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完成間近

 急ピッチで、娼館の建設が進み完成に近づいている。

 一棟は煉瓦造りの建物で、完成にはもう少し時間がかかる。

 もう一棟は木造に白い漆喰で作られた二階建ての建物で、こちらはもうほぼ完成している。

 街中で木造建築は見かけないが、郊外に出るとそれなりにある。

 二階建てであるが、三階部分の塔屋が付いており、これは部屋ではなく、沸かした湯を貯めるためのタンクになっている。

 プレイルームに風呂を設置するため、小川から龍滑車で水を引き、ボイラーを設け、湯をそこに揚げる計画なのである。

 ボイラーと言っても、タンクに沸かした湯を上げるぐらいまでの構造しか思い付かないので、取り敢えずそこまでだが。

 いや、俺が正確にボイラーというものの定義を分かっていないため、勝手にボイラーと呼んでいるだけで、サイホンと言った方が良いのかも知れないが。

 ボイラー作製と運用にあたってのメンテナンスが必要となるため、鍛冶小屋とエルネスツという一人の鍛冶を手配して貰った。

 ヴォルターとヨハンが贔屓にしていた鍛冶であるため、本来の専門は武具であるが。


 娼館の完成までもう少しというところで、夜中に現場を荒らされる嫌がらせを受けるようになった。

 四日前から嫌がらせが続いており、家のない女の子達を住まわせることも考えていたのであるが、それを遅らせることになってしまった。

 既にスカウトした女の子達から聞いたところ、この娼館のオープンはかなり噂になっており、特に同業者からは目を付けられているという。

 怖がって採用を断る子も出てきている。

 何にせよ、このままにしておけない。

 俺は予定通り今日から娼館に居を移すことしにて、警戒にあたることにする。

 日が暮れてから、入口近くの茂みに簡易なテントを張り、闖入者を待ち受ける。

 チンピラ然とした五人の男が入ってくるが、通り過ぎるまで息を潜めて待つ。

 人数の確認と後方から急襲するため、わざわざ入口近くに潜んでいたのだ。

 上階のタンク、漆喰で作った貯水部屋とも言うべきものであるが、そこから各部屋に配水するために、大量の鉄パイプを用意している。

 それを身長ほどの長さに切ったものを握りしめ、足音を殺して後ろから忍び寄る。

 最後尾の男の首筋めがけて鉄パイプを振り下ろす。

「何だ。」

 チンピラ達が振り向くが、振り向く途中だった男の側頭部に鉄パイプを叩きつける。

 更に驚いて動きを止めている男の腿の側面目掛けてスイングすると、その場に崩れ落ちた。

「何者だ。」

「それはこちらの台詞だよ。誰の差金かしゃべって大人しく帰るんだったら、許してやるよ。」

「舐めやがって。」

 鉄パイプを棍持ち方で構え、残りの二人と対峙すると既にナイフを抜いていた。

 手前の男が突っ込んできながらナイフを突き出してくる。

 左の先でナイフを持つ腕をかち上げ、返す右側で側頭部を打ち据え、更に返して鳩尾を突くと、地面に倒れこんで悶絶する。

 最後のリーダーらしき男はナイフを突き出すように構えている。

 多少は使い方を知っているようだ。

 間合いを詰めようと動き出したところの出鼻を挫くように長めの間合いをとって、顔面を中心に何度も突くと、顔を血塗れにして倒れこんだ。


 二人は逃げられたが、鍛冶小屋にいるエルネスツを起こして、残りの三人を縛り上げる。

 もう全員の意識は戻っている。

「知った顔はあるか。」

「いや、こんなチンピラどもとは関わることもないからな。」

「さて、誰の差金か話してもらおうかな。」

 リーダーらしき男に話しかける。

「誰がしゃべるかよ。」

「じゃぁ、身体に聞くしかないな。悪いけど、やっとこを取ってきてくれるかな。」

「何に使うんだよ。」

「え、拷問の基本だろ。爪を一枚ずつ剥がしていく。その後は指の骨を一本ずつだったな。」

 当然のような口調でエルネスツに返事をすると、チンピラ達の顔が恐怖に歪む。

 それ以降は大人しく話をしてくれるようになった。


 娼館という仕事を選んだ時点で、荒事も辞さないと覚悟を決めてはいたが、実際どうしていいか迷ってしまうし、組織として渡りを付ける感覚も微妙なところで、やや不安を感じている。

 だが、ここで何とかしなければ、この商売はやっていけない。

 まぁ、行動していけばなるようになるか。

 翌日、ヨハンに連絡を取り、嫌がらせの主に対して話し合いに向かう旨の連絡を入れてもらうようにし、エルネスツに装備の準備を依頼しておく。


 鍛冶小屋に足を向けると、鎚の音が響いている。

「エルネスツ、頼んでいた、ものは出来てるか。」

「ああ、そこに置いてあるよ。変な物ばかり作らせやがって。」

「でも、やっぱり本業の武器を打つほうが楽しいだろ。」

 一本は、片手剣のサーベルの様に鍔が手を包む様に付いているが、刃渡りは25センチ程度に抑え、それをフルサイズの鞘に収めている。

 布の袋にハンドルまで一枚の金属板で作られたナイフが二本、スローイングナイフだ。

 最後の一本は、勾玉のような形に、穴が開いたような形状のものだ。

 カランビットという。

 使いこなせるものを選んだ結果、ナイフばかりとなってしまった。

「どう使うか知ってるか。」

 カランビットのハンドルに麻紐を巻きながら話しかける。

「知らんし、興味もない。成果が上がれば聞いてやる。」

 こちらは、一応、雇い主なんだが。

「ベストも用意しといた。折角用意したんだ、忘れるなよ。」

 チェーンで編まれたベストが入り口脇に置いてあった。

 無愛想な癖に気が利く。

「ありがとう。」

「無茶しやがるみてぇだが、今、死なれると厄介だからな。」

 その場で服を脱ぎ、下着の上に着込む。

 サイズは丁度良い。

 こっちに来てからは、派手目の服装を選んでいる。

 格好も商売に合わせる必要がある。

「じゃあ、ちょっと、街に行ってくるよ。」

 城門を潜り、色街に足を向ける。

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