アルフレート
無事に俺の店、娼館『花畑』がオープンし、順調に客足が伸びている。
石鹸を用いた洗体サービスなど、他にもなく目新しいこともあり、評判になっているのだ。
オーラルでのサービス洗体と一緒にするようにを教えたのが、客に好評なだけでなく、本番が淡白になるので、女の子にも好評だった。
開店前からミッシェが入り浸っており、開店後もかなりの頻度で見掛ける。
「モリス、ガレットはもう客に出せるぐらいにはなったか。」
貧民街から、連れてきた男の子を、厨房に置くことにした。
「はい。」
「ミッシェに出してやってくれ。味見と練習だ。あと、卵は勿体つけとけよ。」
ここでは卵は貴重品だ。
日本じゃ、毎日ご飯にかけていたが、ここでは超の付くぐらい高級品だ。
塩漬け豚が一般的で、ハムはちょっと高いが、ガレットは高級娼館の方で出すメニューだから、ハムを使ってある。
意外と覚えが良い。
ライマはかなり容姿が良くで、エリーナの方は気立てが良く、二人ともかなりの人気である。
人に恵まれ過ぎて、非常に有り難い。
ミッシェが入り浸っている噂のため、ニコライは報復に来れず、店の方は潰れかけており、女の子もこちらに流れてきている。
他の店から来た女の子は、感染症予防のため、二週間は店に出さないようにしているので、来週からフル稼働できる。
更に来月から、高級娼館もオープンする。
ライマを見掛けたので、アニータとケイトを呼んで来るように言う。
この二人は、ライマとエリーナの知り合いの女の子で、雑用係として雇っている。
街では十二歳にもなれば、立派な大人と見なされ、この子達もそうであったが、娼婦として客を取らされる。
自分の良心が許さない事と純粋に雑用係が必要なのもあり、雑用係に専念させている。
「お待たせしました、ご主人様。」
「ケンジで良い。ライマとエリーナの引っ越しを始めたいから、荷物をまとめるのを手伝ってきてくれ。準備ができたら、荷物を運ぶぞ。」
女の子が増えたが、ライマとエリーナは、トップであり、高級娼館用の教育も進んでいるので、そちらに移ってもらうことにしたのだ。
まだ明るい時間なのに、扉が開き、気の弱そうな若い男が入ってくる。
アルフレート・ツァップ、魔法院でヴィリツに頼んだ、写本のバイトだ。
下級騎士の家柄で、そこそこの魔力があったため、出世を望んで魔法院に出入りするようになった。
進んだだけ持って来るように言っており、速くなれば、バイト代を弾む事にしている。
また、ついでに、読み書きも教えて貰っている。
「また、お持ちしました。」
「有り難い。あと、何ページぐらい残ってる。」
「もう、残りは100ページは切っていますよ。」
「それで、あの件は、お願いできるか。」
ウチの従業員全員に、読み書きを教えるように頼んでいたのだ。
モリスは乗り気でないし、手に職を付ける事になるから、本人の意思に任せるが、全員に身につけて欲しいと思っている。
「そんな事をして、何か役に立つのですか。」
「彼女らもいつまでもここにいる訳ではないだろう。読み書きが出来れば、ここを出ても働く口も見つかるだろう。」
平民が通える学校を設立したいと考えていたが、文化的受け入れや費用等の問題もあり、まだ検討中だった。
ここを出た娼婦達が、職を得るなどの実績を積むことができれば、学校の設立を求める声も出てくるだろう。
それに、高級娼館では客層に合わせた会話も必要になってくる。
そのための教養も必要だ。
「それに、うちの店では、色々と必要になる。」
ケイトが目に映る。
「ケイト、ちょっと良いか。」
ちょこちょこという感じで、近寄ってくる。
小動物っぽい。
ソファーの横に座らせる。
「読み書きを覚えたいか。」
「うん。読み書きが出来れば、色んな仕事が出来るようになるって、皆んな言ってる。お店とかも出来るようになるって。」
目を輝かせて答える。
「分かりました。教えてましょう。」
「ケイト、読み書きをこのお兄ちゃんが皆に教えてくれるって。」
「えっ、本当に。やったぁ。」
ケイトは跳び上がって、エリーナの下に走って行く。
「給金は、しっかり出すからさ。」
それから、アルフレートは、二日に一度、午前中に店に来て、従業員に読み書きを教えるようになった。
まんざらでもなかったようで、楽しそうにやってくれている。
そのうち、従業員の中に明らかに貧しい格好をした子供達が混じっていることが多くなってきた。
見つけたら、どんどん来いと声は掛けている。
ただ、そういった子供達は日々の生活に追われることから、そう頻繁には来れないようだ。
次の事は、もう少し稼げるようになってから考えよう。