事の顛末
周りを見渡すと、もう立っているゴブリンはいない。
魔法で倒れたゴブリンへの止めに向かう。
勝鬨は野次馬からあがった。
今更ながら、人間を殺めたことは無いが、それに近しい感触だった事を思い返し、ぞっとするが、人間でなかったと自分に言い聞かせる。
まだ止まる訳にはいかない。
「巣と子供らの殲滅に向かう。」
剣を振り、血脂を落としながら、森へ向かう。
振ったぐらいでは、落ちなかったが、まだ汚れる予定なので、拭かないでおく。
馬に乗ったカルルに案内させ、森の中に入り、巣に向かう。
あばら家とすら呼べない、木々の間に穴を掘り枝や草を被せただけの、まさに巣と呼ぶべきようなものであった。
巣には二匹の腹の大きな雌と五匹の子供がいたが、心を鬼にして始末する。
少し虚しさを抱え、野次馬の歓声に迎えられにいった。
村に戻ると、もう司祭は逃げており、教会はもぬけの殻であった。
教会では、精霊信仰を止め、処女女神を信じれば、教会が魔物から守ると言って布教をしていたのだ。
ついでに装備品を買うためとはいえ、かなりの寄付を要求し、最近羽振りが良かったらしい。
当初は犬や人間を飾り付けて魔物といっていたが、怪しむ村人が増えてきたことから、見世物屋からゴブリンを買い取って森に離したのである。
しかし、ゴブリン一匹ではすぐに足りなくなるので、番を買い、森に離して増やそうとしたところ、驚異的なスピードで殖え、手に負えなくなりクラモの教会に助力を頼んだというのが今回の件の顛末である。
実は、この村にいた精霊にハルが助力を依頼されたのだ。
昨日に教会で祈りを捧げたのは、教会の人間にプレッシャーを与えたうえで、精霊を中に入れる手引きをし、盗み聞きさせるためだったのだ。
宿に戻ると村長らしき人物が待っており、囲む住民とともに事の概要を伝えた。
日も傾き始め、着々と宴の準備が進められており、傍らでは既に勝手に始めている者もいる。
焼きあがった子豚がテーブルに載せられ、本格的に宴会が始まると、人々がひしめき合い、テーブルで奪い合いも始まる始末で、もはや誰のための宴会か分からなくなっている。
そして、俺達の所に村の娘達が集まってくる。
ヤーニスは上手く逃げ、ミハイルとカルルは鼻の下を伸ばしている。
それなりに出来上がった人間が増えてくる頃を見計らい、部屋に逃げ出した。
『ハル、精霊はどうだった。』
『教会の者を追い払ったことに感謝してたようだ。お前の望み通り鍛冶のほうの精霊から、精霊印も手に入れた。』
『ありがとう、ハル。』
翌朝は早く出発し、計画を変更して、真っ直ぐ帰路につく。
店に帰り着くと久し振りの我が家に、安心する。
考えてみれば、もうすぐでこちらに来てから一年になる。
三十も半ばを過ぎた頃から、時が過ぎるのが早く感じるような気がする。
まず、エルネスツに成果を報告し、近日中に銃の試作をする事を伝え、エリーナに客がついていないのを確認して、部屋を訪れる。
「待ってたわ。」
そう言って、抱き付かれるが、軽く口づけを交わし、自分の臭いが気になるので引き剥がす。
「風呂に入りたいな。」
「ご一緒するわ。」
出産祭を過ぎ、気が付けば身体を重ねる関係となっていた。
「一人で洗わせてくれ。」
そう言ったが、結局、風呂の中で洗われながら近況報告を聞くことになった。