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女神さまのお仕事。 作者:山川海

女神さまのお仕事

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女神、序章

 私は女神。下界の管理を任され、時には勇者を育て導く存在。慈愛溢れる加護を与え、慈悲深い心で罪を赦し、文化の発展や人々の成長を暖かい目で見守る者。そして人は私を崇め、縋り、日夜祈りを捧げている。つまり私はとても偉く、尊い神なのだ。
 しかしそんな貴き女神である私が、”下界に堕とされる”ことになろうとは、夢にも思わなかった――。

 ある日、いつものように信仰値(売り上げ)を誤魔化し、せっせと自分の懐にちょろまかしていたときのこと。携帯水晶に一通のメッセージが届いた。

『第六十四回、勇者魔王戦争概要』

 簡単に説明すると、勇者が生まれ魔王が出現したので戦争が始まりますよ、といった報せだ。
 もうそんな時期か、と収支報告改竄の手を止め、唇を尖らせながら渋い顔を作る。ついこの間魔王を倒したと思っていたのだが、下界のカレンダーを見ると以前の戦争が終わってから数十年の月日が流れていた。
 私が前回導き(プロデュース)した先代勇者は優秀な人物であり、多大な戦果をあげて魔王を難なく討伐。おかげで私の評価もうなぎ上り、星の一つを任されるエリア女神ゴッデスにまで昇進したのだ。

 神の立場からすれば下界の半世紀近くなどあっという間なので、選ばれた勇者を毎度導いたり育てたりするのは実に面倒くさいことなのだが、今回も私が担当なので仕方なく戦争の概要を確認する。そして――憤慨した。

 ありえない。概要を読むと、今回の魔王と勇者のパワーバランスが明らかにおかしいのだ。

・魔王
歴代最強の魔王。前勇魔戦争時代では魔族側の英雄。『不死身の黒龍』の異名で世界に名を馳せた魔族。既婚。

 私はあまり興味なかったので観ていなかったが、以前の戦争で先代魔王すら圧倒した勇者に、バラされても潰されても落とされても追いかけてきた恐ろしい魔族だと聞いている。
 対して、勇者の概要はこうだった。

・勇者
村人と村人の間に生まれた、由緒正しい村人。現在赤ちゃん。

 この事実には頭を抱えながら狼狽するしかない。
 おかしい、明らかにおかしい。魔王と勇者のバランスはある程度均衡が保たれるはず。強い魔王が現れた場合、対する勇者は、王族や伝説の勇者の子孫などが選ばれるものなのに。システムがバグったのか……前回以上に厳しい条件での戦いだ。このままでは今回の戦争に負けてしまう、降格してしまう、お給料が下がる、独身女神だけどローンでマイホームも購入しちゃったのに――と焦る。しかし、悩んでいても決まってしまったものは覆せない。
 私は諦めて、まあ最悪誤魔化せばいいか、と開き直った。



 勇者の村の近くのそれっぽい神官に神託を送りつけてから数日が経った日のこと。今日もせっせと信仰値(売り上げ)の一部を抜いていたとき、突然背後から声をかけられる。

「あの、すみません」
「いいえ! 特にやましいことはしてません!」
「え?」
「……え」

 焦りながら振り向くと、そこには小太りな青年が佇んでいた。

「あ、驚かせて、ごめんなさい。こ、ここはどこですか?」
「どこって……私のオフィスだけど」
「オフィス?」
「エリア女神ユフィの間だよ。なにあなた、近所のクソガキ?」
「あ、いえ、トラックに轢かれて、気がついたらここに……」
「はあ? 意味わかんねえこと言ってると殺すぞ」
「え……」

 なにこいつ、頭湧いちゃってるのかしら、と思いながらも問い詰めていくと、どうやら青年は人間で地球圏の日本から来たらしい。トラックに跳ねられ、魂だけ遠路遥々迷い込んできてしまったのだろうか。
 しかし、死んでしまったにも関わらず、この場所が天界の女神の間であることを知った青年は目を輝かせた。

「あの、こういうのって、今から魔王倒しに行けってやつですよね?」
「え、なにあなた、そんなメタボな魂で魔王倒せると思ってるの? 脆弱な地球人ごときが、こっちの世界なめてるの?」
「いや、なめてないですけど。ほら、凄く強い武器とか能力与えられて、異世界に送られるって話じゃ」
「なんの話だよ、意味わかんねえよ殺すぞ」
「え〜……」

 無駄に驚かされたし消滅させてやろうか苛立っていたところ、青年はとある小説サイトを私に教え、そのたくさんある物語のあらすじを説明する――。

「へえ、なにこの水晶小説。八割方同じ始まり方してるけど面白いね。うん、だいたい理解したよ」
「水晶? とりあえず、わかってもらえて良かったです」

 どうやら地球では、一度死んだら異世界で生き返り活躍する物語が流行っているらしい。メタボな青年も転生を望んでいるらしく、私は慈愛溢れる女神として願いを叶えてあげることにした。これで魔王倒せたらラッキーじゃね、という内心は秘密。
 何か手頃なものはないかとオフィスを見渡し、一人鍋パーティーをするときの土鍋の蓋になっていた盾、それと新しい肉体を青年に授ける。

「さ、メタボな青年よ。これを持って世界を救うのです!」
「なんか、油でベタつくんですけど」
「必ずや、魔王を討ち滅ぼすことを願っております。よし行け!」
「あ、ちょっと、向こうの説――」

 こうして、青年は旅立っていった。



 あれから、二ヶ月が経った。
 鍋を食べようと土鍋の蓋を探していたところ、青年にあげてしまったことを思い出す。失敗したなあ、と後悔しながらも、あの青年がまだ生きているのか気になり、大型の高機能水晶で確認してみた。

 ……。

 ヤバい、破竹の勢いで進撃している、魔族領の直前だった。迫り来る魔族の軍勢を蹴散らしている。
 なんだか身体も引き締まり、顔も凛々しく変わっていた。そして、数人の女の子を引き連れ敵を圧倒している。
 あれ、もう今回の戦争勝っちゃうかも。女神、降格免れてとっても嬉しい。

「よし、行け! そこだ、やれ!」

 しばらくその様子を応援して、飽きて、土鍋の蓋を買いに出かけた――。

 それからまた一月が経ち、そろそろ戦争終わったかな、と意気揚々に大型水晶で確認したところ。

「あれ、映らない」

 どうやら、青年は死んでしまったようだ。魔王を討った、という情報もなかった。あの魔王軍を蹴散らしていた青年ですら敵わなかったのだろうか。

「え、今回の魔王ってそんな強敵なの?」

 私は焦る、これは由緒正しい村人に勝ち目はない、と。降格と自宅のローンの恐怖に怯えながら、頭を抱えた。
 落ち着け女神。こうなったら、降格の前に主神セロスをなんとか殺し、私が主神の座に就くしかない。セロスは強敵だが、奴を消すためにたくさんの強力な神器を集めて来たんだ。出来る……、私ならやれる……、殺れるんだっ……!
 そう自分を奮い立たせていたときだ。
 脳裏に電流が走り、閃く――!

 私はもう、これしかないって本気で思った。



 ――そして月日は流れ、十五年後。



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