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ヴォルター総長にもスクロールを

 娼館の運営の動機を話しの流れを整理している間に消してしまったものを、修正して、追加しました。

 意識共有のスクロールを取り出し、俺のところに敷く。

 ヴォルター総長を巻き添えにすると言い出したのは、ヨハンだった。

 俺としては、理解者ぐらいでいてくれるのが都合が良いと思ってはいたが、現在の人間では、理解できない部分が大きいとの事だった。

 それに、俺の気持ちを直接伝えた方が良さそうとのことだ。

「ヨハン、お前、何を企んでいる。」

 ヴォルターの表情が一層険しくなる。

「私の見たものを、未来を見て欲しい。そう思いました。」

「お前の見たものは、本当に未来だったのか。」

「いや、此処とは異なる世界で、異なる国の未来です。ただ、それは、この国にも数百年後に訪れる変化ではあります。」

 少し口を挟んでしまった。

「世界は変わる。変わらなくては、取り残され、消えてしまう。それに抗い得ることのできる力がここにあります。私利私欲の為で無ければ、使うべきです。」

「その者が私利私欲に走らないなど、保証はない。」

「だから彼は私達に任せようとしているのです。その証明のためにこのスクロールを用意しているのです。」

 新たに取り出した書類は、二部セットになっており、片方は日本語で書いた物だ。

 書類が有れば、具体的なイメージが浮かぶため、用意をしておいたものだ。

「ヨハンはああ言ってますが、私は総長の判断にお任せします。」

「一つ聞く。お前は何をしたい。」

「この国を、皆が幸せに暮らせる豊かな国にしたい。私個人としては、生活基盤を整えたいところですが。」

「生活基盤が整ったとして、次に、何がしてみたい。」

「この世界の魔法に興味がありますし、元の世界に戻る方法も探してみたい。文化や風俗を見たり、美味い物も食べたり、作ってみたいですね。ただ、周りの人間が苦しんでいるのに、自分だけ楽しむのは、気が引けますからね。」

 一息ついてから、続けていく。

「そこで、私の生活基盤を整えるために、娼館を一つ作っていただきたいのです。」

「娼館だと。」

「ええ。」

「何故だ。」

「まず、一つ目の理由として原資が欲しい。生活基盤を整えるだけでなく、新たな事業を興すためにも、原資が必要です。安定してそれなりの稼ぎが期待できます。」

「トリヴォニアでは、売春は公には認められていない。」

「そこは、今後の国策等で検討していく必要があるでしょう。そのためにも、私との繋がりは隠していく必要があるとは思いますが。二つ目の理由は、公衆衛生や感染症の防止。この国では入浴の文化が廃れてしまっています。公衆衛生の観念の低下が出生率の低下や感染症の蔓延の原因となっています。ただ単に公衆浴場を作るだけでは入浴の文化は根付かないでしょう。このクラモは、周辺から人が集まりますが、そのほとんどは男性です。また、女性の数が極端に少ない。性風俗と結びつければ、一定の浸透が図られるでしょう。」

「そんなに上手く事が運ぶと思うのか。」

「男とはそういう生き物です。来客に入浴をサービスとして提供することにより、裸を確認して、感染症を防ぐ意味合いを持ちます。これにより娼婦が感染症に罹患するリスクを大きく減らすことができます。安全性というものは、価値のあるサービスと考えています。また、入浴自体も目新しいサービスに映るでしょう。それと、今のところは少ないのですが、新たな感染症が国外から進入してくる可能性があり、それを水際で止める意味合いもあります。」

「そもそも公衆衛生とは何だ。」

 今現在、公衆衛生といった概念は存在していない。

 軍の運用にも大きく関わってくるところであるが、その辺りの説明は一旦、省いていこうか。

「病気等を防ぐための考え方です。運営後に他の店と比べれば、その効果は実感できるでしょう。最後に、私を表舞台に立つことができなくなるようにすることです。娼館の主となることで私が表舞台に立つことができないようにします。領内の有力者を直接脅かす気は無いことを示すためです。耳目を集めたとしても、公の場で話題にはしにくいでしょうし、良い評価は行いづらい。私も提言することがあるでしょうが、私の持つ知識をこの国の人間が利用することが望ましいと考えています。」

 自由に動けるようにしていたいのと、面倒な政争などには関わりあいになりたくないのが本心だ。

「理解しづらいですが、面白そうでしょう。」

 ヨハンがいたずらっぽく、ヴォルターに言葉を掛ける。


「分かった。お前達の企みに乗ってやるわ。さっさとそれを使え。」

「では、行きますよ。」

 俺はスクロールに乗って元いたの世界の状況と比較しながら政策の説明を始めた。


 既に、何度も鐘が鳴り、夜も更けている。

 その後の話し合いは続いていた。


「息子達は、今後、どうなる。」

「新しい世を生き延びるための教育を重ね、実力を身に着けて頂く必要はあるかと。元の財と今からの教育があれば、苦労はしないでしょう。」

 ヨハンは、任せろとでも言いたげな表情だ。

 ベルンハルトに随分と入れ込んでいるようだ。

「ただ、私には、ヨハンから貰ったものは有りますが、来たばかりのこの国で、情念が欠けております。正直に言えば、上辺だけの善意でしょう。」

「だが、本心は理解した。」


 俺はヨハンの元を離れ、城の使用人として、暫く過ごす事となった。

 新居ができるまでの間だが。

 新居ができれば、表立っての接触を行わないようにする予定である。

 殆どのアイデアや知識はヨハンに引き継いでいるが、新居の準備までの時間を使って、ヨハンとヴォルターを交えて、アイデアを本格的な政策に詰めていく。


 今日は城から少し離れた荒れ地に来ている。

 下水処理施設の下見だ。

 この首都クラモは、南東から大河ドヴィナが流れている河口付近にある。

 街の東側に港があり、東側の大国グロニスクの交易中継点となっている。

 まず、街に下水道の敷設をする予定とし、処理施設は川下の北側になる。

 まぁ、俺で思いつくのは、放置できるプールの設置ぐらいまでだが、屎尿と残飯ぐらいしか出ないだろうから、特に問題無いだろう。

 処理施設が出来るまでは、垂れ流しになるが、処理施設が出来れば、そこで汚物を発酵・分解し、肥料にする。

 そして、テンサイについては、そう処理施設から離れていない、城の北西側で栽培する事になっている。

 テンサイであれば、糖の抽出に加熱処理するため、感染症や寄生虫のリスクも無くなるだろうから、加熱せずに汚泥を施肥する予定にしている。

 農業は専門外なので、本当にこれで良いのか怪しいが、そこはこれからこの国で人材を育成してもらおう。

 所詮、俺はプログラマーだ。

 出来ない事は、出来ないので、専門家に任せるのが一番だと思っている。


 金融システムについては、騎士団の若手の重臣に、本国や外国に研修に行かせることとなった。

 聞くところによると、既に本国ヴィリニュスでは為替や先物取引など、かなり制度が構築されていたようだった。

 中世だと思って、侮っていたのは、俺の方だったか。

 俺の時間は有限だし、金融システムを構築して、運用させる必要性もある。

 適材適所っていう言葉もある。


 そこから、暫く歩き、別の場所にも視察に向かう。

 そこそこ水量のある小川が流れ、街道からもそう離れていない理想の場所を見つける。

 今は農地になっているが、この場所を買い取ってもらい、娼館を建てる。

 さて、ここから、新しい、今までとは全く違う人生が始まる。

 当初の出資までは、甘えさせてもらおう。

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