ゴブリン
一見すると、少し豪華なぐらいの民家に見える木造建築の教会が村の外れにあり、数人の人が見える。
前庭で修道士らしき人物が畑作業をしているのだ。
ヤーニスに先頭を歩かせ、話を聞こうと、近づいていく。
「これはこれは、お頼みしておりました、騎士様ですか。」
ヤーニスが不思議そうな顔をこちらに向けるので、俺が話を聞く事にする。
「いえ、私どもは別の目的で国をまわっておりまして、宿屋の主人に話を聞き、状況をお伺いにきたところです。ところで、こちらの教会の修道士様でしょうか。」
「そうです。宿屋のご主人からお伺いであれば、ご存知かも知れませんが、最近、魔物がこの辺りに出るようになりまして、ここの戦力だけでは不足しておりまして、教会を通じて、騎士団へ助力を願っておりました。」
「左様でございますか。ここには、聖騎士が配備されているのですか。」
ヤーニスが聞く。
聖騎士といっても、一般的なファンタジーの世界にあるような、そんな大層なものではなく、この世界では教会に直接任命された騎士の事を指すだけだ。
「いえ、ただ、助力に応じていただいた方がいらっしゃるだけです。」
「困っている村の為に、恐ろしい魔物と戦うとは。その騎士様もそうですが、教会の方々も、素晴らしい。」
「いえ、我々は当然のことをしただけです。」
「もしかして、修道士様も戦いに参加されたのですか。」
「いえ、私は剣も持てませんし、魔法も使えませんので、くから見守ることしかできませんでしたが、村を守る司祭様と騎士様はまことに勇ましいものでした。」
「この国に来てから日も浅いので、魔物というものを全く見たこともありませんでして、どんな魔物が村を襲おうとしていたのでしょうか。」
「ゴブリンという魔物らしいのですが、徒党を組んで家畜などを襲ってくるのです。」
「人が襲われることはあるのですか。」
「そういった危険はあると思いますが、今のところ、教会で食い止めております。」
「そう言えば、宿屋の主人が野犬か狼
のような魔物もいると言っていたのですが、そういった魔物もいるのですか。」
「いえ、以前はいたようですが、既に教会の方で討伐しております。」
「それは凄い。それは、群れだったのですか。」
「そう、伺っております。」
「司祭様にもお手すきの際にお話をお伺いしたいと思っておるのですが、今は、教会には居られないのでしょうか。」
「本日は、葬儀のお勤めがありますので、まだこの村に滞在されるのでしたら、予定をお伺いしておきます。」
話を終わらせたそうなので、このあたりで切り上げる。
「お時間お取りいたしまして、申し訳ありませんだした。宿屋に戻りますが、その前にお祈りだけさせていただいて宜しいでしょうか。」
「ええ、是非とも。良い心掛けです。」
ヤーニス達を置いて一人で教会に入ろうとすると、ミハイルが付いてきた。
二人で正面の女神像に祈りを捧げる。
道すがら、戻りながら、ヤーニスが聞く。
「女神教徒に宗旨変えなされたのですか。」
「いや、故郷では、どこの神様でも祈る様な風習があってさ。」
まだ日暮れは早く、辺りは黄昏に染まりつつあった。
その日は、早目に就寝することにする。
寝入ってすぐに、ハルの声で起こされる。
『お前の睨んだどおりだったぞ。』
『やっぱりそうか。この村に居られる精霊様の為に、ひと肌脱ぎましょうか。』
『魔物を見てみたいだけなんだろ。』
『それもあるけど、精霊様に協力してもらうのに、恩の一つぐらいはうっといても損は無いだろうし、詐欺師まがいを懲らしめときたいしね。』
『お節介の方か。面倒くさい。』
朝・昼食は付いていないので、村に一軒のパン屋にカルルと向かう。
パン屋が一軒なのに、鍛冶屋が二軒あるのは、グロニスクから鉄を仕入れて、近隣の村に農機具を売っているからだと、パン屋の女将さんから聞く。
「今日は、ゴブリンを見に行きましょうか。」
「一体、何を言い出すんだよ。」
カルルが問う。
「初めて魔物を見ますし、折角ですから。」
そして、カルルに、事前準備を依頼する。
朝食は各自住ませ、昼食ではカルルを除いた皆を呼び、話をする。
「昼食が済んだら、ゴブリンを見に行きましょう。」
皆が返答に困っている様子を見て、宿屋の主人が話に割り込んでくる。
「奴らは人間を襲うぞ。女なら特にだが。止めときな。この前、ウチの若い衆が、珍しさに見に行ってみたが、襲われて、怪我しやがった。」
「大丈夫ですよ。こちらには、本物の騎士様もいらっしゃいますから。」
ヤーニスを見遣りながら言う。




