テンプレという設定が抱える落とし穴
ここに記す事は、小説というものの分析を兼ねて書いているものであり、所謂独り言に近い内容です。
テストも兼ねて検索に引っ掛かりやすいタイトルにしたのは確かですが、こんなものどなたが読まれているのでしょうかね?
評価する価値はあるのでしょうか?
本人からすれば、作品にもなっていない稚拙な文章の集りにしか感じません。
なろう内でも多く見かける「異世界転生」や、「異世界転移」の物語。ある程度の基本パターンが存在し、それらは列車を導くレールのように物語を導いていく。
所謂テンプレというもの……。
そしてこのテンプレとは、なんと素晴らしく、便利なものなのでしょう。
なんといっても筆者は世界設定について考える時間を大幅に削る事ができ、ストーリーやキャラクターの設定に時間を割けるのだから。
また、多くの人に受け入れられやすいことも、特徴の一つですね。それほどに世の中にテンプレが溢れ、そして受け入れられているというのも現実です。
これらの最初はある一つのテンプレというものであった小さな流れも、多くの読み手に評価される事で『ジャンル』という大河に進化したりもする。
空想世界を舞台にしたテンプレでもあった、『ファンタジー』などのジャンルがそれらの例でしょう。
『ファンタジー』というテンプレを用いれば、剣と魔法が存在し、多種多様なモンスターが世界を跋扈し、指先から炎が出せても何も問題ない。
文明も中世レベルと読手に想像させやすく、剣や鎧、ダンジョン、魔属など様々なものを出現させることに違和感がない。ゲームや映像化で慣れ親しんだ世界観ですから、違和感は少なく物語の世界へ入り込める。
この「小説家になろう」サイト内でも書籍化や映像化された作品にも、こういった『ジャンル』というテンプレ作品は数多く存在し、多くの読者を楽しませてくれています。
多くの筆者もこのテンプレを用いて小説を執筆していることでしょう。
これについては自身も大いに賛成です。ですが、同時に大きな落とし穴がある事も理解する必要があると思うのです。
テンプレにはある程度の基本ともいえる、自動的に付属する設定が存在します。
例えば、「異世界転生」の物語であると、まず死があり、その後転生があるので主人公を殺す必要性があります。すると、物語の冒頭でトラックに轢かれて死ぬか確率は50%以上の小説で選択されているのではないでしょうか?
そして、「異世界転移」の物語であった場合、主人公の転移先は一目で異世界と分かる場面であるはずです。竜が空を飛び、獣人が闊歩する。言葉はなに不自由なく通じる場合が多いですね。
ただ、テンプレを採用した執筆者様は、テンプレとそれに付随してきている設定ついて、しっかり考察はなされているのか? という事です。
例えば魔法を例としてみます。
・魔法のエネルギー源とは何か?
・手から魔法を放ち、術者が被害を被らない理由は?
・放たれた火炎の魔法が炎として存在しつづける為には燃え続けるための燃料が必要なのだが、何が燃え炎となっているのか?
・様々な物理法則を無視可能な理由。
・魔法というものの抱える矛盾と、デメリット。
他にも魔力・マナ・魔素・マジックポイントなど、ファンタジー世界では一般的とされる設定も数知れず存在しています。では、物語の中でこれらはいったいどういった役割を果たし、どういった存在として自分の小説内にある物なのか?
このあたりの設定について細かく描写しない場合もあります。
逆に細部まで緻密に考え抜いて、それらをオリジナリティーとする方法もあると思います。このあたりは皆様の作風によって決めて全く問題はない部分と思います。
ただし、ありがちな間違いとして、基本設定ありきで物語を進め過ぎ説明不足になるパターンと、細部まで設定を考え抜いたからこそ説明ばかりの小説になってしまうパターン。どちらも共通点は執筆者の独りよがりになってしまっていて、読者を置いてきているということ。でも、これは執筆者からするとすごく解り難いのです。第三者が読めば、明らかに「独りよがり」と感じる小説であっても、執筆者は僅かにもそう考えていなかったりします。灯台下暗しとは、本当に言い得て妙です。
話を戻します。
これらの細かな設定は、物語の中で一切触れなくても問題ないレベルの小さな部分です。誰も突っ込みませんし、少し考えれば読者も十分に納得させられるような部分だからでしょう。
コミカライズされた作品であっても、これらの部分をあえて曖昧にしているような作品も多数見受けられます。つまり、決して悪い事ではないですし、余計な部分をそぎ落とし他の部分に力を入れる。や、もっと大きな問題に目を向けさせるという意味では十分有効な表現方法だと思います。
では、大きな落とし穴についてです。
それは、レベルという成長の概念と、自身の能力を確認できるステータスという概念です。
これらも『ファンタジー』の中では(特になろう内では?)多くの方が利用されています。
これらのテンプレはとても便利でお手軽なのですが、そこに大きな落とし穴があると考えています。
執筆者側から見ればキャラクターの強さを簡単に数値で示すことが可能なので、とても使いやすいテンプレ手法なのだと思います。
文章として『強そう』を表現するとなるとそれなりの文章にする必要がありますが、このテンプレを用いた場合は箇条書きで済んでしまいます。
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ステータス
氏名:鈴木一郎
職業:暴力の優者
LV:999
HP:99999
MP:0
スキル:お前の物は俺の物
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これだけでも、脳筋タイプで腕力で無双できそうな人物だと感じられるのではないでしょうか?
