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人に出逢う

 タイトル修正しました。

 思ったより展開が遅いのに今頃気が付きました。

 まだ書き溜めがあるので、2話分投稿することにしました。


 とうとう、こちらに来てから三日目に突入した。

 激しい空腹に苛まされ、もう、昼からは道端の雑草に手を付ける覚悟を固めていた。

 ふと、思い出した。

 小川には、タニシがいるはずだ。

 再び小川に戻る。

 ジャケットを脱ぎ、下は下着だけになり、川へ入る。

 石の裏には、川蜷がたくさんいたが、食べるところは殆ど無いので、当初の予定通りタニシを探す。

 川の中の大きな石・岩を探す。

 護岸のようには、簡単には見つからない。

 せいぜい2〜3センチ程度の大きさしか無いものが、20個採れたが、寒さに負け、上がることにする。

 川から上がる時に、蝸牛を見かけた。

 エスカルゴと思ってみることにする。

 近くにまだ居ないか探し、取り敢えず、もう一匹見つけたものと合わせ、念入りに洗っておく。

 昨夜火を起こした場所に、枯れ草と小枝を積み、再び火をつける。

 殻のまま火の縁に並べ、枝で炎の上がる所まで押し込み、焼けるのを待つ。

 食べる前に、覚悟をする。

 タニシも蝸牛も泥抜きをする必要があったはずだ。

 沸騰が落ち着いたものから、火から避けて、冷ましておく。

 枝を折って尖らせたもので、身をくり抜き、内蔵部分を取り外す。

 身の部分だけになったそれを、息を止めて、口に放り込む。

 思った通り、いや、それより少しきつい、泥臭さがある。

 えづきながら、嚥下した。


 分かってはいたが、殻ばかりで、腹が満たされる程の量ではなかったが、お腹はそれなりに重くなった。

 ただ、再び歩き出すだけの気力は戻った。

 それを確かめるように、胸一杯に、紫煙を吸い込んだ。

 久し振りに煙草が美味い。


 一旦は、命の危機を脱した。

 ここで誰かを待つか、歩き続けるか。

 燃え尽きようとする焚き火を弄りながら、迷っていた。

 水筒かそれに代わるものがないのは大きかった。

 街まで三日以上離れていれば、今度こそ危ない。

 食糧にしても同じだ。

 歩かない方が命のリスクは大幅に少ない。

 しかし、典型的なリスクテーカーに分類されるであるだろう気性から、それでも歩きたくなってしまう。

 歩かず、待つなら、次に通る人間に通報され、それから数日立ってから、不審人物として連行されることになるか。

 街に行き着けば、行旅人ということで取り調べを受けるだろうか。

 待っていては放置の危険もあるが、どちらが確実で安全だろうか。

 身体に水分が行き渡ったが、普段は水分を多めに摂る体質なので、喉を潤してから考えようとし、その前に道に誰か来ていないか確認してみる。

 遠くに馬車とそれを狙い、行く手を阻もうとする賊の姿を見てしまった。

 ひねもすディスプレイを眺めている仕事なので、眼鏡の度数は落としてあるが、何とか視認できる距離であった。


 様子を伺おうと、道を外れ、森の中から彼らに近づくことにした。

 賊、山ではないから、山賊では無いか。

 そんなことを考えながら、足音を殺し、近づく。

 左手には、杖代わりになる程度の枝がある。

 薪集めの際に手元に残しておいたもので、護身用か杖代わりになるかとおいていたものだ。

 盗賊であれば、身ぐるみ剥げば、落ち着くだろう。

 人を殺して良い気持ちになる人間など、そういない。

 現代のソマリアの海賊も、救命ボートで襲った船の船員を逃がす。

 まぁ、命の危険はあるが。

 自分の手を汚さないですむなら、そうするのが人間だ。

 そう思いながら、距離を詰めていく。


 馬車には騎馬の護衛があったようであるが、今、目の前でその馬が暴れ、後方に人が転がっている。

 賊は声を出さずに、倒れた護衛に向かい、剣を振り下ろした。

 双方ともフルプレートを着込み、襲われている側のそれは、豪奢に飾り付けられている。

 騎士の格好をした、盗賊なんているのか疑問に思う。

 言葉は聞き取れないが、言い合い等は聞かれず、両陣営から指示の怒号だけが聞こえる。

 状況が少しづつ飲み込め、困惑する。


