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女神さまのお仕事。 作者:山川海

女神さまの逆襲

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リリヤカ、ギュっと抱きしめた

 拝啓、お母さんへ。
 元気にしてますか? リリヤカは借金まみれです。なぜ、こんなことになってしまったのか。あたしはこれから長い長い話をしようと思います。

 ご存知の通り、あたしはプリポ嬢とユフィさんの仕事の手伝いをしています。特に給料とか出るわけではありませんが、将来の魔王軍幹部、もしくは王国大臣の座を約束されているのでそれはもう身を粉にして働いていました。
 以前の手紙であたしが逮捕されたところまで話したとは思いますが、今はもう釈放されていますので心配しないでください。問題は、その釈放された後、西の大陸へ出かけた時に起こったのです。
 誘拐されました。
 犯人はお父さんの右腕を奪ったあの勇者エディです。誘拐されたあたしとユフィさんは西国の王都でプリポ嬢の助けを待っていたのですが、ユフィさんは天からのお迎えが来て連れていかれました。あの時の神々たちの有無を言わせない雰囲気は、さすがの勇者エディも手が出せない様子でした。残されたあたしは一人で助けを待ったのです。
 そして、プリポ嬢は期待通りたくさんの仲間を連れて助けに来てくれました。しかし、あのプリポ嬢も天使の圧倒的な強さに敗れてしまったのです。
 事態を打開するために、仲間の一人であるケイトが勇者エディに取引を持ちかけたのです。自分の情報をやるから見逃してくれないか、と。ケイトは勝手に自身が持つ情報を勝手にベラベラと喋り始めました。その真の狙いは取引ではなく、時間稼ぎにあったからです。その作戦は功を奏し、遂に現れました。
 そこら辺の魔族より圧倒的な邪気を纏うジェノです。ジェノはあたしのことが好きすぎて、人族のくせに角を生やしてきました。もう少し角のフォルムが格好良くなったら交際を考えてやってもいいとは思っているので、その時はお母さんに紹介しますね。
 話は戻りますが、ケイトは自分が勝手に話した情報料を、なぜか私にツケやがりました。
 二億エディです。最初は冗談かと思っていたのですが、本当に債権を回収業者に売り払い、ケイト自身はどこかにトンズラしました。こうして、あたしは身に覚えの無い借金によりさまざまな業者から追われています。ユフィさんの遺産である千五百万エディをなんとかギルドから下ろして少し返済したのですが、残り一億八千五百万エディの返済目処は立っていません。
 お母さん、助けて――

「っ!」

 そこまで手紙を書き綴ったところで、部屋のドアノブをガチャガチャと回された。おそらく、借金取り。
 あたしは部屋の中で息を潜め、ベッドの上に脱ぎ散らかした服を音もなく回収する。大丈夫、鍵はかかっているし、このまま服を着て窓の外から脱出する時間は十分にある。
 以前は突然の神の襲撃により酷い目にあったが、あたしは学習する女。すでに窓の向こうの屋根伝いに逃走ルートを用意している。
 しかし、ドアは思いもよらない音を立てた。
 カチャリ、と鍵が回った音だ。

 ――!

 あたしは焦った、まだ服も着ていない下着姿のまま。一体なぜ鍵が開いた――まさか宿屋の店主が合鍵を? いや、そんなはずはない。ここは意外に個人情報の管理が厳しいところだ。どうして……。
 くそっ、このままだとドアを開けられてしまう。急ぎ鍵を閉めるか、いや、だけどいまズボン履いてる途中だから脚が動かない。ヤバい、ドアを開けられ――

「リリヤカ! 私よ!」

 扉を開け放ったのは、長い銀髪に白いローブ姿の女性。そして忘れもしないあの人を小馬鹿にした笑顔。

「ユ……ユフィさん?」
「あら、なんて格好してるの? ムラカミ、今乙女の着替え中だからあなたは待ってなさい」

 ユフィさんは驚愕するあたしに構わず部屋の中に入ってくると、使っていなかったプリポ嬢のベッドの上に勢いよくダイブする。

「あ〜これこれ、この半端にほどよい柔らかさ。落ち着く」

 そして、いつもどおりゴロゴロと寝転がる。
 突然のことにあたしが固まっていると、ユフィさんに続いて部屋に入ってくる短い茶髪、あの見慣れない服を着た女。

「やっ、こないだぶり」

 小さく手を振り満面の笑みをたたえるのは、ルグルナとかいう一般神だ。いや、そもそも一般神てなんだよって思うし、とりあえずなんかの神。理不尽なくらい強い。一発殴られて殺されかけた。

「……」

 突然の神々の襲来にあたしは頭の中を整理しきれず、モソモソと服を着る。一体この状況はなんなのだろうか。なにかの悪戯だろうか。

「なに? どうしたのよ、リリヤカ。私に会えて嬉しくないの?」


 ベッドの端に座り直し、ニヤニヤとするユフィさん。あのいつも通りの変わらない様子を見て、あたしの涙腺に熱いものが込み上がってきた。鼻の奥もツンとしてきて、それに耐えようとすると口元が変に曲がってしまう。

