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集落へ

 危ない橋、いや、綱渡りだ。

 こんな事ばかりじゃ、幾つ命が有っても足りないと、自戒してみる。

 こちらの世界に来てから、箍が外れているという感じだ。

 家庭も仕事も無ければ、元いた世界でもでもこんな感じだったのだろうか。

 その場にいた人狼はガロン含め六人で、いずれも若い雄のようである。

 ガロンの部下に処置をしてもらい、安静にしている。

 ガロン自身も左手に布を巻き、応急処置を済ませてある。

『もうすぐ、動かせるようになる。我等の村に招待する。』

「いや、それより貴方の傷の方が心配なのですが。」

『舐めていれば治る。』

 そんなことで治る筈がない。

 刃は手の甲に数センチ食い込み、筋を断っているため、生活にも支障をきたすものである筈だ。


 夜が明けるまで待ち、道を少し戻り、森の中を進んでいく。

 簡素な小屋が立ち並ぶ集落が見えてきた。

 集落に入る人間に対する奇異や怨嗟の視線や声が入り混じり、騒然としている。

 ガロンに引き連れられ、遺跡のような建物の入り口に立つと、ガロンが大音声を上げる。

『ガロン、只今戻りました。長老、客人を連れて参りましたので、お目通り願いたい。』

 隣に立っていたので、鼓膜が震える。

 老婆が現れると、ガロンが頭を垂れるので、それに倣う。

 見た目は人間の老婆にしか見えないし、着ている服も人間とは変らない。

 老婆は目を細めてガロンと俺を見比べる。

「初めまして。私は人間のケンジ・スズキと申します。こちらは同じく人間のカルルです。」

 ペンダントのトップを握りながら挨拶をする。

「私はリリイ。この群れの長老というか、相談役だね。」

 トリヴォニアの言葉が返ってきた。

「トリヴォニアの言葉をご存知なのですか。」

「私達は元々、その辺りに住んで居たからねぇ。」

「色々と伺いたい事がありまして、お邪魔させていただいたのです。お願いできますでしょうか。」

「そうだね、中で座って話でもしようかね。」

 そう言って、遺跡に招き入れられる。

 手前の部屋しか使っておらず、雑然とした床には板と藁が敷かれており、その上にガロンと並んで座る。

「私は今のところ、トリヴォニアの騎士団には直接関係はしていない立場におりまして、あなた方や魔族と呼ばれる方々と、交易であったり、交流ができぬものかと、調査に参りました。ただ、存じ上げておらなかったのですが、元々トリヴォニアに住まわれておられたとの事で、確執等があるのであれば、無理は言いませんが、その経緯だけでもお伺いさせていただけますでしょうか。」

「いいわよ。でも、そんなに、畏まらなくてもいいのよ。」


 おおよそ六十年前、トリヴォニアの森に住んでいた彼らを開拓が追い立てた。

 騎士団と処女教会からの弾圧に遭うこととなる。

 折しも冷夏が領土を襲い、農奴との共闘となったが、農奴達に対して処女教会の懐柔や謀略により中立を保っていた精霊師達とも対立するようになり、トリヴォニアを追われる。

 リトヴィンには湿地が多かった事もあるが、彼らは迫害を受け続け、このシニー・ホラへ流れ着いた。

 当時の事を知るのは、今はリリイしかいない。

 彼ら人狼は魔族に属する訳ではないため、魔族との諍いも絶えないとの事だった。

 新天地でも争い続けなければならない状況は、人間に対する憎しみを増し続ける原因ともなっている。

「もしかして、元々、あなた方は森を守る者として、信仰されていたのてはありませんか。」

「その通りだね。人間が森を畏れなくなったし、開拓のために私達は邪魔者でしかないからねえ。」

 人が森を畏れ、敬うから、彼らが存在したのではないか。

 魔族でもなく、動物や人間でもない、かと言って精霊でもない。

 しかし、精霊寄りの人間か動物なのではないかとも思うのだが、後で誰かに聞いてみよう。

「トリヴォニアの森に戻りたいと思いますか。」

 沈黙が流れる。


 その後も色々と聞いてみた。

 彼ら人狼は、リリイのように人型でいることも可能というが、通常、それぞれの姿になるための変態に二月程の時間がかかる。

 マナの力を使い、肉体を活性化させ、半月程度で変態することもできるが、肉体には相当な負担が掛かるた。

 そのため、男は狩りや外敵から一族を守るために人狼、女は生活のために手を器用に使う必要があるため人間の形を採るのが一般的らしい。

 この変態には一つ大きな利点があり、今回のガロンの拳のような後遺症の残るような大怪我でも、変態の代謝により、完治するとのことだ。

 半月後には、怪我を治して人間の姿をしたガロンが見れるというわけだ。

 他に魔族に関する事も聞いておいた。

 魔族は瘴気の影響を受ける者達の総称であり、雑多な種族がおり、種族毎に生態や思想が大きく異なるため、統一性はなく、全体として統制は取れていない。

 瘴気の影響を受けるものは全て人間に対して本能的な嫌悪を持っているため、交渉などは成立し得ないらしい。

 因みに、人狼族は瘴気の影響を受けてはいないため、人間と同じように敵視されているとのことだ。

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