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人狼当てゲームのシナリオです  作者: 古月 ミチヤ
後半スタート(メインストーリー)
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巧みな嘘

 談話室の中にいた若草と緑川が庭に出てくると、2人がかりでトランポリンを移動して、塀の側で飛び跳ね始めた。


「おいっ。何やってんだよ。2人とも。まさか、逃げようなんて思っているわけじゃないだろうな」


 コイツラは何をしでかすか分からないので、本当に危険人物だ。 

 思わず駆け寄っていくと、若草たちは悪びれもせず、黄崎オンラインの事故を検証しているだけだと答えてきた。


「う~ん。トランポリンは楽しいですけど、どう考えても塀を飛び越えるのは無理そうですね」


「やっぱり、よほど追い詰められていたとしか……」


 緑川は何もせずに眺めているだけだが、ジャンプを繰り返している若草は、あと少しで電線に触れてしまいそうだ。


「危ないからやめろって」


「そういえば、ポチさんはウルフブラックの仲間なんですか?」


「は? 違うよ。そんなわけないだろう」


「へぇ。ウルフの名前を知っているなんて、ただの参加者じゃないみたいだし……何を探っているんだろうね」


 緑川が冷ややかな視線を向けてくる。


「俺は、気になった事を確かめているだけさ。若草の方が、おかしな行動ばかりとっているじゃないか。なんで毒殺されたフリなんてしていたんだよ」


 ここぞとばかりに質問してみると、思わぬ情報を聞き出せた。


「もしゲームマスターにとって不測の事態が起きたらどうなるのか? それを調べるために、あえてトラブルを起こしてみたんです。……そしたら、思わぬ収穫がありました」


「収穫って?」


 モジャモジャ頭の若草は、得意気な表情になり、トランポリンからおりた。


「屋敷の地下で、嘘つきな男に会ったんです。僕たちは、まだ事件にはなっていないある少女の捜索を依頼され、ネット上に残されていた痕跡を辿ってこの屋敷に辿りついたんですが……誰が彼女を幽閉しているのか、それを示す決定的な証拠がみつからないんですよ」


「もしかして、ワタル君を探しているのか?」


「おや。ワタルさんのお友達にバレてしまいましたね」


 若草はわざとらしくため息をついた。

 でも、わざと情報を漏らして、俺の反応を確かめているみたいだ。


「何か誤解しているみたいだけど、桜さんはワタルじゃないよ」


「もちろん知っていますけど、ポチさんもご存知だったんですか? なんで知っているんですかね」


「若草こそ、どうして桜さんの秘密を知っているんだよ?」


 同じ高校生同士なのに、なかなか話がかみ合わない。


「知りたいですか? では、特別にお教えしましょう。彼女の本当の名前は、金子桜ではなく、一条茜さんだからです。僕たちは写真で顔を確認していますから間違いありません。そして、彼女を人狼ツアーに誘った人物こそ、本物のWataruなんです」


「それじゃあ、やっぱり桜さんが行方不明になっている女子高生だったのか。だったら、どうして金子桜なんて嘘の名前を名乗っているんだろう」


「おそらく、すぐ側に彼女を拘束している人物がいるからでしょう」


「なんで、そんな事が分かるんだ?」


「茜さんが名前をいつわっているからだよ」


 俺が首をかしげていると、緑川が口をはさんできた。


「監禁されている女性の多くは、なんとかして自分の状況を知らせようとするものなんだ」


 どうやらヒントを教えてくれたらしいが、ソレを聞いてもよく分からない。

 すると、若草が説明し始めた。


「では、もう少し詳しく解説しましょうか。『サクラ』という言葉には、賭博場や出会い系サイトなどで、客を騙すために働く店側の人間を示す意味もありますよね。彼女は『金のためにサクラをしている』と、偽の名前にメッセージを込めたのかもしれません。もし僕の推理が当たっていれば、サクラさんはおそらく、ワタルの手伝いをさせられています」


「あっ……」


「というわけで、僕たちは、サクラさんの側にいるポチさんの事をワタル君ではないかと疑っているわけなんですが……お分かりいただけましたか?」


「……あぁ。でも、俺は違う! ワタルじゃない」


「犯人はみんな、そう言うんだよね」


 緑川が呆れ顔で呟いた。


「本当に違うんだって! 俺も、本物のワタル君を探しているんだから」


「どうしてですか?」


「それは……」

 

 どうしてだろう。

 直接、謝罪すれば許してもらえるのだろうか。


「とにかく、あなたが本物のポチさんなら、気をつけて下さい。Wataruはまだ、誰かを狙っている可能性があります」


 それはおそらく、俺だろう。


「でも、偽者のポチなら、早く報告に戻った方がいいんじゃない? 僕たちはもうすぐ真相にたどり着くよ」


 2人はトランポリンを戻すために立ち去った……。


   ***


 太陽が真上に昇り、かなり日差しが強くなってきたので談話室に戻ってみると、灰野さんが新聞を読んでいた。


「そういえば、灰野さんが探していた行方不明の女の子って、この屋敷の中にいるんですか?」


 彼も一条茜を探しにきたと言っていたが、桜さんがそうだと知っているのだろうか。


「あぁ。なんとか助けだそうと思っているが……」


 灰野さんは、チラリと桜さんの方に視線を向ける。

 どうやら、彼女がそうだと気付いているらしい。


「俺にも、何か手伝わせてもらえませんか?」


 小声で頼んでみると、灰野さんは俺の顔を確かめるようにサングラスを外した。

 灰野さんの素顔は二枚目で、ホストの次に整っている。


「なるほど。僕と手を組みたいのか。味方が増えるのは嬉しいが……君が裏切らないという保証は無いし、たくさんのものを同時に守ることは難しい。彼女の事は僕に任せて、君は自分が脱出する事だけを考えていた方がいいんじゃないか?」


 やんわり断られた。

 灰野さんも、俺を警戒しているようだ。


 もしかして、俺がワタルだと思われているのか!?

 確かに、桜さんがよく近くに寄ってくるけど……それこそ、本物のワタル君の思う壺じゃないか。


 孤立無援。

 お互いを信じられない俺たちは、仲間を得られない。

 

 大神黒子は、何人かの協力者たちと、金が払えない人間を操る傀儡子くぐつしのような男だが……。

 ワタル君は、自分の偽者を用意して、ひたすら潜伏している人狼のような男。

 この2人は、同一人物か? ……それとも別人?

 

 一体、誰が本物のワタル君なのだろう。


 1人で考えこんでいると、バスガイドのお姉さんがドリンクを持ってきてくれた。

 しかし、どんな怪しい薬が入っているかもしれないし、俺は口にしなかった。

 すると、耳元でささやかれる。

 

「ポチ君。大神さんが101号室で待っているそうです」


「えっ? 俺を?」


「はい。こっそり扉の鍵を開けますから、ついてきて下さい」


 なんだ? 

 この怪しすぎる展開は?


「あの……バスガイドさんは、どうしてこのツアーに参加しているんですか?」


「仕事だからです」


「あぁ、そうですよね」


 ニッコリ笑いながら言いきられた。

 これ以上の追究は出来ないか。

 それに、101号室では何が起きるのだろう?

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