お手軽手法といえば、これに勝る方法は無いのではないかとも思えてしまいます。
また、スキルなどをチラ見せすることで、説明などがなくても読者を期待させることも簡単です。
ただ、理解しておいて欲しいのは、ステータスもレベルもHPもゲームという概念の中で生まれた物であり、そこには必ず管理する者が存在しています。意図的に楽しくなるようにバランスを取り、主人公に苦難を与え、良い意味でプレーヤー達を欺きエンディングへと導く存在。
ゲームで言えばゲームディレクターであったり、シナリオライターであったり。製作側として携わった人間の意図。思い。想い。願い。楽しませたい。楽しんでもらいたい。という作り手の気持ちです。
ゲームであればこれは当然です。近年のオープンワールドというジャンルのゲームであったとしても、長短様々な物語がゲーム内に組み込まれていて、ゲームをより魅力的に感じられるように導いています。
次にレベルという概念です。
ある瞬間に強く成長する仕組み。これが世界の理であり、仕組みであるとしてしまう。
皆レベルアップには少なからずワクワクさせられてしまいますし、どう強くなるのかという期待感もあります。片寄った成長というのも面白いです。また、いつの間にか身に付けた技術(見えない場所での努力)より、突然身に付いた方が強くなったのがハッキリと読者にも伝わるのは事実でしょう。
では、そのレベルや経験値。誰が管理しているのか?
ゲームであれば、この管理しているのは「プログラム」でしょう。
ゲームとは様々なバランスの上に成り立っており、バランスが崩壊したゲームとは既にゲームとしての存在意義を保てておらず、無意味なただのプログラムです。
結果として、レベルが存在する物語には管理する者が必要です。自由度をプレイヤーや主人公に与えすぎてしまえば、ゲームや物語の崩壊へとつながりかねません。そもそも、面白くなくなります。ゲームではこの管理者として、既に作成されていたプログラムが自動的に実行しているということになります。
小説の場合、この役柄は執筆者が担うこととなるわけですが、管理する者とはつまり物語を面白い展開へと導き、新たな展開や読者の予想を裏切る展開を用意する絶対的な存在であり、世界の全てを創造し主人公の思考やあらゆる物質、現象と確率、未来と過去の全てを創造する文字通りの「神」です。
つまり、レベルやステータスという便利な機能がある世界には、管理する者が存在する。そういう前提が必ず付いて回ります。それは執筆者なのかプログラムなのか創造神なのかは分かりませんが、何かしらに管理された世界であるという前提です。
映画として描かれている「マトリックス」の世界観のように、全てが空想世界の中で行われているのであればこういった部分の説明もつきますが、この部分を明確にしようとするならばそれなりの考えこまれた設定が必要になると思われます。
中途半端な設定では矛盾が生じ、執筆者の首を絞める事になってしまうかも知れません。
対策としてこれらテンプレを用いた多くの作品は、この部分をタブー化し作品中では一切触れていないものも多いと感じます。
書籍化や映像化された作品であっても、レベルやステータスが存在する作品ではこの部分には一切触れていない物語も数多くあります。これらのテンプレは使いやすいのですが、説明や辻褄合わせが面倒であり危険を孕んだ部分と言えるのかもしれません。
物語としてはハッピーエンドで終わったとしても、レベルやステータスが存在している理由は置き去りにされ、「そういった世界」という強引というか棚上げとでもいった手法で無視させているケースが多く見受けられます。物語としては終わっても、最後の最後までモヤモヤした物が残ってしまう可能性もあるのです。
ゲームという形で身近に見聞きしたことのある読者の思考を大前提として、強引に世界観と物語を結びつける。そういった手法もアリなのかも知れませんが、疑問を抱いたり違和感を感じる人間も存在することをご理解しておいてください。
使い安くメリットが多い(と言われていた)。ただし、後始末は面倒である。……原子力発電所と何となく似ている気もしますね。