「え、ちょっと、リリヤカ?」

 滲む視界の中で立ち上がって、手のひらで一度涙をぬぐい、それから――ユフィさんの胸に抱きついて顔を埋めた。あんな迷惑なクソ女神でも、帰ってきただけでこんなに嬉しいとは思いもしなかった。

「も、もう! なによ、甘えちゃって……」

 ユフィさんがソワソワしてるのが伝わってくる。たぶん人に見られてるのが恥ずかしいからだろう。あたしはそれに構わない。

「あ! そ、そうだリリヤカ。私のお金は? 預けてたカードに入ってるやつ」
「全部使っちゃったっす」
「え?」

 ユフィさんの顔は見ず、胸に顔を埋めたままギュッと強く抱きしめた。

「全部使っちゃったっす」
「……う、うん、わかった、わかった! 別にいいよ、お金なんて無くても気にしないから! だからお願い離れて苦しい――」

 力一杯、強く抱きしめた。



 あたしたちは久々の再会を祝し、一階の食堂でお茶をすることになった。ユフィさんから海上に落ちたことと、船旅からここまでの道中をかいつまんで聞く。

「――まあ中央大陸の港町ついたら速攻で身分証提示求められて焦ったんだけどさ、ルグルナの出したら私たち全員通してくれたし、テレポーターもムラカミの顔パスで通れたってわけ。ムラカミって特徴無い顔なのに案外覚えられてるのね」
「いや、たぶん俺っていうか、当時の仲間が個性的すぎたんだと思います、けど……」

 ユフィさんにはルグルナさんの他にもう一人連れがいて、名前はムラカミという。神ではなく異世界の人族であり、全身をピチピチの黒い服で包む変な格好をしている男。文化的なものだろうか。それに何故だかムラカミは、やけにあたしの顔をジロジロと見まわしてきた。

「あ、あのさ、リリヤカちゃんって……どこかで俺と会ったことない、かな?」
「なんすか、ナンパっすか? そういう手口今時流行って無いっすよ」

 どうやらあたしの美貌に見惚れてしまったらしい。そりゃいくらあたしが可愛いからお近づきになりたいといっても、そもそもムラカミには角がない。男としては生理的に無理だ。

「あらムラカミ、リリヤカに惚れたって無駄よ? リリヤカは角にしか欲情できない変態なんだから」
「角は異性にアピールするシンボルっすよ、当然じゃないっすか。角生やしてから出直して来た方がいいっすね。あとあたし変態じゃねえっす」

 ムラカミはスルースキルが高いのか、あたしとユフィさんからやんや言われても顎に手を当て小さく呟くだけだった。

「……そうか、角。角が無いもんな」

 そう、あたしの頭を見ながらブツブツと。

「というよりっすね、女の子にモテたいんなら角よりそのピチピチの格好どうにかしたほうがいいっすよ。なんなんすかその服」
「失礼ね! これは私の神器"神鎧ユフィユフィット"だよ。今は壊れてて排泄物とか垢を異次元に垂れ流す機能しかないけど、本当はすごい鎧なんだから!」

 あたしが角以前の問題を指摘すると、意外にもユフィさんが息巻いてきた。どうやらあの黒い服はユフィさんが作ったものらしい。

「最低な機能じゃないっすか! ムラカミさん、あんたそんな服を着てていいんすか!?」

 意味のわからない服を着させられてムラカミは文句がないのだろうか。あ、悟ったように遠い目をして笑ってる。案外いい奴なのかもしれない。
 紅茶に蜂蜜を入れながらあたしたちのやり取りを眺めていたルグルナさんも、ムラカミの服装に口を挟む。

「そうだよムラカミ。もうそれ脱げないんだしムラカミの皮膚と同じみたいな物なんだから、裸でウロウロしてる感じになってるよ。正直言ってちょっとキモいし、私一緒に歩くの恥ずかしいから上に何か着て」
「はっは、だよね!」

 ルグルナさんから真っ直ぐに辛辣でジワジワと心にくる言葉を浴びせられても、ムラカミは笑って流す。ものすごい精神力の高さだ。きっとここへ至るまでに潜ってきた修羅場の数が違うのだろう。
 ユフィさんが連れてくるくらいだから、只者ではない、ということはわかる。だが、あたしより少し年上くらいに見えるのに、ちょっとやそっとじゃ動じないこの落ち着きよう。ムラカミの正体とは一体何なのか……。
 あたしが目の前の優男について考えていると、ユフィさんが話題を変えるように手を叩いた。

