街へ
前話に引き続き、投稿を前倒しします。
以後は一日一話を目指します。
今頃になるが、改めて状況の把握を行うことにする。
男の子や文官らしき男も、中世のヨーロッパ風の風俗である。
両手を挙げたまま、大人しく護衛の騎士に剣を突きつけられることにして、状況を伺うが、言葉が分からない。
彼らも困惑の表情を浮かべているので、日本語で声を掛けてみる。
「子供が狙われていたので、助けたのだ。道に迷い、水も食糧もない。街まで連れて行って欲しい。」
言葉が通じないとこを意識したためか、自分で驚くほど、棒読みだった。
暫くその状態のまま、文官と騎士が話をしていた。
数分で話がまとまり、騎士が剣を納め、馬車の方に向かって歩きだす。
「鞄を取ってくる。」
「待って」のジェスチャーをして、急いで鞄を取りに戻る。
鞄を拾ったところで、森の奥に、木々に繋がれた馬がいるのが見えた。
騎士等の乗ってきた馬は二頭いるので、困らないだろうが、高価なものである筈なので、知らせてみることにする。
騎士は、馬具と覚しき革紐で、暗殺者を後ろ手に縛り上げていた。
「あっちに、馬が五頭繋がれている。」
騎士の馬を指差し、五指を開き、森の奥を指差す。
意外と通じるもので、騎士は文官と話をして、馬を引き連れてきた。
また、話し合いが始まったが、どうやら、馬が人数分以上手に入ったための相談らしく、今度は直ぐに終わる。
騎士の遺体と暗殺者を馬車に載せて運び、自分たちは馬で移動することにしたようだ。
騎士の遺体を馬車に載せるのを手伝う。
出発する雰囲気となったところで、同行の交渉をしなくてはならない。
騎士を捕まえ、鞄の中を覗かせ、食べたい、飲みたいのジェスチャーをし続ける。
文官との話し合いと、少年の口添えで、処遇が決まったようだ。
助けた恩を笠に着るのは、不本意だが、一宿一飯ぐらいは、期待してもいいのではないか。
どうやら、馬に乗って付いてる来いと言ってるらしい。
当然のことながら、乗ったことはない。
乗り方が分からないアピールをしていると、騎士が助けに来てくれた。
良い奴だ。
それと、兜は外したままにしていたので、素顔を晒しているが、意外に男前だ。
騎士は自分を指差し、「ヨハン」と名乗った。
そうだ、名前すら聞いて無かった。
現代ですらありがちなファーストネームだ。
自分を指差し、「賢治」と名乗り返した。
男の子を馬車と騎士とで挟む形で馬を進めている。
騎士は余った馬を繋いで引き連れている。
器用なものだ。
馬が賢いのもあるだろう。
自分の乗っている馬もかなり賢くて、出来が良いみたいだ。
殆ど、何もしなくても馬車に付い歩いてくれている。
速足ぐらいの速度で、もう、数時間駆け続けている。
ただ、何もしなくても、疲れる。
良い姿勢を保たなければ、怖いし、普段使っていないところの筋肉を使っているようで変に疲れる。
そういえば、そんなダイエット器具が一時期流行っていたが、まだ売ってるのだろうか。
大人の俺が疲れているのにも関わらず、男の子は疲れた素振りを見せない。
慣れているのか、気丈なのかは分からないが、どちらにしても、大したものだ。
多分、三時間は走っていたと思われる。
日の高さから、もう15時は過ぎているだろう。
職業柄、時間は24時間表示が標準だ。
不意に明るくなり、目の前が開ける。
森を抜けたのだ。
そこには、「草原」が広がっていた。
初めて見る景色に圧倒される。
左手は、草原の縁を森が飾っており、右手や前方はなだらかな起伏が地平線を成しており、所々に濃い緑のアクセントがある。
こういう所に、野生の馬がいるのか。
何となく、納得してしまった。
しかし、そこから更に、一時間弱は走ることになった。
疎らに何か所か畑らしきものが見えた。
そう思っている間に、所々、人家が入り交じっているものが見え、前方に城壁にかこまれた街が姿を現してくる。
あまり海外旅行はした事がなく、城門都市なんて、初めて見る。
しかし、思ってたものとは違っていた。
石積みと塔で造られた壮大なものを想像していたが、正面は石積みと漆喰で造られており、城門の上は、窓が列んでいる。
右端の方は、石積み土台と煉瓦だ。
じっとよく見るとちぐはぐのように思えるが、一つの街並みに見えてくる。
衛兵がこちらに気付くと、騎士に近づき話し掛ける。
思ってたいた通り、それなりの地位の人間らしく、衛兵は大仰に返事をしている。
一旦止まったが、直ぐに進み出す。
城門を抜けると、広いメインストリートがあるが、真っ直ぐではない。
建物は、二階、三階建が並んでいるが、様々な色の建物が並び、統一感はないが、嫌いではない。
暫く進むと、突き当たりは広場になっており、露店が列んでいる。
広場の突き当りに見える白い建物は、三階建の地味な、役所にしか見えないものだが、角に塔が付いてる。
その塔も、手前は丸いが、向こう側に見えているのは、四角く、赤い屋根が付いてる。
その建物の正面に回り込む。
回り込んだ、地味な建物の向かいには、白く美しい聖堂が見えた。
玄関の門は、衛兵の立つボックスが、あるので、辛うじて正門と分かる造りで四、五人の衛兵がおり、こちらの姿を見て、駆け寄ってきた。
騎士が馬から降りたので、倣って降りる。
馬車はそのまま中に入って行ったが、騎士は馬を衛兵に渡していたので、同じように、別の衛兵に渡す。
男の子は、少し中に入ってから馬を降りるようだ。
騎士らは、何処かに消え、衛兵に案内され、客室に通された。