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アクセルを踏みつけて

作者: 藍美

「はい、カット! オッケーです」

「「「「ありがとうございます。お疲れ様でした!」」」」


スタッフの合図と同時に頭を下げる7人の男女。

彼らは2015年に結成されたダンスユニット、『ACCELERATORアクセル』である。もともとはジャズバンドとして結成されているが、所属事務所に『バンドを育てた経験がない』と言う理由でダンスユニットとしてデビューした。結成当時のメンバーは2歳から4歳の子供であり、一切の理由・状況や作法を知らないまま結成直後に芸能界へと放り出されてしまったため、現在までメディア露出はジャケット写真とプロモーションビデオのみとなっている。

彼らの所属する事務所には音楽家よりも役者の方が多く、純粋な音楽家である彼らは異質な存在としてみなされていた。


そんな彼らであったが、彼らよりも先にこの事務所に音楽家として所属していた『ACTORSアクターズ』、『FULLBITフルビット』、『Rouletteルーレット』の3組は彼らよりも更に露出が少ないため、『3組は変人で1組はまとも』と言われることも多々あったとか。


特にACTORSとRouletteのメディア露出拒否の態度は徹底しており、インタビューは製作スタッフが代理で回答し、ジャケット写真やプロモーションビデオには別人が出演するなど露出を一切していなければ、FULLBITやACCELERATORにも当てはまるがネット全盛のこの時代に公式サイト、公式SNS、公式ファンクラブの設定すらしていないという状態だ。

この4組、そんな状態なのでライブだってもちろん行ったことはない。ファンがよくも離れずについてくるものだと思うが、それはメディアへの露出をコントロールしていることによる神秘性というものか?

しかし、彼らにもついにメディア出演のチャンスが舞い込んでくる。


「2017年9月に……ってこれ、大丈夫なんですか?」

「分かりませんが、相手方の『CATS and CRYSTALキャッツ・アンド・クリスタル』は露出がないとはいえどメジャーなアーティストでしょう? なんで私たちに出演依頼を出してきたんでしょうね」


ACCELERATORのリーダー的立場である真鍋が問うと、先崎が呆れたように出演依頼の書かれた紙をマネージャーも兼ねている最年長メンバー、雪原に渡す。

雪原は紙を数度読み返すと小さく息を吐いて紙を隣に座っている柳澤に渡した。

誰もメディアへの露出をしたいとは思っていないようだ。事務所もあまりすすめてこない。

一緒の舞台に出る予定となっているCATS and CRYSTALの素性もあまりよく分かっていないので、事務所側としてはメジャーアーティスト相手に粗相があっては面倒ということだろう。

仕方がないので出演を断る旨の電話を、事務所社長を通して行った。数日後に『出演出来ない旨、了承しました』と連絡がありこれで何の問題も起こらないと思った。

ところが、だ。彼らが出演依頼を断ったことで東京のイベント主催者側が大騒ぎになっていたのだ。

『ACCELERATORをトリに配置していたのに、断るとはどういうことか』と、まずは事務所に主催者から苦情が届いた。

そうは言われても、自分たちの方が出演依頼を事務所から把握したのは出演日の3週間前である。ここまでギリギリに予定を持ってくる主催者もすごいと思えたが、『本来ならRouletteをメインにしたかったが、断られたからお前たちに白羽の矢を立てたんだ』と言われてもはや呆れしかなかったとか。


「メディア露出を徹底的に避けているRouletteを出そうっていう時点で非常識だ」


これについて、7人ともが同じ意見だったらしい。

事務所社長である浅川も話しているが、『Rouletteはそもそもの結成理由が特殊なだけに、彼らを表舞台に出すことは一切出来ない』ということや、舞台に入りきらない大所帯ユニットであることを理由として、本来ならば共有施設であるはずのレコーディングスタジオでさえもRouletteだけは別に用意されているという。したがってレーベルメイトであるACTORS、FULLBIT、ACCELERATORのメンバーでも会うことすら出来ていないのだ。

たまに彼らのマネージャーである松実、プロデューサーである尾野から簡易的に情報が聞かされる程度だが、その情報への深入りは事務所権限によって一切禁じられていた。

レーベルメイトですらこんな状態なのでRouletteへの出演依頼はそもそも間違っているのである。

だからといってACCELERATORに対しての出演依頼も間違っているのだが。


結局、主催者には『自分たちはどう頑張ってもイベントには出られない』という内容の話を折れてもらうまで何度も繰り返し、最終的には事なきを得たという。

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