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人狼当てゲームのシナリオです  作者: 古月 ミチヤ
後半スタート(メインストーリー)
58/70

取引

「ポチさん。来ていただけましたか」


 101号室の扉を開けると、バスガイドのお姉さんは去ってしまい、まさに密会という状況で謎の取引を持ちかけられた。

 大神さんは、相変わらず不気味な笑みを浮かべながらイスに腰掛けており、俺は彼にうながされて、向かい側のイスに腰をおろした。


「実はですねぇ、少々厄介な問題がありまして、ポチさんに、次のゲームで寄生虫を退治して欲しいのです」


「は? どういう事ですか?」


 寄生虫というのは、運河割男という参加者の事らしい。

 その男は、1ヶ月くらい前に行われたオフ会の時にフラッと現れ、参加したゲームに必ず負けることで、1円も支払わないまま屋敷の地下に滞在し続けているという。


「運河さんは家を持っていないネットカフェ難民だったらしくて、わざと負け続けて屋敷から出ようとしないのです。ですが、次が最後のゲームになりますから、彼を勝たせて、屋敷の外に連れ出して欲しいのですよ」


 大神黒子がウルフブラックなら、臓器を奪ってしまえば良さそうだが、ルールを守ることに固執しているのか、その男をゲームを使って追い出したいらしい。

 

「どうしてソレを俺に頼むんですか?」


「私は、ポチさんを信じていると言いましたよねぇ。最後に残された者がどうなるか? 考えてみた事はありますか?」


「えっ? どうなるんですか?」


「……どうしようか。とても悩んでいるところです」


 大神さんは危険な含み笑いをした。

 最後のゲームに負けた者がどうなるかなんて考えた事も無かったが……???


「私としては、全ての参加者様にゲームと食事を楽しんで帰っていただきたいのですよ。……ですが、運河さんは負けるために全力を尽くしますから、誰かがそれを阻止しないと彼が入った陣営は必ず滅ぼされてしまいます。次は私もゲームに参加しますので、ポチさんも手を貸していただけませんか?」


「俺に、協力しろって言うんですか?」


 やっぱり、大神さんはゲームの展開を操作するつもりらしい。


「もちろん、タダで、とは申しません。私と組んでいただければ、ポチさんが次のゲームで勝っても負けても、この屋敷から解放するとお約束します。一刻も早く帰りたいようですし、何かご予定でもありましたか?」


「いえ……」


「あぁ、そういえば、お友達と勉強している事になっているんでしたっけ。親をだますなんて大罪ですねぇ」


 大神黒子は、俺の嘘を指摘しながら、仲間になるよう迫ってきた。

 きっと、嘘つきな狼少年だと思っているのだろう。


 俺まで操るつもりらしいが……本当に屋敷から出してもらえるなら、そんなに悪い条件でもないような気がする……。

 むしろ、おいしすぎて怖いくらいだ。


「そろそろ食事の準備が出来る頃ですから、この場で答えを決めて下さい。害虫駆除を手伝ってもらえますか?」


「……。もし断ったら、どうなるんですか?」


「この話は忘れて下さい。普通にゲームを楽しんでいただければいいと思います」


 次のゲームで俺がすべき事は、大神陣営を排除することだ。

 奴と組んでいる場合ではないと思うが……あまりにも美味しい餌をぶら下げられて、心が揺れてしまう。

 それに、確かめておかなければいけない事がある。


「あの……地下で配られた人狼当てゲームの問題なんですけど、他にもあるんですか?」


「あぁ。色々言いたい事があるとは思いますが、実はですねぇ、アレを作っているのは私ではないのですよ。ですから、苦情の方はお控え下さい。まぁ、気持ちはお察ししますけどねぇ。結構、酷い内容でしたから」


「では、どなたが作っているんですか?」


「私の友人です。まだ人狼を知ってから日が浅いのですが、ポチ君が興味を示していたと伝えておきますよ。きっと、喜ぶと思いますから」


 どうやらワタルの正体は、大神黒子の友人らしい。

 それに、大神さんは、ウルフブラックではなさそうだ。


 ということは……バスの運転手は、ワタル君が用意していた偽者の主催者で、本当のワタル君こそ、このツアーを計画した屋敷の主……本物のウルフブラックなのかもしれない。

 

「もうこんな時間ですか。……まぁ、気が変わったら、いつでもサインを送って下さい。ポチさんを救うことが出来るのは、私だけですから」


 俺が返事を渋っていると、大神さんはうすら笑いを浮かべながら部屋から出ていった。

 そして、すぐに放送が流れ始める。


――昼食の準備が整いましたので、参加者の皆さんは2階の『鶴の間』にお集まり下さい。


   ***


 101号室から抜け出した俺が1人で階段を昇っていると、太陽さんに声をかけられた。


「おいポチ。どこに行っていたんだよ」


「ええと……」


 もし大神黒子と2人きりで会っていた、なんて事が知られたら、奴の仲間だと思われてしまう。

 それはマズイ。


 というか、大神さんの狙いはソレだったのかもしれない。

 周囲を警戒していた参加者たちは、俺がバスガイドのお姉さんと一緒に抜け出した事に気付いたはずだから……取引に応じるかどうかなんて、どうでも良かったのだろう。


 俺はまた、ワタル君の偽者に仕立て上げられてしまったらしい。 

 

「トイレに行っていたんだよ」


「ふうん」


 太陽さんは納得いかないという表情のまま、先に鶴の間に入っていった。

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