいに金をちょろまかしたら絶対呪ってやる……、七代先まで呪ってやる……」

「先生! 顔がヤバいです! 守銭奴の顔になってますよ!」

「あのな……、雫ちゃん」

「お金って大事なんだぞ!」

「分かってますけど、未来ある若者に講義をするんですよ……、その顔じゃ尊厳や威厳もありませんよ……」

「尊厳も威厳も金には成らねぇよ……」

「てかよ、これで何回目だ? この大学で講義するのは?」

「今日は記念すべき第10回目ですよ! 皆さん楽しみにしてらっしゃるみたいで!」

 ニコニコ顔で俺に話かける雫。

 イラついていたのを忘れる位、とびきりの笑顔だ、こいつと喋っていれば三時間の道のりも悪くない。

 山道を走り続けやっと大学が見えてきた、門の前に居る警備員に話しかけ、駐車場に案内される。

「そろそろ顔パスで大学内に入れそうですねよね!」

「こんな辺鄙な大学に顔パスで通れても嬉しくねぇよ」

「都内の有名大学ならなぁ……」

「欲が深いですね……」

 呆れた顔をされたが無視をして車を停める。

 しばらくすると、校舎の入り口から男が走ってきた。

「あいつ、また太ったな……」

 俺達は車から降り、講義に必要な物を持ち、男の方へ向かった。

「いやぁ~鬼頭教授! 本日もありがとうございます!」

「今日の講義!楽しみにしておりますぞ」

 男は額に汗を滲ませながら満面の笑みで俺達に話しかける。

「今日はお呼び頂きありがとうございます。山口教授」

「これはこれは! 助手の雫さんではありませんか!」

「すっかり大人びて分かりませんでしたよ!」

「いえいえそんな……私なんて……」

 頭を下げる雫……、顔がニヤけてるぞ……。

「ここで話をするのもいいが、時間は平気なのか? 山口教授?」

「おっと……、そうでした! 後20分程で教室の準備が整いますので、その間に講義の準備をお願いします」

「ああ、分かった」

「それと……」

「ん? なんだ?」

「今回の講義に似つかわしくない生徒が何人か居られまして……」

「あー、なるほど……」

「あまりに酷い場合は私の方から退室を言い渡しますので……」

「……」

「先生……顔が恐いですよ……」

「まぁ、しょうがないだろう…、あまりに目立つ様なら早めに退室させろよ……」

「ええ。分かっております」

 俺は心の中で深いため息をついた……。

「それでは、講義室にご案内します」

 俺達は山口教授に案内され、講義室に到着した。

 外で話をしすぎたらしく、教室の準備は終わりかけていた。

「すみません……。私が外で話をしたせいで……」

「大丈夫ですよ! 山口教授! 私達も直ぐに準備出来ますから!」

「ね! 先生!」

「ああ、そうだな」

「助かります。すみませんが少しだけ急いで準備の方をお願いします」

 俺達はそそくさと準備を始めた……、と言っても今回は資料を少な目にしたので準備する事は少ない、二人でやれば5分で終わる。

 資料を並べ、プロジェクターの映りも確認できた、後は……。

「先生! 白衣着るの忘れてますよ!」

「別にいらないだろ? 今日はスーツでキメてきたんだし、わざわざ白衣を――」

「ダメです! 先生は白衣を着ないとダメなんです!」

「毎回思うんだが……、そんなに変か? 俺?」

「変では無くて、威圧感が凄いんですよ。長身で髪型はオールバックだし、そして黒皮の手袋……なんか殺し屋みたいなんですもん」

「……」

「長身と手袋は良いとしても、髪型をなんとかしましょうよ……」

 いつものダメ出しが始まった……。

 雫の言う通りだが、俺はこの髪型が好きなんだ……。

 身長も一般の成人男性からしたら高いのかもしれない。最後に測った時は確か……180センチ前後だったかな?

