対決
ガロンが駆ける俺を見つけ、追い付いて来る。
「次は、どうする。」
「奴の気配は。」
「まだ遠い。」
「遠いが、来てるってことか。なら、目印の花火でも上げてやるか。」
接岸しようとしている船に対して、クリムゾンを放つ。
赤色を意味する名前を付けた魔法が改良で白い炎になってしまっているが、もうそれで慣れてしまっているので、今更変更可能する気は無い。
俺達を見つけた兵が集まってくる。
散弾で足を止めた兵をガロンが腕や足を刈る。
あっという間に苦しむ人間で足の踏み場も無い。
「一旦退くぞ。」
ブービートラップを把握しているガロンに続いて森を抜けて体制を整える。
背後から悲鳴が断続的に聞こえる。
「奴が来たぞ。準備は出来ているんだろうな。」
「後は心の準備だけだな。」
開けた場所を目指す。
「来て欲しかったんだろ。」
上空から声が聞こえる。
「いいや。」
既に銃は最大威力の通常弾がセットされている。
三発中、一発が当たり、黒い穴を穿つ。
黒炎の球が返ってくる。
躱し、更に銃を撃ち込む。
紫電が俺を襲う。
「クレイモア。」
更に銃で足止めし、火球で迎え討つ。
「クリムゾン。」
「貴様ぁ。」
撃ちながら、距離を詰める。
人を捨てた黒い悪鬼とも言うべき者と改めて対峙する。
左手から拭き出す黒炎を左に跳んで避ける。
恐ろしい速度で懐まで踏み込まれ、空中を掻く手を銃でいなしながら、しゃがんで躱し、距離を取る。
既に銃を離し、懐からスローイングナイフを取り出して投げる。
電気の炸裂音がするのも確認せず、間髪開けず、二本目を投げる。
刺さった刃が身体の内部からクリムゾンと同じ火球が肉体を焼く。
「このぐらいなら、ガロンに任せても良かったかな。」
激しい腐臭が辺りを満たす。
「死体人形というところか。」
一旦、退いていたガロンが戻ってきている。
「さて、本物はそろそろかな。」
「来るぞ。」
ガロンに言われるまでもなく、前に感じた圧倒的な威圧感が近づいてくるのが分かる。
「なんだろうね。本能かな。俺にも分かるよ。」
飛んでくるかと思えば、森の中から気配がする。
「人狼族は作戦どおりグロニスク兵の襲撃を開始してくれ。」
「分かった。」
それだけ言うと、奴の気配の反対側の森に下がる。
発現した新魔法のトリガーを左手に持つと、幾つかの盾が周りに寄ってくる。
危険を感じ、大盾を呼び出す。
巨大な紫電が真横から飛んでくる。
小盾も同様だが、圧に押されないよう、爆発力で対抗するようになっている。
その為、これらは一撃の使い捨てとなっている。
ここから使う全ての魔法は対プチャーチンに合わせたものである。
「人間風情が。」
涼しく通るその声は場違いな印象を与える。
「見た目はガキだが、実は何百歳とかか。」
「見た目とそう変わらん。これ以上の邪魔はさせん。」
10メートル以上の距離を一瞬で詰めてくる。
これ以上近ければ、もう反応できない可能性がある。
抜き手を躱し、カランビットでその肘辺りを下から突き上げるが、固い手応えしか感じられない。
帰ってくる手から逃げるために大袈裟に飛び退く。
正解だった。
最早、生き物としての動作速度は大幅に超えており、躱すかいなすかだと、貴重な盾を一つ消費していただろう。
「自走砲。」
飛び退いて崩した体勢を整えながら、そう唱え、左手のトリガーを引く。
自動追尾・照準機能を持った砲台だ。
さすがの人外も砲弾を躱すことはできなかったようだ。
体勢が崩れるのを見て更にトリガーを続けて引く。
20メートル以上距離を開けて様子を見る。
服はもう無く、裸体となった魔人が立っている。
左腕は防御に使用したのか千切れ、黒炎か溢れる闇のような瘴気が千切れた腕から立ち昇っている。
「この状態で聞くのも悪いんだが、お前達魔人は一体、何が望みなんだ。」
もう、咆哮しか返してこない。
紫電と黒い炎弾が無数に飛んでくる。
炎弾は距離を取っていたのもあり、飛翔スピードはまだ目に見えるレベルであるため、なんとか避けることはできる。
しかし、紫電は盾を小盾の数を着実に減らしていく。
銃を構え、撃ちながら距離を取るが、徐々に追い詰められていく。
また、恐ろしいスピードからの踏み込みで、小盾の爆発音が二回響く。
爪と蹴りだったが、蹴りの方は全く知覚できていない。
小盾は威力を相殺し切れず、後に飛ばされる。
倒れず踏み止まった目前に姿が見えた。
大盾の爆発音を聞く前に、右側に踏み込んで、脇腹を蹴り込む。
と言うより、蹴って後方に飛び退く。
もう、盾も弾切れ近く、かすりでもすれば死に直結する状況は神経を磨り減らす。
「自走砲。」
トリガーを二回連続で引く。
咆哮と共に一発分の砲弾は消されたようだ。
「白鯨。」
対プチャーチンに用意した決戦用魔法だ。
爆破式鉤と高圧電流の機能を持つ平頭銛がプチャーチンに襲いかかる。
準備できている捕鯨砲台は三基。
着弾の煙で確認できないが、二発を撃つ。
土埃が収まりかけてきたところ、シルエットでは、一本の銛しか刺さっていないようであったため、最後の銛も打ち込む。
距離を取れるだけ取り、魔本から自走砲を呼び出す。
小盾があと一枚だけだが、盾の補充は行わず、銃を右手だけで構え、近づく。




