一日目 HO1、HO2、HO4
「お二人とも、この島についてでも調べるんですか?」
「そうだよ」
「うん。そうだよー!」
図書館。島唯一とだけあって規模も小さく、蔵書も古い。
蓮は小さくいたずらめく。
「黒曜さんは埋蔵金の事かもしれないですけど」
「ふふふ、そうだね」
「あっ 笑ったな!オトコのロマンを!よくもよくもー」
「はは、すみません」
ぽこぽこ!蓮の胸を叩く!マジでみんなでかすぎィ!俺がぶっちぎりのチビじゃん!!
俺がじゃれついてる間に雲野はスマートにメモ帳を出す。
「あと、君個人にもいろいろ取材をしたいな。後ででもいいんだけど」
おっと…先にそういうお話するなら、俺は資料でも探してきますかね っと…。
(なんかありゃあいいんだが…)
棚を漁っても何もない。おとなしく蓮の元へ戻った。蓮の隣では、雲野が何やら書籍を広げている。
「埋蔵金の本はありましたか?」
あれば苦労しねぇんだよなぁ………。
「ねえねえ、蓮くん毎年蜘蛛踊りに参加するんだよね?蜘蛛踊りってお神酒配ったあとはどうなるの?自由解散?」
「そうですね、大体は帰ると思いますよ。少しは屋台を見る人も居るかと思いますけど……まあ、蓮見さんは居るんじゃないですかね。神主様だし」
「ふぅん。そうなんだぁ」
最悪、祭りのあとに盗み出すのもアリだな。
「ところで雲野さんは何かいいもの見つけられたー?ボクにも見ーせーてー」
「あ、ああ…でもこれは…」
「『これは』?なぁに?見てると気が狂うのかしら?あはっ、なんてドグラ・マグラ!
それでもいいの。面白そうなことなら全力で首突っ込みたいな。教えてくれる?」
蓮は入れ替わるように図書館の外へ出る。島民の様子を見に行く、と行った風だ。まめまめしい男である。
「まあ、見た方が早いよね」
雲野は俺の資料を渡す。
そこに記されていたのは、八十二年前の出来事だった。
【82年前の出来事】
『金糸記』の話があったため、以前から蜘蛛の神を祀る社はあったのだが、 それを本心から信仰している者はいなかった。
しかし 82 年前、信仰心を忘れた島民を襲うように一匹の巨大な蜘蛛が現れて、島民たちを殺して回った。
それをどういうわけか止められたのが蓮見正寛という男で、以降蓮見家が神主としてこの島を治めているという状況である。
信仰心を示すものとして生贄が捧げられており、生贄を捧げなければ巨大な蜘蛛・八肢の神がまた島民を殺してまわるかもしれないと考えられている
(ほ~~~~~~~ん…………?)
うーん、オカルティック!弟が好きそうだ!
(この際、カミサマの実在は問題じゃねえ。カミサマがいると信じてる連中がいるのが問題だな)
いるかどうかもわからないカミサマへの生贄などという、前時代的風習に倣う。
(…………生贄、ねえ……)
ざざん、ざざん。耳奥にこびりついた潮騒は、未だに死を掻き乱す。
(―――――本当に、不吉がこれここに極まれり)
徹以外のホーク宅急便は――――――どこに行った?
(やってくる余所者。島ぐるみでアリバイを作れば、人一人揉み消すことだって…)
この島は電波がロクに届かないのだ。スマホという最大の連絡手段を失えば、現代人はかくも脆く、独りになる。
無愛想な奴ばかり帰れたのは、村人に生贄として気に入られなかったから?
そう、ホーク宅急便は生贄のための…………
(なら次の生贄は、ヨダカの可能性が高いんじゃないか)
いや―――――ヨダカだけじゃない
(外から来た余所者なら、俺だって)
ぞわり。体中に鳥肌が立った。
(おい……ちょっと待て)
外から来た余所者が、確実に利用する施設はどこだ。
(民宿………)
十坂蓮の家族が営む民宿。
外からの客は必ず民宿に泊まる。裏返せば、民宿の従業員は確実に余所者と触れ合える立場なのだ。
(いや――――まさかな。だってあいつはまだ子供だぞ…!?)
嫌な汗が噴き出す。
嫌な妄想が纏わりついて離れない。
(そんな、ありえるかよ。蓮が生贄選定に関わるだなんてそんなことあるはずがねえ…!)
それでも頭は最悪な方向へ妄想が膨らんでいく。
(たとえば)
そう、今のように―――――甲斐甲斐しく島のガイドを務める蓮。
余所者と仲良くなりつつ、見定める。
そして蓮見に告げるのだ――――――『あの余所者は、生贄にふさわしいと思います』。
(い、いや…こんなのただの妄想だ)
でも、十坂蓮の秘匿使命が―――――『訪れた探索者を生贄にする』だったら?
