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冬の食糧事情

 冬の食料事情改善の一貫で、干し野菜を色々と作ってみた。

 白人参は意外と癖が少なくて、使いやすかった。

 茄子は思ったより固く仕上がったが、何とか使えそうだ。

 大根はやはり、切り干し大根にしかならず、使いどころに困る。

 台湾風卵焼きでも作りたい所だが、卵が高い。

 高級娼館の方なら使えるかも知れないが。

 また、湯と水を大量に用意できるウチならば、貝割れ大根やもやしなどのスプラウト類の提供も可能だろう。

 これはすぐに取り掛かる事にする。

 ヨハンや城への提供もしたいところだ。

 洋風の豆もやしのメニューが思いつかないが、今後の課題としておこう。

 課題であった胡椒は、まだ、充分な量を確保できていない。

 もしかしたら、胡椒に替えて使える食材もあるのかも知れないが、今ある知識ではどうしようもない。


 蕪のスプラウトと大豆もやしができるのに合わせて、ミッシェの屋敷に行く。

 ミッシェの屋敷は、隣街になるので、街で馬を借りて向かう。

 途中でヨハンの一団と逢う。

 街では目に付くので、ミッシェの屋敷で待ち合わせをしているのだ。

 ミッシェの屋敷は、クラモから大河ドヴィナを南に少し遡った所にあり、屋敷を中心に畑が広がり、いかにも荘園領主の風情だ。

 正門近くに、いかにも、馬を繋ぎそうな、丸太が鉄棒の形に立ててあったので、そこで降りて、ヨハンと話をする。

「馬は借りたのか。」

「ああ、遠出する予定もないしな。繋ぐのは、ここで良いのか。」

「ああ、馬立だよ。荷物は使用人に運ばせようか。」

「水や酒じゃないから、そう重くはないし、自分でするよ。」

 樽を小脇に抱え、屋敷に入る。

「おう、待ってたぜ、二人共。」

「今日は、また新しい料理を、食わせてやるよ。」

「またって、俺に内緒か、ずるくないか。」

「だって、お前はあんまり店に来れないだろ。」

「いや、でも、それは仕方無いだろ。」

「まぁ、座れや。」

 ミッシェがとりなし、広いダイニングに固まって座る。

 樽を開けて、中身を出す。

「こっちが、蕪のスプラウト。こっちが、大豆のスプラウト、故郷では『もやし』って呼んでた。」

 説明が先か、食べるのが先か。

「先ずは、食ってみるか。厨房を借りるぞ。」

 もやしは茹でて、温かいうちにオリーブオイル、チーズで和える。

 貝割れはレタスとサラダにし、ハーブ、オリーブオイル、チーズで適当にサラダを作る。

「思ってたより早いな。」

 フォークは三本歯がまだ主流で、四本歯のものは見当たらない。

 また、手掴みで食べる者がが多い。

 ナイフは、普通のナイフを使っていて、危ないし、酔ったらそれで喧嘩するから最悪だ。

 フォーク、スプーンとナイフを量産しようと考えているが、その材質に難がある。

 まず、ステンレスが無い。

 銀が一般的に使用されており、使い心地も良いが、高い。

 鉄や銅だと匂いが気になる。

 スプーンは木、ナイフとフォークは鉄だろうか。

 スプーンも木材を曲げ木等の技術を使い大量生産するなども考えてみたが、木工工房の方が増産、拡散し易いだろう。

 食器の使用は、食文化の発達とともに、公衆衛生上必要と思っているので、要検討だ。

 今日のところはこんな事もあろうかと、食器はもってきている。

「済まんが、どっちもオリーブとチーズになっちまったが。」

「この新芽は辛いな。でも、美味いな。」

「こっちの大豆は、最初は癖があるけど、慣れれば美味しくなってきた。このシャキシャキの歯応えがいいな。」

 あっという間に無くなりやがった。

 本題に入ろう。

「こいつらは、真冬でも作れる野菜だ。まぁ、もやしの方は大量のお湯が要るから、今のところ、ウチの店しか作れないけどな。風呂屋ができれば、街でもできる。あと、栄養価が物凄く高い。」

