戦後処理と思い付き
『ゼラニウム』を出て、店に向かう。
先の戦いで出た負傷兵達は応急処置を終えた後、ルヒの病院で本格的な処置を行い、入院させていた。
リトヴィンでは開戦しないままグロニスク側は戦意を喪失し、派兵を取り止める。
グロニスクからの直接的な干渉が消えた為にヴィリニュスの内政干渉が目立つこととなり、反体制側からもヴィリニュスへの反発が起こり始め、内乱自体も下火になっていった。
捕虜扱いとなったグロニスク兵の扱いに困る事となった。
当初は俺個人として交渉していたのだが、海賊行為を犯した犯罪者扱いだとして、こちらで処罰しろとの一点張りであった。
結局、公式な外交ルートから、軍部の海賊行為として訴え、補償を引き出す事にしたのだ。
焦げ付きそうになっていた『慈悲の家』の資金もなんとかなり、落ち着き始めた。
「四肢欠損の重症者の死亡率が三割程度とは。軽症者の回復も早いな。」
クラモの宿屋でヨハンと話をしている。
『慈悲の家』の活動報告だ。
医療技術の向上の必要性を認めさせ、理解と支援を得る必要がかるからだ。
「当日の死亡を除けば、死亡率はニ割だな。暖かい環境と栄養不足の解消、それに衛生管理の徹底で、これだけの効果が出る。その辺りは、行軍でも同じ位重要なんだがな。薬品、外科手術、設備など、まだまだ改善すべきところはある。」
「解決すれば、まだ伸びるという訳か。四肢の欠損を治す事もできるか。」
「いや、俺の生きていた時代ではまだ無理だったよ。それはいつになるか分からんな。そういや、怪我を回復するような魔法を聞いたことがないな。」
「処女教会の神の奇跡の話ぐらいだな。」
「戦場となった病と怪我に溢れる街を救った話だな。」
「そう言えば、魔人は腕を斬られても、生えてくるらしいな。」
「プチャーチンは千切れたままだったぞ。」
「噂だけか。あと、戦略として、負傷に留めるというのは、効果的だったようだな。」
「ああ、その為に、地雷など非人道的な兵器も開発されたがな。」
「今の技術でも充分作製できるんだろ。」
「民衆を犠牲にするのならばな。」
「大丈夫だ。手は出さんよ。」
「ところで、独立の話は進んでいるのか。」
「いや、民主化を見据えたお前の話があったから、躊躇うところもあるしな。」
「その辺は、独立後にゆっくり考えていけば良いと思うんだが。」
「あと二年もあれば、充分な国力が蓄えれる。」
「そうなれば、自然と動き出すかな。」
「気になるなら、お前が団長に取り入って、動かせば良いだろう。」
「外国人が入り込むのは、後々、禍根が残るだろうし。」
「何をやっても批判は出るだろうし、変わらんような気もするが。」
「自分達でやりきって誇りを持つのは大切だろう。俺の価値観はこの世界とはかなり違うし、押し付けなんてしたくないし、変化を受け入れられる速度というものもあるだろう。」
テーブルに並べられた料理に手を付けるが、まだ中世の域を超えていない。
ただ、砂糖の解禁に伴って、甘味が増えたのは喜ばしいと思う。
実のところ、料理に砂糖が使えるようになった方が嬉しかったりするのだが。
「そうだ。近々『慈悲の家』で、産院を作りたい。グロニスクからの補償がまだ幾分か残っているうちに手を付けたい。」
「『産院』とは一体何だ。」
「出産する為の施設だ。」
「何故、そんな物が必要になる。」
「産褥熱を防ぎ、女性の死亡率を下げる。それと、子ども達の養育に必要な知識を付けさせ、生存率を上げていく。」
まだ、一般的に多産多死であり、充分に改善していく必要がありそうだったからだ。
衛生管理の徹底により、産褥熱を防止すれば、産婦の死亡率も大幅に減ずるだろう。
「さすがに、病院とは違って、このまま客が来るとは思えないから、動いて欲しいんだが。」
「産院利用の奨励か。」
「ああ、そうだ。まだ、乳幼児の高い死亡の症例や原因を詳しく調べられてないが、産婦との繫がりがあれば、調査も進むだろうし。最終目的は乳幼児の死亡率の低下だよ。」
「そう言うことか。文官と調整しておくよ。具体的なスケジュールができたら、声を掛けてくれ。」
「ああ、『慈悲の家』の事は、ライマに任せてあるから、今後は彼女に行かせるよ。」
「分かった。」




