最終問題
「それでは、最後のゲームも終わりましたし、勝利した方はバスに乗って下さい」
大神黒子が声をかけると、青葉さん親子と、桜さんの手を引いた灰野さんが鶴の間から出て行こうとした。
しかし、それをモジャモジャ頭の若草が引き止めた。
「待って下さい。誰も、この部屋から出ないで下さい」
「また若草君ですか。君はどうして我々の邪魔ばかりするんでしょうねぇ。その理由を聞かせてもらえませんか?」
大神さんが睨みつけると、若草が説明し始めた。
「僕の予想では、バスの運転手さんは、Wataruというハンドルネームを使っている人物ではありません。アナタは、大嘘つきのウルフブラックが用意した身代わり人形で、このツアーの本当の主催者は、別にいるはずです」
「なんだって!?」
太陽さんが目を丸くしたが、大神さんは落ち着いた態度のままニヤリと笑っている。
きっとワタルの正体がバレない自信があるのだろう。
「だったら、一体誰が本当の主催者なのか、教えてもらえませんかねぇ」
「Wataruは、少し前から何度も人狼ツアーを開いて、奇妙なオフ会を繰り返しています。彼は、金を集める事が目的だと思わせるために多くの嘘をついていますが、本当は、ある殺人計画をカモフラージュするために、『この屋敷で行われていたのは、ただの人狼ゲームだった』と証言する不特定多数の人物を集めていたのだと思います」
「殺人計画ですか。でも……誰1人として死んでいませんよ」
「確かに、これまでのツアーでは何の事故も起きず、参加者たちは豪華な食事を振舞われて解放されていました。ですが、今回は黄崎さんと、紫刃さんの2人が重傷を負っています。彼らを狙った犬屋敷人狼こそ、Wataruが本当に実行したかった殺人計画だったんです」
「そうですかねぇ。2人の事故は、偶然だったと思いますが……」
大神さんはシラを切り続ける。
若草は本当に、姿を見せないワタル君を見つけられたのだろうか?
「犬屋敷人狼が行われた最初の晩、庭に飛び出してきた黄崎さんは、ひどく怯えていました。おそらく『不正を行ったプレイヤーは、夜のターンに処刑される』と本物の銃で脅されていたからです」
談話室にいた俺たちは、外にいたバスの運転手が発砲して、黄崎さんのカメラを壊したという話を聞いている。
「黄崎さんを脅した時に『お前たちがお互いのカードを確認していた事を知っている』とでも付け加えておけば、夜のターンに自分と彼女が殺されると思い込んだ黄崎さんが、死に物狂いで逃げ出そうとしてもおかしくありません」
黄崎オンラインは、談話室には目もくれず、庭に飛び出していった。
そして無謀にも思えたトランポリンを使った脱出方法に自ら挑んだ。
……彼が大神さんの言葉を信じ込んでしまったのは、本当に不正をしていたからだ。
醜悪な男は自ら処刑台に飛び込んだが、紫刃さんが雷に撃たれたのは、偶然としか思えない。
俺は、若草に聞いてみた。
「黄崎さんは追い詰められていたかもしれないけど、ホストの紫刃さんが雷に撃たれたのは、偶然じゃないの?」
「ポチさんは、どうして雨が降りそうな時に屋上に出されたのか。疑問に思いませんでしたか?」
「おかしいとは思ったけど……だからって、雷が落ちるかどうかなんて誰にも予測できないだろう?」
「別に、雷じゃなくてもよかったんだと思いますよ。本当は、雨が降り出して、慌てて建物の中に戻ろうとしたドサクサに紛れて紫刃さんを突き飛ばし、足を滑らせた彼が壊れた手すりから転落する予定だったのかもしれません」
「まさか……。それに、実際に落ちそうになったのは空君じゃないか」
空君はどうして狙われたのだろう?