 手袋は外せないし……。

「分かった……、白衣着るよ」

「白衣を着れば威圧感が緩和出来てるので毎回着て下さい」

「分かったよ」

 俺は渋々白衣を身に纏う、スーツだけの方が格好いいと思うのだがな……。

 何より白衣を着ると身動きがしにくいのが難点だ。


「……、……。こっちは準備できました! 先生!」

「おし、俺の方も大丈夫だ」

 大体の準備が終わった、講義が始まる前に一服つけに行こうと教室を出ようとしたが……。

 準備に集中していたらしく気づかなかったが、生徒が数人集まっていた。

「……」

 ノートを広げる人、スマホを弄る人、友達と談笑している人……。

「煙草は終わってからだな……」

 俺は近くにあったパイプ椅子に座る、雫も気づいたのかこちらに歩いてくる。

「先生、そろそろ始まるみたいですよ!」

 いつものニコニコ顔だ。

「ああ、そうだな」

 雫も俺の隣の椅子に座り生徒を眺める。

 ゾロゾロと生徒達が入ってくる、割りと普通の生徒ばかりだ……、山口教授の言っていた者はいない様子だったが……。

 バン!!!と思い切りドアを開ける生徒が来た。

 それも足でだ。

「かったりぃけどよー! これに出れば単位貰えるらしいぜ!」

 チャラチャラした生徒が1人。

「マジかよ! そんじゃ聞いてる振りでよくね!?」

 他の生徒に聞かせたいのか大きな声で喋る、ガラの悪い生徒。

「ねぇ、タッ君? この講義が終わったら車出してよ! 私欲しいバックあるの」

 チャラついた生徒と腕を組んでいる、彼女だろうか?派手な格好でいかにも水商売をしてそうな生徒。

「しゃーねぇーな! 出してやんよ! その代わりヤれそうな女紹介しろよ!」

 タッ君とやらは彼女らしき人が居るのに他の女が欲しいのか……、最近の若い子の考えは全く分からん。

 いまだにこんな生徒が存在するとは……、絶滅したんじゃないのか!?

 横に座ってる雫の反応が気になり顔を向ける。

「いかにも頭の悪そうな子達ですねぇ。しかし、タッ君さんは彼女らしき人が居るのにどーして他の女の子を紹介して欲しいのでしょうか……、謎過ぎます……」

 ああ、俺にも謎だ。

「あの子! 可愛くね!」

 突然の声にビックリした俺、声の方に顔を向ける。

 さっきのガラの悪い生徒がこちらを指差している。

 指を指した方向はと言うと――、雫だった。

「ヨッシーはやっぱりロリコンだな! あんなチビのどこがいいんだよ?」

「タッ君分かって無いなー! 黒髪ロングに低身長とか、めっちゃ萌えるー!」

「ロリコン確定だな! ヨッシー!」

 ゲラゲラ笑いながらまだこっちを見ている。

 流石に注意しようと思ったが……。

「静かにしなさい!」

 場が静まる……、山口教授か。

 外で会った時とは別人のようだ。

「早く席に座りなさい」

 三人組も黙りこみ席に座る、以外と山口教授もやり手だ。

 山口教授がこちらに頭を下げる、俺は気にするなと手で合図を送った。

 山口教授はその場で周りを見渡し、壇上に上がった。

「それでは特別講義を始めたいと思います。出席確認は最後にするので皆忘れないように」

「では、特別講師を紹介致します。鬼頭天(きとうたかし)教授です!」

 俺は拍手で迎え入れられ壇上に上がる。

「皆さん、おはようございます」

 挨拶をして生徒達の顔を見る。それなりに席は埋まっているようだ。

「今回の講義は……、今ニュースで話題になっている精神疾患〈憑物(つきもの)症候群(しょうこうぐん)〉について」

 生徒の顔が一瞬強張る。

 やはり、身近に浸透しているようだな……。

「ではまず、この資料を見てもらいたい」

 俺の講義が始まった……。


 精神疾患病〈憑物(つきもの)症候群(しょうこうぐん)〉……通称〈憑物(つきもの)〉だ。

 約20年前位から発見された病気でここ最近になって精神疾患としてようやく認められるようになった。

 夜中に奇声をあげたり、突然暴力的な行動を取ったりなど、よくある精神病だと思う人が多い……、だが違う……。

 あれは人間にできる所業ではない……。

 俺はとある事件の記事をプロジェクターに映し出す。

「この病気を知るにはまずこの事件を知って欲しい、この病気の始まりだとも言える患者の事件だ。知っている者は少ないと思う」

「ある男が自分の子供二人と奥さんを殺すという事件」

「よくある事件だと皆は思うだろう? この記事にも殺人で逮捕とまでしか書いていない」

「……、だが違うんだ……」

()()()()()()()()()()()()()、当時の状況だと……」

 俺は一枚の白黒写真をプロジェクターに映し出した。

「これは当時の現場写真だ。皆には何が見える?」

 生徒達は口々に一つの植物の名前を言い出す、向日葵と……。

「そう、向日葵だ」

 俺は白黒写真を元のカラー写真に戻す……。

 最初はなんだか分からない様子だったが、一人の生徒が俺に問いかける。

「教授……、写っている向日葵ってもしかして――」

「そうだ……()()()……」

 俺の返した答えに、問いかけた生徒は顔を俯かせる……他の生徒達も同様に……。

 もう、写真を見る事は出来ないだろう。

 人間で出来た向日葵など理解できない。

 この男は首から下……背骨以外の全てを剥ぎ取り、残った生首と背骨に剥ぎ取った人体で向日葵を造りあげた……。

「これが精神疾患病〈憑物症候群〉だ。こんな猟奇的な事を人間には出来ない、そう……何者かに憑かれなければ到底出来ない事だ……」

 俺は写真をプロジェクターから外す。

「皆には一つだけ言っておく、これが本当の〈憑物症候群〉だ。最近では事あるごとに、この病気なのではないかと疑うニュースが流れるが、99%はこの病気になった振りをする、ただの人間だ」


