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人狼当てゲームのシナリオです  作者: 古月 ミチヤ
後半スタート(メインストーリー)
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リタイア料金

 午前8時になると、地下にある謎の部屋に集められ、意味不明な大神さんの説明が始まった。

 俺たちは好きでこの屋敷に残ったわけではないのに、追加料金を払えと言われたのだ。


 1泊2日の人狼ツアーに含まれていたのは、往復のバス代とゲームの参加費(1回分)と、食事の費用だけ。

 

「前日のゲームで負けた方は、今夜の宿泊費とゲームの参加費+食事代を合わせた3万円が必要になります」

 

 もし手持ちがない場合は、今日のゲームに勝って全ての参加費をチャラにするしかないという。

 ただし、負ければ屋敷からは出られず、ゲームに勝つまで毎日3万円ずつ料金が追加されていくシステムのようだ。

 段々、ウルフブラックの狙いが分かってきたぞ。


 部屋の中にいるのは、大神黒子と、村人陣営だった10名のプレイヤー。

 俺、太陽さん、桜さん、青葉さんと小学生の空君、探偵の灰野さん、長髪の清水さん、緑川、さらに消えたはずのバスガイドのお姉さんと、毒殺されたはずの若草までいる。


 昨日のゲームで病院送りになったのは、黄崎さんと紫刃さんだけだったようだ。


「あのぉ、すいません。今日は空と一緒に動物園に行く予定がありまして……」


 地下牢で空君と再会できたらしい青葉さんが、ありきたりな言い訳を口にした。


「そうですか。空君も退屈しているようですし、リタイア料金さえお支払いいただければ、お帰りいただけますが、どうしましょう?」


「それじゃあ、金額を教えて下さい」


 中央に手術台のようなものが置かれている不気味な部屋の中で、俺は必死に耳をすました。


「これまでの参加費の合計を2倍にした金額をお支払いいただければ大丈夫です」


 ん? それっていくらなんだ?

 一瞬、たいした金額じゃないだろうと思ったが、今日の分の3万円を足すと参加費の合計は6万になり、それを2倍にすると……12万!?

 ふざけたゲームで殺されかけて、寝心地の悪い牢屋の中で、パンと牛乳を口にしただけなのに……。


「青葉様の場合は、空君の分と合わせて、お2人で24万円になります」


「えっ!? そんなには持ち合わせが……」


 シャレにならない金額を突きつけられて、青葉さんが絶句している。

 金が払えなければ強制参加決定なので、彼らも今日のゲームに参加する事になった。


「大丈夫ですよ。勝てば山のふもとまでお送りしますから」

と大神さんは説明しているが、この手の詐欺は、簡単に出られると思わせるのが常套手段で、何度プレイしてもゲームには勝てない仕組みになっており、その事に気付いた時にはもうどうしようもない金額になっていて、