「そうそうリリヤカ。あれから神器は集まったの? まさかエディのやつに取られたりしてないでしょうね」
「集まってねえっすよ、こっちは大変だったんすから。取られちゃいないっすけど」
「なんだ集まってないのか。まあ三つ(・・)とも無事ならそれでいいわ」
「なんだとか酷いっすね。あたしたちが神器を守るためにどれだけ……あ、冥王の兜だけルグ――っ!」

 その瞬間――テーブルの下、あたしの足の上にはまるで巨大な鉄球が置かれたような衝撃が走る。この重圧プレッシャーは以前も感じたことがあるから間違いない。ルグルナさんだ。
 目の前に視線を送れば、ルグルナさんは酷く焦った表情であたしの足を踏み、何かを伝えようとしている。ちょっとまじで痛い。本当にどう――っ! まさか、兜を持ち出したことはユフィさんに言っていないのか……返せばいいだけのはずなのに、何か複雑な事情が……。
 勘弁してくれよ、変な事にあたしを巻き込まないでくれよ、と考えるが、あたし自身意気揚々と売りさばいてしまったことを思い出してしまった。一瞬にして高まる緊張で首筋が固くなり、口の中の水分も急速に引いていく。しかも、これはいずれ確実にバレることであり、誤魔化すこともできはしない。
 そして当然のように、ユフィさんはあたしの緊張した様子を見逃さなかった。

「どうしたの? リリヤカ」
「あ、あの……神器の兜、壊れてたやつだけっすね……」
「冥王の兜? まさか直そうとして変に弄ってないよね? あれ材料だけでも凄く値打ちものなんだから。売ったら人生三回は遊んで暮らせるレベルで」

 百万エディで売っちゃった。

「ひ……い、いや、あれだけ……奪われてしまったんすよ」
「えー! なんでよ!?」
「や! あたしも頑張って守ったんすけど、相手が神さまだったんで手も足も出なかったんすよ! ほら、その時やられた頬っぺた、まだ腫れも引いてないんすから!」

 あたしはもう腫れてもいない左の頬を必死に主張する。だが、ユフィさんは意外にも腕を組んで考える仕草を作るだけで、あまり怒った様子もなかった。

「神の襲撃? やっぱり裏でわけのわからない地球の神が動いてるのね。あまり関係ないから放っておいてやろうかと思ったけど、私の仕事の邪魔をしてくるなんて許せないわ。……でも、リリヤカ」
「……はい」

 ユフィさんは眉根を寄せて怖い目を向けてくる。あたしは結局怒られるのか、と俯くしかなかった。でも仕方ない、貴重な神器を一つ失ってしまったのだから。普通に考えれば大失態だ。ここは観念して、おとなしく怒られるしか……。

「あ、あまり無理して心配かけないでよね! 神器は取り返せばいいだけの話だけど、リリヤカの命が無くなったら取り返せないんだから! もう、本当に……無事でよかった」

 照れ臭そうに頬を赤らめて鼻の頭をかくユフィさん――あたしは胸の中がじんわりと暖かくなりながら、こう思うことしかできなかった。なんか、色々ごめんなさい。

「まあいいわ! 神器は一つ失ってしまったけれど、私たちの邪魔をする敵の姿が見えてきた。おそらく前にムラカミを襲ったのもそいつの仕業ね! 仕事の傍で遭遇したら絶対ぶっ殺してやりましょう!」

 ユフィさんはみんなを鼓舞しながら握り拳を掲げた。

「ああ、あいつだけは絶対許せない。ゴリエルの仇だ……この手で地獄に叩き落としてやる」

 優しそうだったムラカミが急に冷たい顔を作る。

「たぶんムラカミを襲った神が転生者や神器をばら撒いた諸悪の根源ですね。そいつのせいで私も無駄な妄想広げちゃったし……これは天界史に残る大事件ですよ! 私、ユフィさんが解決したってしっかり記事に載せますから!」

 ルグルナさんがペンを持ちながらウインクして、

「あ、あたしも頑張るっすよ!」

 あたしもなんとなく乗っかった。

「ぶっ殺すぞー!」
「「「おー!」」」

 よくわからないけど、みんなの心が一つになった――。

「――あれ?」

 紅茶を一口運び、冷静になったユフィさんが急にキョロキョロと辺りを見渡す。何か気になることでもあるのだろうか。あたしももう隠してることはないか、と思考をフル回転させる。

「そういえばプリポは? 今日もクエストで遊んでるの?」
「あ、プリポ嬢は今修行――」

 ――その時だ。
 カランカランとドアベルが鳴り扉が開く。他のお客さんもいるのに一瞬で静まり返る食堂内、皆の視線が一斉に入り口へと注がれる。
 その人物が足を運び入れた途端、空気が重くなったのを感じた。強者――細胞全てにかかる重圧がそう予感させる。危険を報せる気配と言うべきか、それは圧倒的捕食者と遭遇してしまった時に陥る感覚とよく似ていた。
 木製の床を軋ませる小さな足音はこちらに近づいてくる――あたしは皆の視線を追って、ゆっくりと振り向いた。


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