カフェテリア
カフェテリアのようなものが魔法院には備えられていた。
研修生や研究員のためのものらしく、カフェテリア形式の食堂だった。
今の時間帯は閑散としており、飲み物しかない。
ヨハンとお茶をする。
実際に頼んだのは果実水だが。
「そういや、お前はどんな魔法が使えるんだ。」
「声を遠くに飛ばす魔法なら、よく使うな。」
「確かに戦場では、便利だな。攻撃とかには使わないのか。」
「上級魔法師は、長距離攻撃を担うんだが、余程、高位の術者でなければ、弩の方が効率がいいよ。戦況をひっくり返すような大魔術師は、国に一人ぐらいかな。」
「いるんだ、そういう規格外が。騎士と対等に戦えそうなぐらいの魔法使いの割合はかなり低いのかな。」
「魔法だけで戦うのであれば、騎士十人に一人ぐらいの、割合かな。魔法も使える騎士ってがいたりもするが、魔法を使うには精神を集中させないといけないから、混戦で使えない。」
思ったより、魔法使いは少ないようだ。
「そうだ。『綺麗どころ』の件は、一体どういう事なんだ。」
思い出したか。
「あそこは、愚連隊上がりのガキが元々あった店を乗っ取ったところなんだ。収益が下がってきている売春で同業者が増えるのを嫌がって、ウチに嫌がらせをしてきてたんだよ。荒事でのし上がってきたところなんで、最初から揉める気だったのさ。向こうから来られれば、使える駒が無い今は、泣き寝入りするしかないから、こっちから打って出るしかなかったんだよ。」
「揉める気でいてたって、どういう事だ。」
「実力行使だよ。あちこちで、人や武器を集めてる噂を聞いてたからな。」
「確かに、そういう状況なら、仕方無かったのかも知れんが。」
「死人は出てないし大丈夫だよ。ただ、交渉しに行って、決裂しただけだ。ニコライも無事だしな。」
ただ、面子はぶっ潰した。
荒事でのし上がってきた奴ならば、面子が丸潰れである。
街から出てなければ、いずれ報復に来るだろう。
その前に対策を立てておかなければならないな。
「少し予定より、早くなるけど、警備の手配はできるかな。」
「まだ、正式に民間警備会社の設立は承認されてはないが、ミッシェには伝えておくよ。」
「有り難い。」
この、ミッシェ、ミッシェ・プレッテンベルクというのは、ヨハンの配下の騎士で、今回民間の警備会社を設立する社長に据えようと思っている人物だ。
古い時代に騎士団として本国から来たのだが、その昔に地元の豪族と婚姻関係を結び、現在では、内実ともに、地元豪族となっている家柄である。
その為、地元へのコネクションは、騎士団で最も多く、商人を含めた民間人との関係が良好で、将来、民間人登用の計画もあるため、適任だったのだ。
本人に会ったことが無いので、本人自体の資質は不明であるが、ヨハンが言うには、有能な人物であるという。
やや、扱いづらいらしいが。
ヨハンと別れ、エルネスツが行くと言っていた店を覗いてみると、会合自体は終わっており、数人と酒を飲んでいた。
皆さんなかなかのご機嫌さんでいらっしゃる。
「どうする。一緒に帰るか。」
一緒に飲んでいた面子が、俺の事を迎え入れる。
「おう、エル。これが噂の兄ちゃんか。」
「まぁ、座りな。」
「珍しい武器をたくさん知っているらしいな。」
「鉄の棒も武器としてうまいこと使いこなせるって聞いたんだが。」
酒を勧められ、武器についていろいろ聞かれることなったが、酒は飲む振りだけにしておく。
荒事がまだ続かないとも限らないし、酒を飲んでまともに対応でひときる自信はない。
俺を肴にもうひと盛り上がりしてから、エルネスツと一緒に帰る。