 生徒達の顔を伺う。

 大半の生徒は気分の悪そうな顔をしている、まぁそうだろうな。

「質問があるやつは居るか?」

 一人の生徒が手をあげた。

「この病気になりやすい人の特徴ってあるんですか?」

 ほほう、いい質問をする子がいるもんだな。

「様々な例はあるが、共通する特徴がある」

「極度のストレス……、追い込まれた人間はいつもの倍以上の力を出すことが出来ると言う話がある、それほどのストレスを受けると発症の兆しが出現する」

「先程の男は、仕事をクビになり家族からも愛想をつかれ発症したと言われている」

 他の生徒が手をあげた。

「確かにそれが原因でこの患者は発症したのかもしれないですけど、普通の人ならそこから這い上がろうとか、家族を取り戻す為に頑張ろうって考えが浮かぶと思うのですが……」

 他の生徒達も「確かに!」「俺もそう思う」と声が聞こえ始めた。

「では、鬱や精神的弱者だったらそう思うだろうか……?」

 ざわめきは止まる。

「もう一つの共通する特徴……、心の病だ。」

 そう、心の病。

 普通に生きている、何も不自由なく生きている人間でさえ心の病にかかる。

「しかしだ、悪く言うようだがこんな人間なんて沢山居るだろう? では何故こんなにも発症率が低いのか……、それは通常の人間には枷……。つまりはリミッターが付いていて、発症しないようなっている。しかし発症する人間には()()()()()()()()()()()しまうのだ」

 最近の学会で発表があり、発症する人間にはリミッターが無くなると新たな説が出た。

「つまりはこうだ、99%の人間には発症しないように体の制御本能が働いているが、残りの1%の人間には体の制御本能が無くなるということになる」

「だが、何故無くなるのかは分かっていない――」


 俺は特徴説明の後、様々な事件の写真や資料を生徒達に見せた。

 今回はこのまま何事も無く終わると思っていたのだが……。

「どーせ全部作り物だろ? マジであるわけねーじゃん! こんな写真なんて」

 ゲラゲラと笑いながら大声で話す生徒が居た。

「たしかにー! うちの店に来るお客さんでいるもん! 心霊写真を作る仕事の人!」

 あー、絶滅したはずのめんどくさい三人組に絡まれたなこりゃ……。

「なぁー、教授さーん! あんたが作ったおすすめの写真あんの-?」

 笑いながら俺に問いかける。

「おすすめな……。あるぞ! 見せてやろうか?」

 俺は誘いに乗ることにした。

「それじゃおじさーん! 見せてよ!」

 おいおい、せめて教授と呼べよ。

 俺は持ってきた写真の中では無く、内ポケットから一枚の写真を取り出す。

「えー、前に座ってる三人組以外の人は目を閉じてろ、俺が良いと言うまで待つんだ。勿論、山口教授も」

 三人組以外の生徒と山口教授が目を閉じるのを確認する。

「よし、そのままで。」

 俺は壇上から降り、三人組の前まで行く。

「なんでこっち来るんだよ!」

「生で見たいだろ写真をさ。ほら!」

 ガラの悪い男が俺の手から写真を奪う。

「どーせ、たいした事ないんだろ? だからプロジェクターで映さないんだな!」

 写真を見た瞬間、ガラの悪い男は硬直する、瞬く間に冷や汗が出る。

「なに固まってんだよ! 俺達にも見せろよ!」

 チャラ男と彼女が写真を見た。

 そこに写っているのは少女。

 小さい子が着るような白のワンピース、小柄な体型には良く似合う。

 黒髪で目鼻立ちもよく綺麗な顔をしている。

 ただ、周りには血の海が広がっており人間の腕や足、体のパーツ全てが転がっている。

 しかし、少女の服には血が一切付いていない。

 付いているのは……、手と口だけ……。

 なにより、その写真に写っている少女は俺の助手――雫と似ている……。


 ポケットから煙草を取り出し火を着ける。

 はぁーっと吐く煙が嫌な思いを消してくれる。

 俺はフェンスに背を預け、煙草を燻らす……。

 ぽーっと景色を眺めていると前から小柄な少女が走ってくる。

 彼女は俺の前で止まる。

「先生……」

 俺は言葉を返さない。

「先生は悪くありません。あの三人組が悪いんです」

 いや、俺が誘いに乗らなきゃ彼らが怯える事もなかった。

「その顔だと、自分が誘いに乗ったことに後悔してますね?」

 こいつは俺のことを見透かしてるのか?

