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戦へ

 年が明けてから、グロニスクの動きが慌ただしくなってきた。

 グロニスク商人のニコライも、ドヴィナ川が通航制限されるため、こちらには暫く来れなさそうだという。

 グロニスクとリトヴィンはトリヴォニアの南側で繋がっている。

 ドヴィナ川は、上流ではトリヴォニアとグロニスクの国境となっているが、下流はトリヴォニアを流れている。

 海側の各国との貿易は、トリヴォニアの北東の港を拠点としていた筈で、ドヴィナ川を押さえることは、トリヴォニア対策以外に考えられない。

 単にトリヴォニアの動きを警戒しているだけなのか。

 注意しておく必要はあるだろう。

「そういや、奴に会ったぜ。」

「アンタが直接グロニスクに売り込みに来るって話に喰い付いてきたぜ。」

「ほう、本人がか。」

「ああ、根掘り葉掘りって感じだったな。」

「店の事も聞かれたか。」

「ああ、そうだな。どれくらい店にいるかとか聞いてきたな。どんな因縁があるんだい。」

「ちょっと旅先で奴と喧嘩してな。」

 念の為、容姿を聞いておくが、やはりガランドで戦った魔人はプチャーチンで間違い無さそうだ。

「ところで、抱きたいと感じたか。」

「男には興味が無い筈なんだがな。」

 男でも惹かれるという噂は本当だったようだ。


 ニコライが帰った後、自室でバルクライからも話を聞く事にする。

「状況からすると、奴の注目の的ですね。寝ても覚めて貴方の事ばかりですかね。」

「もてるのは、俺じゃなくて奴の専売特許だよ。そう言えば、グロニスクでドヴィナ川が通航制限されるらしい。」

「もう、狙い撃ちですかね。」

 狙い撃ちで、妙案が浮かんでしまった。

「それも良いな。」

「あれ、戦争はお嫌いではありませんでしたか。」

「その筈だったんだがな。」

 俺に執心してくれるなら、面白い事が出来そうだ。

「リトヴィン国境周辺のグロニスクの工作は完全に空振りに終わったようです。」

「砂糖とじゃがいもで、農家がにわかに景気が良くなっているからな。」

 リトヴィン内戦にかこつけ、トリヴォニアに対し、農家の反乱を触れ回る者がいたのだ。

 国力を削ぎながら、付け入る隙きを作っていく、よくある戦術だ。

「ヴィリニュスの動きが全ての中心になるだろう。リトヴィンを中心にした大戦なんて、起こさせたくない。お前はどう思う。」

「トリヴォニアにとって、今では無い。とだけ。」

「なら、決定だな。マリスの抑えと情報操作は頼んだぜ。」

「ヨハン様と直接話をされますか。」

「分かってるねえ。その前にガロンと話をしないとな。」

「彼に何をさせる積りですか。」


 店に戻り、ガロンと話をする。

「俺は、あの魔人に目を付けられてるから、いずれ相まみえることになる。そこで、誘き出してやろうと思ってるんだ。この戦いに勝てれば、大きな戦争を止める事ができるし、人狼族がトリヴォニアの森に戻る交渉ができる。」

「勝算はあるのか。」

「確実に勝てるとは思わんが、負ける喧嘩はしない主義だからな。一族の協力は取り付けられそうか。」

「我らの誇りと故郷を取り戻すことのできる戦いだ。恐らく男共の協力は得られる。我ら一族、魔人相手でも雄々しく戦ってみせよう。」

「いや、奴の相手は俺だ。付いてくるグロニスク兵の相手を頼みたい。」


 すぐにクラモに戻り宿屋でヨハンと落ち合う。

 魔人プチャーチンとグロニスク軍をドヴィナ川に誘い出して、俺と人狼族が迎え討つプランを説明する。

 騎士団には、立ち会いと負傷者の収容を依頼する。

「ほう。聞けば面白そうだが、現実味に欠ける話なんだが。しかも、この季節だぞ。」

 グロニスクもトリヴォニアもこの季節は雪に被われ、行軍なんて通常は考えないのである。

「今回は俺と人狼族のみ動く。人外達の戦いは、騎士団は立ち会いしてくれればそれで良い。」

「しかし、わざわざ何故そんな危険を負う。」

「俺はもう、奴に目を付けられてるからな。遅かれ早かれ、決着を着ける必要がある。前に出なきゃ、クラモが戦場になる可能性もある。」

「大体、乗ってくるのかも分からんじゃないか。」

「リトヴィンの内戦でも、それに乗じてトリヴォニアにも工作をかけている。そして今、ドヴィナ川が航行規制がかかっている。」

「こちらの動きを警戒しているだけじゃないのか。」

「商船や漁船の徴用が始まっている。」

「ケンジ殿がグロニスクへ向かうという噂を流してからですけどね。」

 バルクライが口を挟む。

「まさかそこまで喰い付いてくるとは思わなかったよ。」

「かの魔人を倒すには、相当の戦力が必要でしょう。国力を使わず撃退できれば、儲けものとは思いますが。それに、今後、国として独立を考えるなら、新部隊の拡充と軍組織の編成が終わっていない今のタイミングで、トリヴォニアは戦争に巻き込まれない方が良い。」

「対価は人狼族を森に住まわせる事か。」

「あと、森を守る事も要求する。」

「教会をどう黙らせるか。」

「今回の戦果は極秘の取り扱いにし、何かあれば騎士団の手柄として、俺達の存在は表に出さない、というところでどうかな。」

「そちらに旨みはないんじゃないのか。」

「俺は火の粉を振り払う、人狼族は故郷を取り戻す。俺の中では釣り合うかな。」

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