ハル
出立の準備を終え、暖炉の前に椅子を出して座る。
彼の力を借りれるか、イングナがいなくとも、話が出来るか、聞いてみたかったのだ。
『ちょっといいかな。』
『ちょっとだけならな。』
彼の声が帰ってきた。
『いや、色々と聞きたいんだけど。』
『なら、ちょっとは不要だ。』
『まず、イングナが居なかったり、ここを離れても、君と話が出来たりするのかな。』
『鈍いお前でも、我を認識するとこが出来るようになったから、大丈夫だろう。』
『なる程。で、これから、君をどう呼べば良いのかな。まだ名前が無らしいけど。俺が付けても良いのかな。』
『大体、我を「君」扱いとはどう言う了見だ。敬い方が足らんぞ。認識されたばかりの存在であるため、真名はまだ無い。名を呼ぶ事により、存在の認識が強固になる側面もある。お前に我の呼び方を決めさせてやろう。』
気に入らなかったら、怒るんだろうな。
『ポチとか…』
『二度とお前と接触してやらんぞ。』
『すみません。冗談です。』
『和風なら「オモイカネ」、「クエビコ」とか。』
『他の神の名は問題があるな。』
『情報、インフォメーション、ラテン語も同じだったか、もじってみるかな。』
『長いのは嫌だ。』
『短く切って、「インフ」とか「インス」とか。』
『「インス」じゃ、通信速度が遅いな。』
『64kbpsだったか。今、思い出したよ。「エシュ○ン」、「ハドゥー○」とか特徴を良く表してるよな。』
『固有名詞は止めろ。』
『「ハル」だ。』
和風っぽいし、なんか良いかも。
『構わん。』
『じゃ、ハル、改めて宜しくな。』
ここから、本題に入っていこう。
『さて、ここから色々と聞いてみたいことがあるんだが。』
『何だ。』
『魔法術式と精霊印って、インタプリタと機械語みたいな関係じゃないのか。』
『当たらずとも遠からず。って所だな。物理的にも回路だから、回路基盤と集積回路が近いな。』
『精霊印自体はマナで記述されてるけど、これを銀や銀インクに置き換えて記述する事はできるかな。』
『マナの蓄積も兼ねているから、分離が必要だが、可能だ。』
『最後に、一部の魔法術式を精霊印に置き換えることはできるかな。』
『精霊の力を借りれば可能だ。スクリプト言語からDLLや関数ライブラリを使うようなイメージが近い。』
『なる程。話が早いな。』
『ただし、その術式の内容をこなせる精霊に依頼して、精霊印を作る必要がある。』
『でも、俺はこちらの世界の精霊とは交信出来ないんだろ。』
『お前は出来なくとも、俺は出来る。』
『なる程、その手があったか。』
『さっき、イングナに憑いてるのと、契約してきた。ペールコンスという、かなり高位の精霊だ。』
『いや、分からない事だらけなんだが、何で勝手な事をしてるの。』
『貴様は精霊を馬鹿にしてるのか。我は貴様に従属してる訳ではないし、彼も同じだ。』
怒られた。
『ごめんなさい。』
『我は【情報】を司る。契約相手とは、離れても情報交換するとこが出来るようになる。高位なうえ、永く在る彼の知識を借りることが出来るなど、とても光栄な事だ。感謝せよ。』
『はい。もしかして、離れていても、ここの様子を伺う事ができるという事になるのか。』
『そうだ。』
『精霊同士で、ネットワークが作られるということになるのか。』
『いや、それは無理だ。我を介しての伝言ゲームになる。』
『そうか。今日はありがとう。それと、これからも宜しくな。』