「乗ろうが乗らまいが同じように、あの三人組は先生に因縁を着けてきますよ。 だって彼らは――

「それ以上言うな」

 俺は雫の言葉遮る。

「俺は大丈夫だ……、雫ちゃん」

 俺は雫の頭を撫でる、これで少しは落ち着いてくれるだろう。

 綺麗な黒い髪……、可愛らしい顔……。

 誰がどう見ても人間にしか見えない。

 ……、……。だが違う。

 あの写真に写っていた少女と同一人物、彼女は()()()()()()だ。

「先生が大丈夫と言うなら良いのですが……」

 俺は煙草の火を消した。

「山口教授に挨拶して帰ろう」

「そうですね。そうだ! 帰りにお肉食べに行きましょうよ! 緊張から解放されたのか、お腹ペコペコです!」

「金も入るし、少しは高級な肉でも食べに行くか?」

「それ賛成です!」

 俺達は与太話をしながら山口教授の元へ向かった。

 山口教授に何か言われるかと思ったのだが……。

「今回の講義も素晴らしかったですぞ、鬼頭教授! 次回もまたお願いできますかな?」

「ああ……。それより、あの三人組は平気か?」

「ええ! 何事もないですよ! 彼らは元々この大学には相応しくない生徒ですし、ちょっとしたお灸を添えることが出来たのでこちらとしてもありがたいですぞ」

 おいおい……教授がそんなこと言っていいのかよ。

「まぁ記憶が少し曖昧になってまして、講義の後半は覚えてないそうです」

「……」

「では、また次回よろしくお願いいたしますぞ!」

「ああ……」

 山口教授に謝礼金を貰って大学を後にする。

 車を走らせて数分、雫は眠たそうな顔をしてる。

「店に着いたら起こすから、寝てるか?」

「そうですか……、それじゃお言葉に甘えて……」

 すぐに寝た雫、俺は運転しながら今日の講義の事を考える。

 生徒達に隠し事をしてしまった。

 〈憑物症候群〉にはもう1つ共通点がある。


 それは、荒唐無稽な物。

 それは、名の通りの物。

 それは、あらゆる物を象ってる。

 それは、時に動物であり、人であり、そして神や鬼、人外とも言われる物。


 そんなものを誰が信じようか?そもそも信じられないだろう。

 だから、生徒達には言わなかった。

 だが、真実だからしょうがない。


 そう……、彼らには()()()()が憑く。

 まさに病名通り、何かに憑かれる。

 俺にはその異形の物が小さな頃から見えていた。

 懐かしい記憶だ、「化け物」とよく呼ばれていたな……。

 そのうち見えなくなると思っていたが、今でも見えてしまう。

 その異形の物がリミッターを無くしてしまう。

 俺だけが知ってる真実。

 学会では一生をかけても分からないだろう、そもそも科学では証明できない。

 これが〈憑物症候群〉の真実だ。


 だが、異形の物すべてが悪いものでは無いと俺は思っている。

 人間が最後に現状を変えたいと思う時にすがる神とやらがプレゼントしてくれる〈奇跡〉と思うのはどうだろうか?

 俺は神なんて信じてないが、もしそうならば弱者にとっては救済……それ以上の事だ。

 使い道さえ間違わなければ、すべての現状はひっくり返る、無くした物や人……、最低で最悪だった人生が一変するだろう。

 だが、一歩でも間違えばそこに待ってるのは惨劇のみ。


 横に寝ている雫。

 綺麗な黒髪に整った顔、小柄だが頼りになる素晴らしい相棒だ。

 そんな彼女にも異形の物が憑いている。

 それは、美しき鬼の憑物……。






 周りは山で囲まれ、監獄の塀みたいになっている。

 街灯や足元を照らすような光はない。

 唯一の光は星や月……、そして屋敷の窓から漏れる光だけ。

 屋敷の敷地には庭園もあり、それを眺める縁側。

 時より風が吹いて木々の擦れる音がする。


 ここは劇場で屋敷は舞台……。

 脚本も演出も役者もそろっている。


 開演の時刻は迫っている。

 観客は存在しないだろう。

 拍手や喝采もない舞台が始まる。

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