俺は、空君が落とされそうになった事で、青葉さんが大神さんの仲間なのかどうか確信が持てなかった。
でも……若草が出した答えは、最初から子どもの手をつかんでいた青葉さんが、誰かと共謀し、子どもが突き落とされたような演技をしていた説だ。
「紫刃さんが思い通りに動いてくれるとは限りませんから、手すりから落とすことが難しいと考えた実行犯たちは、手すりの側が危険だと知らせることで、彼を避雷針として立たせる作戦に変更したんです」
監視カメラを使って参加者たちの行動を監視していた大神さんは、紫刃さんが放電されているかもしれない危険な湯船に手を突っ込んだことを知っていた。
その情報を仲間たちにも伝えていれば、たとえ落雷の危険があったとしても、紫刃さんがそんなに恐れず、対策を怠ると考えたのだ。
ゲームの行動は意識的に変えられても、本質的な性格はそう簡単には変えられない。
そこで、やはりワタル君の仲間だったバスガイドのお姉さんが、俺たちに姿勢を低くするよう指示を出し、ホスト以外の人間をしゃがませることで、紫刃さんに雷が落ちる確立を引き上げたのである。
「臨機応変に作戦を変えることが出来るのは……犬屋敷人狼のプレイヤーの中に、ウルフブラックの味方が大勢いたからです。彼らは、各自が部屋に戻る夜のターンを利用して、情報を交換したり、作戦を練り直していたのでしょう」
若草は自信満々だが、大神さんは納得いかずに不満を述べる。
「でも、全ては若草さんの推測にすぎませんよねぇ。たまたまこういう結果になってしまいましたが、直接、彼らに手を出した人間はいませんし、ウルフブラックなんて存在しないんじゃないですか? きっとゲームのやりすぎですよ」
「いいえ。僕はWataruの正体を知っています。大神さんに主催者を演じさせていた本物のウルフブラックは……あたかも人形が動いているかのように見せかけていますが、本当は自分で全てを語っている腹話術師のような男なんです。嘘を巧みに操ることで、多くのプレイヤーを恐怖に陥れ、冷静な判断力を奪っていたようですが……僕の前で嘘をついたがために、全ての謎が解けてしまいました」
「それで……本物のワタル君は誰なんだ?」
俺が尋ねると、若草がヒントを口にしたが、もったいぶって、なかなか答えを教えてくれない。
「前にも教えた通り、嘘つきな男ですよ。ウルフブラックは、大勢の仲間を集められるような魅力的な人物で、ホストクラブに通うようなイケメン好きの婚約者がいたくらいですから、かなりの色男です。さらに、こんな大きな屋敷を持っている資産家ですから……おそらく、臓器を売る必要なんてないでしょう」
「それじゃあ、ココが闇組織の隠れ家っていうのは、嘘なのか?」
「えぇ。彼が口にした言葉は、ほとんどが偽りなんです」
それが本当なら、俺は切り刻まれずに済みそうだが……。
「私怨を晴らしたウルフブラックは、全ての参加者たちを屋敷から解放して逃げるつもりだったと思いますが……ある女性だけは解放する気がないようです。2週間も手元に置いていた少女を連れて逃げようとしている人物こそ、本物のウルフブラックなんですよ」
若草がバスに乗ろうとしていた4人に近付こうとすると、大神さんが銃を取り出して、1発撃った。
「困りましたねぇ。死体の処理は面倒くさいので、何も気付かなかった事にしていただければ、誰も傷つけずに済んだのですが……」
弾は誰にも当たらなかったが、座敷の1番奥の壁に飾られていた掛け軸に穴が開いた。
「ポチ君。コッチだっ」
皆の視線が掛け軸に向いた隙をつき、探偵の灰野さんが俺の腕をつかんで部屋の中から逃がしてくれた。
座敷の中ではまた銃声がして、残っている参加者たちの悲鳴が聞こえる。
「ポチ君も一緒に逃げよう」
灰野さんは、俺と、桜さんの手をつかんだまま屋敷を出てバスに向かう。
「でも……他の人たちは?」
「大丈夫だ。大神は彼らを撃ったりしないから」
なぜ、そんな事が言えるのだろう。
それに、今、桜さんを連れて屋敷から逃げようとしている人物は……。
俺と桜さんはバスの中に押し込まれたが……運転手がいないので、動き出さない。
これってどういう状況なんだ!?
ヒントの会話はここまでです。
◇最終問題 屋敷に集まったの登場人物たちの配役を推理してみて下さい。
本物のワタル×1
ワタルの仲間×4
ワタルのターゲット×2
主人公×1
行方不明の少女×1
探偵×2
潜入捜査官×1
ただの参加者×6
ポチ、桜、太陽、若草、緑川、茶畑、灰野、青葉(父)、空君、紫刃、清水、大神、運河割男、黄崎オンライン、黄崎の彼女、眼鏡さん、メイドさん、バスガイドさん (18名)
※答えはエピローグの後で発表します