「そろそろ閉館時間ですよ」
ハッと我に返った。図書館の司書が館内中に呼びかけている。見てみると、もう時計は五時に差し迫っている。
(……………は、)
悪夢から目覚めた後のように、腹の底が重い。
鼓動が耳奥でうるさく乱れる。まるで警鐘のように。
………スマホで資料をパシャリと撮って、明るい声で取り繕った。
「あっとっと。いけないいけない!閉館時間だ!」
笑え。
ただの妄想だ。
それに、もし本当でもどうとでもなる。
(いくらでも取り入ってやる……!)
俺は死ぬわけにはいかないんだ。
蓮に取り入って、俺だけは生贄から外してもらうように交渉しよう。なんだったら俺が生贄を調達したっていいんだ。ミッションさえ達成できればそれでいい。
俺だって棺桶に片足突っ込んでるんだ。他人のことなんか構ってられるか。
(ヤッカイゴトは真っ平御免だっつーの…!俺だけは生き抜いて、)
ヨダカは
(ヨダカ)
通年どおりなら、ヨダカが一番の生贄候補だ。
(……………俺だけ、は……)
瞳の奥に、人懐こい顔が浮かんだ。
酒の入ったケースを一生懸命運ぶ姿。
俺たちを気遣ってとりなす姿。
蓮や――――島の全ての人間に、柔らかく、誠実に接する姿。
(し、知るか……。俺の代わりに死ね。死んでくれ。こっちだって命懸かってんだよ…他人のことなんて構ってる余裕なんてねぇんだってば……!)
そうだ……俺は悪くねぇ……。俺は悪くねえ…!
(でも)
ああ、でも
――――――『ウズメちゃん』
柔らかく、ヨダカが自分の名を呼んでくれた余韻。
(……………)
彼は、心の奥底からやさしい男だった。
誰にでも親切だった。
いつもその場を和やかにしようと、率先して努めてくれた。
(お、俺は…他人に構ってる余裕なんて……)
彼にも、やさしい友達がいた。
徹とヨダカはよく二人で冗談を言い合ってはふざけあっていた。
…俺と皐月のように。
(……知るか…。他人なんて、知らない)
ヨダカがいなくなったら、徹はどう思うだろう。
夜鷹が星になって美しいのは童話だけ。現実はただただ悲惨で、苦しく、かなしい。
友達を喪うって、そういうこと。
(俺は、霊石を探さないと。俺の命が。俺が死ぬんだ。生贄とか勝手にやってろ。霊石を探すことに専念しないと、マジで時間がねぇんだよ)
そうして彼を見殺しで得た金で、皐月を救うのか。
(ぅ―――――――)
ヨダカはどんなワガママにもじゃれいあいにも、くすぐったそうに笑ってくれた。
偽りの性格だけど、それでもヨダカは良くしてくれた。
まるで
(うぅ………!)
ヨダカは、友達みたいだった。
(あ゛ーーーーーーーっっっ、たく、わかった!!わかったわボケェ!!!)
怒りとどこか妙な清々しさが綯交ぜになって、なけなしの良心に言い訳する。
(もし!!もし余裕があったら、雲野だろうが、ヨダカだろうが、生贄から助けてやる!!余裕があったらだ!!!!余裕がなきゃそこまでだ!!!それ以外は知らん!!知らんっつったら知らん!!!はい、この話はおわり!!)
スッと、鬱屈が晴れた。方針は相変わらず途方に暮れたままだが。
「徹さん達が来てしまうので行きましょう」
痺れを切らした蓮が入口から声をかけた。雲野が俺を促す。
「おや、そろそろ出るか」
「はーい、いまいきまぁす!!」
俺は声を張り上げた。
そうして、無邪気に 清楚に 謎めいて―――――いっそ悪虐に微笑むといい。
「…ふふ。お祭り、楽しみだねっ♥」
雲野と伴って外に出た。いっそのこと、人に憑いたヤエ様のフリをして謎めいてみれば、蓮も雲野も俺に靡いてくれるんじゃないか。
そんな間抜けな無茶をぼんやり考えながら。
あーーーーーーー!!ライムちゃんお得意の考察玉砕芸だ!!深読みしすぎて自滅する考察玉砕芸だ!!キャッキャッ!!!
でも当時、真っ先に思ったのはコレでした。「あなたは脅されている。探索者の中から生贄を捧げないと、あなたの大切な人が生贄になる」みたいなHO配られてんのかと思った。とは言っても完全PVPじゃなくてあくまでもPVPルート有のセッションなので、『達成しないと自分(または大切な人)にペナルティがかかる/だが抜け道はある』という方式かなあと。HO4が霊石奪取するとか、脅されてる元の原因を取り除くとかするんだろうなあ、とか思ってました。ヘヘッ、その、ヘヘヘッ。深読み考察爆死芸、ヘヘッ。いいんだ、考察は玉砕までが華だもん………
劇中、賀鳥はなんだかんだ駄々を捏ねてますがこっちは「守るーーーー!!ヨダカくんはッ!!わたしがッッ!!守る~~~~!!!!ウォオオーーー!!!」ってべしょべしょに泣いてました。放せ~~~~~賀鳥が嫌がっても私はヨダカくんのためにこの島一つ爆破したっていいんだ。ボコンボコンボコン!!