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甘味

 ミッシェの屋敷に、宿屋というより、役所のようなものが建てられていた。

 警備会社に日雇いの仕事を求めて出入りする人間の数が莫大に増える、また、クラモからだけではなく、外からも人が来ることを予想して、助言しておいたのだ。

 また、大きな酒場も備え、荒くれ者達の交流の場や、仕事を探す場ともなっているため、その処理のための執務室も備えてある。

 商人の護衛を主として、様々な依頼があるが、危険に応じ報酬を上げており、一攫千金を目指す者達が続々と国中から集まってきている。

 そのうち、周囲に宿や酒場が増え、ドヤ街の様相を呈するようになるだろう。

 

 前回のじゃがいもに続き、ミッシェの屋敷で今度は砂糖を使った菓子づくりを教えている。

 料理は得意だが、菓子は作れる品数が限られるが、何とかクッキー、シフォン、エッグタルト、プディングのレシピを教える。

 そんなに甘い物は好きではなかったが、久し振りの甘味を楽しんだ。

「しかし、卵の使用が多いな。前から提案されてた養鶏場の設置も早く進めないとな。」

「デザートにも欠かせないけど、卵の低価格化は食文化と栄養情況の改善に大きく寄与するからな。デザート類も今のうち流行らせれば、街の名物にできるんじゃないかな。」

「いや、名物になるだろう。贅の象徴たる甘味を安価に食えるとなれば、いや、クラモで独占すればいい。」

 何故かミッシェがやる気だ。

「貴重な街の文化になり得るよ。」

「それだ、街を上げて普及させ、クラモを甘味の街にする。」

 ああ、ヨハン、お前もか。


 一袋貰い、翌日、店の始まる前に合わせて、いつもコンフィを仕込んでいる窯でプリンを仕込む。

 店の皆に振る舞うのだ。

 カラメルソースは昔何度も、失敗して、試した結果、熱湯で仕上げる方法が良かったので、それをモリスとミアに教える。

 貰ってきた砂糖はあと半分しか残っていないし、高価な卵を使ったため、相当な出費となったが、充分に喜んでくれた。

 客に出すには、卵と牛乳が安定的に供給できないため、現状では難しい。


 『秘密の花園』の宴会場では、コースで料理を出すようにしており、外国から輸入した食器と、国内で制作したシルバーを用いている。

 それが評判になり、本国や特に西方の国外から客人を招く際に、よく使われるようになってきた。

 特に、エルレーン共和国からの客がある時で、城に招かないときは、ウチに来る。

 西方のエルレーンは古い歴史を持つ国ではあるが、都市国家ので形成される共和国で、交易で栄え南方に沢山の植民地を持っているらしい。

 そこでは既にコース料理が相当普及し、平民もフォークとナイフで食事しているとのことで、城外でそれができるのは、今のところ、ウチの店だけだからだ。

 しかし、エルレーンは、どれほど食文化が進んでいるのか、実際見てみたいところだ。


 まだまだ時間が掛かるが、この国の経済、生活基盤は整えられるだろう。

 そして、国として力を蓄えることができれば、独立する事も可能となってくるだろう。

 その時に本国や国外からの干渉を排するための武力も得た。

 次は、民衆が力を付けていくことだ。

 識字率、公衆衛生など、課題は山積みとはいえ、民主主義と近代化を目指すべきなのか、何を求めていくべきなのか。

 多民族国家のこの国で民族間の融和、差別の解消などの課題もある。

 また、産業革命はどのタイミングで始まるのか。

 じっくり、考えて答えを出していこう。

 ただ、気になるのは、ガラス瓶と缶詰とどちらが先に普及したのだったろうか。

 つい、食に目が行くので、食料加工の工業化に思考がいってしまう。

 まだ先の話だな。

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