 暗殺だ。


 騎士は既に馬から降りて応戦している。

 護衛は三人のうち、一人は殺られ、残るは二人。

 対する暗殺者は、五人のうち、二人が倒れている。

 馬車もかなり豪奢な造りであるから、それなりの身分の人間が乗っており、護衛も手練であると思われる。

 ただ、暗殺者側も負けてはいないようだ。

 鎧を着けた騎士同士の戦いなんて、初めて見るので、勝手が分からないうえ、こちらは丸腰だ。

 護衛側のリーダーらしき人物が、暗殺者側のリーダーらしき人物を合わせた二人と向き合い、一対二、残りが一対一の構図となっている。

 回避行動が殆どないため、傍目には、若干緊張感に欠けたような、斬り合いが始まっている。

 鉄のぶつかり合う音が絶え間なく聞こえる。

 全力での、鉄の棒での殴り合いだ。

 ただ、突きや首筋などの急所に攻撃が来る時ばかりは、緊張感が張り詰める。

 一対一の方は、余り護衛側が剣を振り回す事も無く、落ち着いた様子で相手の剣を弾き、首元に刃先を突き入れるのが見えた。

 もう一方では、後ろから脇腹に剣を突き立てられたところだった。

 暗殺者側のリーダーが、もう一人に残った護衛の相手をするように指示し、馬車に向かう。

 倒れた護衛の騎士は何かを叫んだ。

 反対側の馬車の扉が開き、鎧を着ていない若くて細い男が飛び出てから、後ろを向く。

 幼い叫びが聞こえた。

 様子を見ていた自分の身体が前に進むのを感じた。


 何をする積りだ。

 こっちは、丸腰だ。

 街の喧嘩とは違う、命の遣り取りの場だ。

 生来のお人好しと格闘技を嗜んていた事もあり、ついつい、街の喧嘩に止めに入ることがあった。

 だが、これは違う。

 降りかかる火の粉でもない。

 暗殺者に見付からないように逃げれば、生き延びれる。

 何もできなくとも、誰も批判などしないだろう。

 逃げても、自分は悪くない。

 一昨日まで参加していたプロジェクトでは、クライアントの機器更新も併せて行う計画中だったため、ゴールデンウィークが狙われたのだ。

 デスマーチ中は運動をするような時間と体力に余裕がない。

 終盤に入ると筋量は落ち、脂肪に変わっている。

 その状態で何が出来るか。

 ただ、見過せば後悔はするだろう。


 若い男が、男児の手を引き、こちらの茂みに向かって来る。

 屈みながら駆けてき来たこちらを見て、若い男は恐怖に引き攣った表情を浮かべ、止まりかける。

 兜越しになるが、暗殺者と目があった。

 もう、引き返せない所まできた。

 手を引かれる男の子は、十歳前後。

 自分の息子とそう変わらないだろう。

 男の子と目が合った。

 アドレナリンのせいもあるだろうが、迷いと後悔は消え去った。


 考えろ。

 絶望的な状況だ。

 限りなくゼロに近い生存率を引き上げろ。

 俺は弱い。

 そのうえ不利な状況だ。

 考えなければ、命は無い。

 距離はあと五歩。

 鎧相手に打撃は使えない。

 投げるか、組むか。

 こちらも向かっているから、もう剣の間合いだ。


 木刀のように持っていた枝を滑らせて杖のように持ち直した。

 戸惑わず突っ込んでくるのに、躊躇が見え、掲げた剣を慌てて振り下ろす。

 駆けていた速度を落とすと、剣は空を切る。

 右足で前に踏込み、杖のように持った枝で斬り返そうとしていた刃の根本に近い部分を抑える。

 更に距離を詰め、左手は掌で柄を押さえ、左足を踏み出し、腿同士を当て、身体の外側に柄を押し出す。

 体勢を崩したのを確認し、左手は柄の先の方を強く握り、更に外に押し出す。

 先が地面に刺さる。

 一瞬、手を離さないよう抵抗があったが、鎧を着込んだ自重を支えることは出来ず、剣から手を離す。

 慌てて、剣を放り投げ、兜ごとサッカーボールの様に頭部を蹴る。

 兜で表情が分からないため、何度も蹴りつける。

 動かなくなったところで、右手を踏み潰す。


 もう一人残っていた暗殺者の姿を探すが、代わりに護衛の騎士が駆けつけるのが見えた。

 何度も同じ手は通じまい。

 片付いていて良かったと、安心して一息つき、両手をあげた。

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