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討伐

 一行を連れて、村の外れの森に向かい、途中で馬に乗ったカルルと合流する。

 昼過ぎからの出発だったので、既に首都から来た騎士が討伐に向かうと噂が広まっており、遠巻きに見物人が見える。

「これ、わざとですよね。」

「何が。」

「しかも、カルルに何をさせていたんですか。」

 何となく、惚けてみる。

「それでは、森に入ってみましょうか。」

 森の奥のゴブリンの巣と目される場所に向かおうとした時、教会の司祭らしき男とフルプレートを着た男が群衆を割って出てくる。

「勝手に何をしてるんだ。魔物は危険だ。我々が、教会が退治する。」

 教会の男達が行く手を阻もうとしてくる。

「いや、魔物を見た事が無いので、見物に行こうと思っていただけですが。」

 そうこうしてる間に、緑色の小人達が森から這い出てくる。

 本物は見たことがないが、皮膚は灰色がかった緑で、やや膨れた腹に細い手足が生え、頭髪はなく、醜い形相で餓鬼にも見える。

 もしかすると、餓鬼とゴブリンは同じものなのかもと思いながら様子を様子を見る。

 その数、20体程度で、大きな個体差はないようだ。

 実は、カルルにゴブリンの巣を探し、見かけたら、石を投げるように言っておいたのだ。

「ご、ゴブリンが出てきたぞ。何て数だ。」

「思ったより、増えてるんじゃないですか。」

「な、何を言って、るんだ。」

 ハルがペールコンスから聞いたところによると、ゴブリンは身長は130cm程度、膂力は人に優るが、知能は低い。

 稀に拾ったり、人間から奪ったりした武器を持つものもあるが、大抵は素手で爪と牙で攻撃してくる。

 本能のまま喰らう、奪う、犯すと人間の欲望を具現化したような魔物だ。

 人間の負の気である瘴気から生み出された魔物は本能で人間を憎み、襲うらしい。

「魔物を退治することで、教会への信仰を得ようとし、偽物の魔物がバレそうになったので、今度は本物を使おうとした。」

 灰緑の群れが迫って来る。

 大人の男であれば、全力で走れば、逃げ切れそうであるが、女子供では難しいぐらいの速度だ。

「それで、思ったよりも増えてしまって、手に負えなくなった。」

「ひぃっ、近づいて来た、逃げないと。」

 司祭の胸倉を掴み逃さない。

 とうとう、杖で殴りかかってきたので、崩して這い蹲らせる。

「まさに自分で蒔いた種でしょう。」

 二本足で歩行しているが、前屈みで手が地面に着きそうな姿はチンパンジーを思わせる。

 喉を押さえるが、先ずは強く押さえ、暴れていない時に力を抜いてやると、意外と大人しくなるものだ。

 野次馬もパニックに陥り、悲鳴を上げながら散っていく。

 司祭もゴブリンとの距離が詰まってきたのを見て、本気で暴れ始めたので、しっかりとマウントポジションをとり、一瞬だけ強く喉を圧迫し、動きを止める。

 浮き上がっている額の青筋は蚯蚓ほどある。

「どこで買ったの。」

 力を緩めると、咳き込み始める。

「み、見世物屋、グロニスク、セベシの見世物小屋から買ったんだ。」

「そうか。」

 そう言って、司祭を開放してやる。

「ちょっと、もう何とかしないと本当に危ないですよ。」

 ヤーニスも本気で焦っている。

「いやあ、ミハイルとカルルが魔物退治したいって言ってたんで、ちょっと誘い出してもらったんですが。」

 ばつの悪い顔をしたミハイルとカルルも逃げ腰になっている。

「ヤーニス、魔法とか使えないの。」

「出来ません。一旦、逃げますよ。」

 本当かよ。

「一人、五匹ずつだな。」

 もう少しヤーニスを追い詰めてみようか。

 こちらが武器を持っていたとしても、実際のところ、この数と正面からまともに遣り合うのは、本当に拙い。

 群れは15メートル程度まで迫ってきており、雄叫びがはっきり聞こえる。

 結局、ヤーニスは退却の体勢を崩そうとしない。

「ちょっと待ってて。」

 撤退しようとする周りを引き留め、自分は抜剣せずに、構える。

 茶色い革の表紙の自作のB5版サイズのノートのページを繰り、左手だけに着けたガントレットの状態を確認する。

 ミハイルとカルルは抜剣はしているが、パニック寸前といったところだ。

 左手にノートを持ち替え、ガントレットの親指の付け根に触れる。

「はい。」

 ゴブリンの群れの最前列で爆発音とともに、拳大の尖った石礫が飛び出し、雄叫びが悲鳴に変わる。

 殺傷力を高めるため、石礫を発生させて、爆発で飛ばす魔法だ。

 戦闘中などに使うのならまだしも、戦端を開く場合などは、名前があったほうが締まるな。

 多少、こちらにも石礫が飛んで来ることを思い出して、慌てて皆に声を掛ける。

「すまん。多少石礫がこっちにも飛んでくるぞ。」

 もう既に飛んできており、皆が必死で回避していた。

 しかし、思った以上の成果で、七、八匹が倒れている。

 ノートには攻撃魔法の術式を描いており、ガントレットに周囲のマナを集める術式を彫り込み、ガントレットでノートに触れることで、魔法を発動できるようにしているのだ。

 魔法の発動は、全て10メートル先に設定している。

 ノートのページを繰り、別の魔法を発動させる。

 群れが少し前に出てきたところで、今度は、ほぼ白い火球が発生し、消炭に変えていく。

 攻撃範囲は狭いものの、思った以上の効果があった。

 残りは10匹だが、もう近くまで迫ってきており、魔法の射程距離から外れているため、ノートを懐に仕舞い、抜剣する。

 対人の一対一なら、ナイフを使うが、今回は長物として、差してきたきた長剣を抜く。

 皆の実力は不明だが、ミッシェがそこまで使えない奴を寄越さないだろうと思っておく。

 ジャンプするかは分からないが、されると厄介なので、こちらから突っ込んでいく。

 駆け始めると、カルル、ヤーニス、ミハイルの順に付いてくる。

 先頭のゴブリンを下から斬り上げ、返して右側に袈裟斬り、再び剣を返し、怯んでいる先頭のゴブリンの首を刎ねる。

 袈裟斬りにしたゴブリンの飛び掛かる様子を見て、前蹴りで蹴り込み、長剣を突き刺す。

 すぐには絶命しないので、刃で身体を掻き回す。

 抜くのも、意外とすんなりいかず、左足で身体を蹴り押すようにする。

 更に近づくゴブリンも首を狙うが、頭蓋に当たり、嫌な音と感触が伝わってくる。

 所詮、騎士でも剣士でもない自分なら、こんな物かと見切りをつけつつ、倒れたゴブリンに止めで胸の辺りを何度か突き刺す。

 倒れたゴブリンの後方から、もう一匹迫ってきているのが見える。

 振り回すと隙きが大きすぎると判断し、突く。

 しかし、突いたら突いたで、すぐには倒れない。

 内臓を掻き回しながら突き込むと近づいたので蹴り込んで間合いを取ろうとしたときに、足を爪で掻かれるが、革のブーツに傷を残しただけで終わった。

 倒れたところをまた何度か突き刺して、止めを刺す。

 右翼のミハイル側に対峙する二匹のうち、自分の手前側の背に向かって駆け、袈裟がけに斬り下ろす。

 数が減れば、素手のゴブリンは獣よりは怖くない。

 残りは皆に任せることにする。

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