情報機関会談
校正や編集してるうちに、魔法の名前の由来の部分を消してしまっていたので、追加しました。
ケンジはあまり魔法の名前に拘りはありません。
情報機関のトップ会談の日が近づいてきた。
北側のロスギレの首都、ガランドで行われる予定なので、今日から船に乗る予定である。
護衛として、ガロンとバルクライだけを連れていくことにしている。
実務と戦闘のトップだから、充分だろうし、元々、衝突が起こる想定もない。
二人を従えて、定期船に乗り込む。
バルクライは普段の冷静な表情を崩していなかったが、ガロンは船酔いで甲板から離れられないでいた。
陸路を使えば二日も船に揺られないで良かったが、船旅がしてみたかったことが無かったとは言えないが、最短経路であったからだ。
徒歩で近い海峡まで向かってそこから船に乗れば、四日程度かかる。
船旅の一番の難点は湿気から逃れられない事と船酔いだろう。
フェリーと釣り船という両極端なものしか乗ったことが無かったので心配だったが、意外と平気だった。
ガロンを見ていると、酔わない体質で本当に良かった。
ガランドに直接着き、宿屋でゆっくり過ごす。
ガロンも半日ぐらいで、ようやく落ち着いてきた。
会合は明日なので、晩飯は、有名な店でとろうと話をしていたところ、ガロンが警戒をするように言ってきた。
相当、高位の魔物が潜んでいる気配がするとの事だ。
宿で夕食を済ませ、この都会の真ん中なのに、男三人で一部屋に集まり見張りを立てながら寝ることになった。
翌朝になっても、ガロンは警戒を解かない。
結局、会合まで宿に篭り、時間に間に合うよう会合場所として指定された貴族の屋敷に向かう。
ガロンからの忠告により、全員完全武装で屋敷に向かう。
因みにガロンの鉄の爪は、エルネスツが間に合わせ、再生の魔法術式を施した新型となっている。
会合場所に近づくとともに、ガロンの警戒が強くなる。
「まさか、会合の中にその魔物とやらが紛れてるのか。」
「いや、今は屋敷の外だ。」
罠か何かなのか。
「バルクライ、済まないが、状況を見てきてくれないか。俺と護衛は遅れてると報告する体で。」
「分かりました。」
予備のペンダントをバルクライに渡す。
「ライマのブレスレットと同じ物だ。何かあったら必ず逃げて来い。死ぬんじゃないぞ。」
バルクライが着く頃には会合が始まる時間になった。
一人の男が正門に向かうのが見えた。
黒い法衣を纏った若い男だった。
「奴だ。」
ガロンが言う。
正門の守衛に囲まれたと思うと護衛は二人とも崩れ落ちた。
どうする。
ガロンの言うには、災害レベルの化物らしい。
しかし、このまま、バルクライを見殺しにはできないし、行く先には殺戮しかない。
「俺は行くわ。」
愛銃ロストナンバーのカートリッジを実銃威力の散弾にセットし、魔本のページを開いて進む。
「恩人を見殺しにするような、一族の恥晒しではない。」
ガロンも鉄の爪を両腕に装備し、後を追ってくる。
倒れる守衛からは、血の匂いがした。
会場は二階のホールだ。
入り口の扉にも既に遺体が転がっており、それを超え、二階の会場に向かうと、ホールの扉が半開きになっており、炎が見えた。
流れ弾は許してくれ、そう思いながら、法衣の男の背中に向かい、散弾を連射する。
見えた炎はバルクライの防御魔法だった。
引き金を引くごとに法衣がズタズタになっていくのが見える。
しかし、倒れない。
法衣の下に黒い外套が見えた気がした。
「バルクライ、大丈夫か。」
炎が落ち着いた向こうに片手を上げたその姿が見え、背後の者を射線に入れないように誘導し始める。
突然、咆哮があがる。
更に距離を取り、散弾の引き金を絞り続ける。
「お前は何者だ。」
声は男のようであるが、性別の不明瞭な顔が怒りで歪んでいる。
その額には、角らしき物が見えた。
「クリムゾン。」
魔本に持ち替え、魔法を発動させると、白化した火球が法衣を包む。
元々は赤い火球を作り出す魔法だったのであるが、威力を上げる改良しているうちに、炎が白くなったのであるが、名前は変えずそのまま使っている。
面倒なのと良い名前が思い付かなかっただけである。
法衣の上半身部分は瞬時に燃え尽きるが、着ていた者はまだ倒れず、出来た火傷が目に見えるスピードで治癒していくのが見える。
咄嗟に距離を取り、立て続けにクリムゾンを三発撃つが、二発しか発現しない。
黒い何かで防がれて当たらなかったものの、距離をとって次の準備をする時間を稼ぐ足止めにはなった。
周囲のマナが不足した可能性を考えながら、ロストナンバーのカートリッジを替える。
通常弾の炸薬の量を最大まで調整したものだ。
散弾でのダメージがあまり見えなかったのだ。
使う気は無いと言いながら作ってしまった物だったが、使う時が来てしまうとは。
銃口を上げた時には、相手は眼前に迫っていた。
まだ死ぬ気はないと、後方に倒れ込みながら引き金を引くと、不意に視界が開けた。
ガロンが弾き飛ばしていたのだ。
敵の移動能力は常識を超えている。
銃のみで対応するのは難しいと思い、銃を左手に預け、膝で立ち上がりながらスローイングナイフを立て続けに投げる。
魔法術式を組み込んだものを何種類か用意しており、雷の術式を組み込んだものを中心に投げる。
外れたスローイングナイフが壁で炸裂しているのはご愛嬌だ。
威力が乗らなかったものは、弾かれて床に落ちている。
なんとか一つは雷の術式が発動したようで、身体をのけ反らせた。
後は、銃を撃ちまくるだけだ。
左手に預けた銃を右手に戻し、連射する。
後ろの壁にもそれなりの数の穴を穿ってはいるものの、一定数命中はしている。
肩口や胸にも傷口が増えていくのが見えるが、黒い穴が増えているようにしか見えない。
いつの間にか、衛兵達が敵を取り囲むのが見え、銃で武装している者は加勢してくれている。
相手に集中しすぎて、周囲の状況が全く見えておらず、俺の背後にも展開していたことにようやく気付いた。
この場で生き残った者の他に、応援に駆けつけている者も増えてきており、30名以上は集まっただろうか。
腕を振るのが見え、黒い炎弾が俺に向かってくるのを横に飛び退いて避ける。
俺の後ろに立っていた衛兵の上半身は無くなっており、壁に穴を開けて黒い炎が燻っているのが見えた。
「貴様、異国の者か。トリヴォニアだな。覚えておくぞ。」
衛兵に紛れて立とうと転がる俺を指差してから、腹の底を震わせる声で咆哮すると、窓側に立っていた数人を掻いで薙ぎ、窓から飛び出す。
奴が去った後、緊張と恐怖から開放され、会合の参加者だけでなくかなりの数の衛兵達も崩れるようにその場に座り込んでいる。
「ガロン、助かったよ。」
「魔人相手で何とか生き残れたな。」
「まあ、思いっきり不意討ちだったからな。」
一方的な虐殺と思ってバルクライ達を狙っている背後からの急襲しているのだから当然だ。
文字通り、気の抜けた会話を交わしながら、バルクライを探し始める。




