駆け抜けろ
聖騎士を退けた後、西を目指し、途中の小さな宿場町で休憩を取る。
本当に休憩したいのであれば森に入るが、目撃されないと追撃が来ない。
ヴェンダでの聖騎士の敗退は大量の負傷者を出し、隠すこともできず国中に聖騎士敗退の噂が広まっている。
聖騎士を使用したのは、見栄えに重点を置いて、教会としての威信を示すことにあっただろう、ただ、これから先は、騎士団を加えた本格的な戦力との戦闘になると考えられる。
規模や人数はそう変わらないだろうが、トリヴォニアに兵を捻出させることで、兵種の増による戦術幅を拡げてこられる恐れがあり、弓兵や銃兵を出されればかなり危険だ。
トリヴォニア側でも、虎の子の竜騎兵や魔法銃兵はまだまだ秘匿にすべしという状態であるため、まだ出てこないと考えているが、もし、出てきた場合は尻尾を巻いて逃げるしかない。
できる限り街に出入りし、情報を集めながら更に西へ向かう。
トリヴォニアからは近くの騎士・貴族から兵を集め、ヴィリニュスからも、幾らかの兵が来るらしい。
残念ながら、場末の宿場町ではヴィリニュスからの情報はそんなに多くはない。
兵種も含めて情報が欲しいが、無い物ねだりしても仕方がない。
兵の場所が判明しただけでも良しとしておこう。
また別の宿場町で宿をとり、今度は包囲される事となった。
二階から見渡すと、思い思いの格好をした荒くれにしか見えない集団が建物を包囲し、遠巻きに弓兵と騎兵が控えている。
騎兵は追撃の為の備えだろうが、こちらは全体的に装備も良い。
何人か聖騎士も混じっており、彼らが指揮を執るのだろう。
既に黄昏時になっており、細かくは見えないが、総数は50人は超えると思われる。
さて、そろそろ火をかけて炙り出そうとする頃か。
「下に侵入してきたか、いや、封鎖したか。」
二階から飛び出せば、弓兵から狙い撃ちにされそうだ。
封鎖された一階から正面切って突破する方が良さそうだ。
「正々堂々と出てやるか。」
一階に降り、正面扉をから姿を現すと、正面には弓兵が離れて配置され、パレードの観客のように歩兵達が配置されている。
弓兵での攻撃でまずは弱らせたいのだろう。
俺達の姿を見るとともに、無数の矢が飛んでくる。
「右を頼む。」
ガロンに声をかけると、エリーナに渡した物と同じ仕組みの風の防御壁の魔法を発動させる。
「クリムゾン・フラッシュ。」
閃光弾を兼ねた火球を正面に作り出す。
飛んでくる矢も全ては焼き尽くせず、幾らかの矢がフロートバックラーに防がれる音が聞こえる。
「クレイモア。」
閃光弾で目をやられた左側の兵達に魔法を射掛ける。
全員、目を抑えているし、それなりの装備だから、致命傷にはならないだろう。
もう一発クレイモアを放ち、駆け抜けるが、何本かの矢が飛んできていた。
ここからは、全力で駆け続ける。
弓兵は射程距離を取っていたため、俺達には追いつけない。
敢えて森に向かわず平原を駆ける。
騎兵が猛然と追ってくるのを、足を止めてクレイモアで迎撃する。
全方向への攻撃なので、馬によく効き、落馬が相次ぐ。
ただ、騎兵達は分けて布陣していたため、時間差で絶え間なく相手をしなければならない。
人型でもガロンの足が速すぎて、すぐに俺を追い抜き、速度を落として殿に戻る事が何度かあった。
そうこうしている間に、何とか追撃を振り切る。
踵を返し、森に回り込み、一旦休憩をとる。
ガロンの背が血に濡れていた。
騎兵に混じっていたマスケットにやられたらしい。
銃弾を抜き、応急処置をする。
麻酔も無いため、かなり痛い筈なのだが、呻くだけで堪えてみせた。
俺なら泣き喚いていたかも知れない。
消毒用のアルコールぐらいは用意してて良かった。
休憩を終了し、すぐにまた駆け始める。
海辺の町に着くと、まだ、夜が明け始めたばかりなのに、意外と活気のある場所だった。
商船の中継地点となっている町で、目的は商船だ。
半ば商船を脅して借り切り、西へ向かう。
一応、損失分は保証してやっている。
目的地はヴィリニュスだ。
こちらから攻め込んで、奴の喉元にナイフを突きつけてやる。