 風呂屋とセットで、流行らせる予定だ。

「ヨハン、じゃがいもは見つかったか。」

「いや、噂は聞くんだが、現物がなかなか押さえられなくて。」

「じゃがいもって、何だよ。」

「新しい野菜だ。栽培が簡単で、冷害にも強い、新大陸からき来た野菜だ。」

「へぇ。」

「長持ちするし、地面の下にできるから、獣や戦で荒らされるのにも強いらしい。」

「そりゃ、便利だな。でも、似たようなモン知ってるぞ。」

「え。」

「何年か前から、グロニスクで栽培が始まって売ってるらしいぞ。その時に、ケンジが言ってるような事を言ってた覚えがある。」

 騎士団領を通り越し東に抜けてたか。

「ヨハン、すぐに手配してくれ。芋からでも栽培できる。買えるだけ買いに行くぞ。」 

「で、美味しいのか。」

 この食いしん坊め。

「俺なら、美味しくできるぜ。いや、フレンチフライという、数百年後、世界中で愛されることになるメニューを再現してやる。」

 ミッシェの目が輝く。

「大丈夫だ。俺の伝手で、何とか手に入れてやる。」

「任せたぞ。」

「そうだ、ヨハン、テンサイの種の確保は進んでるか。」

「根の太いものを中心に集めに回っている。種の収穫はまだだが。おそらく、来年の耕作計画には充分だ。思ったより現在栽培中のものも量があるみたいで、前倒しで精糖工場を今年中に稼働させる予定だ。来年度からの本格的な稼働前に技術の蓄積もできるし、輸出に向けて早く動き出せる。」

「何だよ、俺はその話聞いてないぞ。」

「まだ、話してなかったのか。輸出入だけじゃなくて、情報保護も必要だから、先に話を通しておいた方がいいと思うぞ。」

 ヨハンから、テンサイ事業についての説明を行う。


「砂糖は香辛料より単価は低いが、大幅に上回る量が取引されているんだ。量にもよるが、貿易のバランスを大きく変えるぞ。南方の国から運んできている砂糖は西側諸国の大きな収益源になっているからな。」

「場合によっては、戦争か。」

「あり得えない話ではないが、その前に本国や教会からの介入が一番心配だ。」

 成る程、元々、教会から派遣され、布教活動も担うことになっている騎士団であるから、本国や教会からの介入はあって当然だろう。

 騎士団領=教会領になるから、教会の脅威の方が大きいか。

「なら、軍備を整えつつ、甜菜糖の生産体制を確立して備蓄し、他の国が追随できない差を生み出してから、本格的な貿易に乗り出す。軍備も下準備が進んでいれば、貿易による収益によって、装備の強化を迅速に進めることができる。出来れば、本国からの干渉を防ぐために、世俗国家としての独立ができれば良いんだが。」

 二人ともこちらを見る。

「金融システムの独立と、職業軍人による軍の再編成が進めば、一国家としての能力は充分に発揮できるんじゃないか。それを支える資金源はおいおい確保できることだろうし。」

「それに、元々、多民族の住むこの地域なんだから、教会と適切な距離を保つことで、一つの国にまとめることができるんじゃないかな。ミッシェもそこまで処女教会に傾倒してるわけでもなさそうだし。」

「いや、それは…」

「俺の故郷には、元から国にいた神様も、外から来た神様も同じように扱われてる。私の神はいますが、貴方の神も尊敬してます。そういう風になれれば理想だと思ってる。俺自身も、特定の神様に帰依してる訳ではないし。教会からの締め付けが厳しくなれば、民衆の反発を買う。それが元で内乱になった国もあるし。お互いの神を認め合う、そんな柔軟な考え方がこの国には合っているような気がするんだけどね。」

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