恐怖のフリータイム
俺は迷わず浴場に駆け込んだ。
本能的に、この中を調べておかなければならないと思ったからだ。
けして、女の子の入浴シーンが見られるかも……なんて期待はしていなかったが、俺を待ち受けていたのは、あまりにも無慈悲な現実だった。
「おぅ。ポチもコッチへ来たのか」
最初に声をかけてきたのは、茶畑のオジサンだ。
服を脱いだら、背中に龍の刺青とかが彫ってありそうなので物凄く怖い。
俺が何のへんてつも無い脱衣籠を調べていると、ホストの紫刃さんと、彼のボディーガードをしているという長髪の男に両脇から抱えられ、浴室内に連れていかれた。
男湯はそんなに広くないので、ガタイのイイ男たちが服を着たまま何人も集まると、狭い、ムサイ、暑苦しい、の3拍子。
女の子がいれば天国だったのに、ココは釜茹で地獄のようだ。
「おい、ポチ。なんで浴室に来た? お前、俺の事をかぎまわっているんじゃないだろうな?」
ホストにわけの分からないイチャモンをつけられて震え上がっていると、更衣室を見回っていた陽気な大学生の太陽さんが洗い場に入ってきた。
そして、思わず本音を漏らす。
「あちゃ~。夢も希望もない風呂場だなぁ」
キッチリ男女で分けられている浴室の壁は、のぞけるような穴もなく、天井にも隙間すら開いていない。
俺だってまさか女湯が見える仕様になっているとは思わなかったけど、何よりも浴室に集まったメンバーが酷すぎる。
不純な動機でやってきた俺と太陽さん。
それから、普通の時間には風呂に入れなそうなオジサンに、柄の悪いホストとボディーガードの凶悪コンビ。
俺のバカ。
なんで食堂にしておかなかったんだ!?
「おい、金髪とロン毛の兄ちゃん。お前らはさっき、庭にいたんだよなぁ。黄崎が何か言っていなかったか?」
浴場の扉に鍵がかかって逃げ場の無いフリータイムが始まると、茶畑のオジサンがホストたちに声をかけた。
「あぁん? そういや……夜のターンが来たら殺されるとか、ほざいていたな」
紫刃さんが答えると、清水さんというホストの連れも短い相づちを打つ。
「どういうことか、もう少し詳しく聞かせてくれや」
夜の街で仕事をしている紫刃さんもかなり迫力があるが、さすがにパンチパーマの茶畑さんにドスのきいた声で尋ねられると、素直に喋り始めた。
庭にいたホストたちは村人陣営だと分かっているし、犬のフリをするつもりもなさそうだ。
「不正行為がバレると、夜のターンに処刑されると銃で脅されたらしい」
「それじゃあ、黄崎が逃げ出そうとしたのは、不正をしていたからなのか?」
「さぁ、そこまでは知らねぇよ。『大神は危険だから、今すぐ逃げよう』って提案してきたんだが、若い高校生たちはゲームに参加したいから屋敷に残るっていうし、小学生のガキはもっと遊びたいって騒ぎ出すし、俺たちもちょっと調べたい事があるからな。アイツを無視していたら、勝手にヤケを起こして飛んだのさ」
紫刃さんは馬鹿にするように笑い始めたが、清水さんは真面目な顔つきのまま何かを考えているようである。
「そういえば、黄崎の女が妙な事を口走っていなかったか? 黄ぃ君は役職があるけど、私はただの村人だから、抜けても大丈夫とかなんとか」
「そうだ! 女が黄崎の職業を知っていたなら、アイツラ不正をしていたんじゃねぇか」
紫刃さんの言葉に茶畑のオジサンが顔をしかめ、口を出せずに縮こまっている俺と太陽さんを放置したまま、3人が推理を進めていく。
「おそらく、黄崎と奴の恋人は、お互いの職業カードを交換したか、見せ合っていたんだろうな」
「それをミラーか隠しカメラを使って、バスを運転していた大神に見られてしまい、銃で脅され、逃げようとして感電した」
もしソレが本当なら、黄崎さんの事故は偶然起きたとはいいがたいが……結論にたどり着いたホストは、安心したのかすっかり表情を緩めている。
「だいたい黄崎は焦りすぎなんだよ。大神に殺る気があれば、銃を出した時点で処刑されていたはずだろう。現実と二次元の差がついていないから、奴の言葉を猛信しすぎたのさ」
「処刑と言っても、実際にはゲームから排除されるくらいだろうからな」
「たかがゲームで不正なんてする気はねぇが、俺たちも気をつけた方がいいぞ。大神に弱みを握られると、後々面倒な事になりそうだからな。もしかすると、今も見張られているかもしれないぜ」
ホストが天井を見回しながら隠しカメラを探し始めると、茶畑のオジサンもシャワーや水道の周りを調べ始めた。
俺と太陽さんが更衣室に戻ろうとすると、長髪の男が絡んでくる。
「おい。ドコへ行くつもりだ? そんなに俺たちが怖いのか? 一緒に遊んでいるんだから、もっと情報をくれよ。そういや、お前らは窓際でコソコソ喋っていたよな?」
ポキポキと指を鳴らしながら近付いてくる。