収束
医薬品や物資の調達などの手配、薬剤師等の募集、喜捨の整理と配布、炊き出しなど、店の従業員達は膨大な事務を見事にこなした。
俺の店の従業員であることを示す、腕に巻いた花柄のスカーフは、流行発生から一月経つ頃には、クラモ周辺では誰もが知るものとなった。
職業柄、表に名前は出せないだろうが、世間には良い印象を与えながら名前を売ることができただろう。
実際の治療については、まだ、医学というものが確立されていないため、各患者の投薬、処置などの記録を蓄積し、それを元に処置方法を見直しながら作成、共有する事で対応していった。
結局、ウィルス性の感染症だから、予防以外は対処療法を続けるしか無い。
天然痘の流行は収束に向かっており、今後の対応を考えた時、今回組織した福祉医療団とも言うべきものをこのまま事態の収束と同時に解体することは惜しく思われた。
クラモ近郊に点在する隔離施設の巡回を終え、店に戻ると、この団体を発展させて新たな団体を作る相談をするため、バルクライからヨハンへアポイントをとってもらうよう依頼する。
それから、恢復したライマの部屋に向かう。
発症から六週間経ち、完全に水疱も無くなって、感染の危険も無いと判断し、『秘密の花園』の自室に戻している。
従業員の半数は店に戻っており、既に営業は再開しているが、程々の活気といったところで、特に『秘密の花園』の方はまだ客足が戻っていない。
それもあって、ライマは今のところ『秘密の花園』にある自室を充てている。
顔に痘痕が残り、もう復帰は不可能だというのが店の者の大方の意見であり、本人もそれを覚悟して沙汰を待っているようだ。
個人的な感想だと、今のところは、痘痕が赤く生々しいがいずれは落ち着くと思うし、そこまで気にはならない。
だが、商売柄、商品として彼女らを見るのであれば、ライマはもう終わりと見なければならないのだろう。
彼女を本気で口説こうとする騎士や貴族はかなりいた。
店に来てから、店一番の美貌を鼻にかけず、読み書きや算術の勉強を最も熱心にし、客となる貴族や騎士と充分に会話ができるよう努力を続けていたからだ。
天然痘という病魔は健康だけでなく、彼女の女性としての自信を、これまでの努力の結果を根こそぎ奪っていったのだ。
それを分かっていながら経営者として彼女に酷な通知を行わなければならない自分を恨めしく思うが、自分で選んだ道ではある。
ノックをすると、気怠そうな返事が聞こえたので、入室する。
ライマは部屋の奥に置かれるベッドに身を横たえていた。
俺はそのベッドに近づき、身振りで座る許可を取る。
返事は無いが、そのままベッドの横に座り、来週を目処に部屋を移ること、裏方や給仕以外にしてほしいこともあるが、それについては、後日話をすることを告げた。