「それでは仕方がありませんので、体の一部でお支払い下さい」

とか言われることになるのだろう。


 灰野さんに、ウルフブラックが臓器の売買に関わっていると聞かされていなければ、ノンキにゲームをしていたかもしれないが、ものすごく嫌な予感がする。

 ……俺は、かなり高いがリタイア料金を払うことにした。

 こんな馬鹿げた話に付き合う必要はないからだ。


「あの……すいません。家族に電話をかけさせて下さい。かければ絶対、お金を振り込んでくれると思いますから」


 しかし、お金を払うと言っても、大神黒子はいい顔をしなかった。


「もちろん、料金を払っていただければ解放しますが……ただですねぇ、警察を呼ばれたりすると面倒な事になりますので……」


「分かっています。そんな事は絶対にしません。約束します。信じて……もらえませんか?」


 俺が頭を下げて頼み込むと、大神さんはとてもイヤラシイ笑みを浮かべた。


「もちろん、信じますよ。その代わり、警察官を見かけた場合は、ポチ君を射殺することになりますから、それでも良ければ、ご自分で交渉を行って下さい」


 そうきたか。


「僕も交渉に行こうかな」


「あ~!! 僕もネットゲームが出来る場所に移動したいです~。毎日ログインしないとマズイんですよ」


 緑川と、若草の高校生コンビが便乗してきた。

 やはり、この屋敷に長居するのは危険だと勘づいたのだろうか。


「太陽さんは?」


「俺は1人暮らしだし、気前よく12万も立て替えてくれるようなダチはいないからなぁ」


 彼は、屋敷に残ってゲームに参加するという。


「桜さん。ココは絶対、払っておいた方がいいと思うよ」


 俺は彼女を説得しようと部屋の隅に連れていった。

 しかし、リタイア料金を払うのは無理だと言って動かない。


「ゲームで勝つのは無理なんだ」


「私が、そんなに下手だって言いたいんですか?」


「そうじゃなくて……色々とマズイんだよ」


 大神さんがどんな罠を用意しているか分からないし、10万くらいならアルバイトをすれば稼げるが、臓器をとられたら取り戻せない。


「私の事はいいですから、ポチさんは交渉に行って下さい」


「でも……」


 部屋の奥では、大神黒子がニタニタ笑っている。

 くそっ。

 別に付き合えるわけでもないし、桜さんがどうなったって俺には関係ないんだけど……。


「分かった。俺が桜さんの分も金を用意するから、ゲームに参加するとは言わないで」


 2人がリタイアするために必要な金額は24万円だが、それくらいならどうにか出来るだろう。


「無理ですよ。だって……私のリタイア料金は、すでに84万円なんですから」


「はぁ? なんでそんなに高いんだよ。俺と一緒に来たんだから12万だろう?」


 桜さんは頭まで悪いのかと思ったが、どうやら騙されていたのは俺の方だったらしい。


「違うんです。実をいうと……もう2週間くらい、この屋敷で暮らしているんです。私は人狼ゲームが下手なので……ある人に『ワタルのフリをしていれば、ゲームに勝っても負けても参加費の事は気にしなくていい』という取引を持ちかけられて……」


「ある人って?」


「それは……言えません。でも、私は大丈夫ですから」


 桜さんはそそくさと部屋の中央に戻ってしまった。

 彼女はワタルのフリをしていただけ?

 しかも、もう2週間も屋敷にいるって、どういう事だ!?


 そういえば、灰野さんが2週間前に行方不明になった女の子の話をしていたよな。

 もしかして、桜さんがそうなのか?


 彼女の本当の名前は一条茜?

 そして、ワタルはニセモノだった!?


 本物のWataruがネットで調べていたのはホストの情報で……。


 亡くなった常連客の関係者に恨まれていたかもしれない紫刃さんは、ワタルの正体を突き止めようと、ボディーガードの清水さんを連れてこのツアーに乗り込んできたが、罠を張って待ち構えていた何者かにやられてしまった……。


 なんだか、ようやく繋がり始めてきたんじゃないか?

 もしかすると、このツアーは、本物のワタルがホストに復讐するために仕組んだ殺人計画だったのかもしれない。


 でも、ちょっと待てよ。

 だったら、最初に感電した黄崎オンラインは、どうしてこのツアーに招待されていたんだ?

 彼は確か、実況動画の中で、下手なプレイヤーの事を馬鹿にしていたよな。


 俺がネットで知り合ったワタル君は、人狼初心者で、ゲームがかなり下手だった。

 下手というか、センスが無いというか。

 どこかピントがずれているような発言はまるで……地下牢で配られた人狼当てゲームを作っていた人物に似ているような気がする。


 ってことは、このツアーの主催者が、本物のワタル君だったのか!!

 だとしたら、俺が呼ばれた理由はアレしかない。


『人狼の事なら何でも聞いて下さいね(^-^』

『あぁ、駄目ですよ。そういう発言をすると、相手に丸分かりですから。どうしてかというと……』

『こういう場合はですねぇ』


 ワタル君は、なんだかんだとウルサク説明してくる俺の事がわずらわしくて、馬鹿にされていると勘違いし、ホストと一緒に復讐しようと考えたのかもしれない。


 人間の社会には『小さな親切、大きなお世話』という言葉がある。

 やっぱり繋がっていたんじゃないか。

 俺も、大神黒子に呼び出されたターゲットの1人だったのだ!!


 きっと、俺への復讐を終えるまで、このツアーは終わらない。

 黄崎さんと紫刃さんは大怪我をしているので、青葉さんに殴られたくらいで許してもらえるとは思えないし……。


 大神さんは俺を逃がさないためにも、途中でリタイアなんてさせたくないはずだ。

 だとしたら、どうして電話をかけることを許してくれたのだろう。


 もし、こういう展開になる事を予想していたら、奴の筋書き通りに動いてしまったのは俺の方かもしれない。


 大神さんはさっき、俺を射殺する条件をハッキリと口にした。

『警察官を見かけたら』と。

 屋敷の外に連れ出され、誰もいない山奥で、奴が用意していた偽者にせものの警官がフラリと現れたら……。


 マズイ。


 これは、だました者が勝利する人狼ゲーム。

 俺が警察を呼ぶかどうかなんて、どうでも良かったのだ。

 電話をかける前に始末してしまえば問題ないのだから……。


 大神さんが嬉しそうに笑っている。

 やっぱり、罠にハマッてしまったのは俺なのか!?


 ちくしょう!

 今さら『電話をかけるのはやめました』とは言えない雰囲気だし、なんだかんだで交渉に向かうバスには、バスガイドのお姉さんと、灰野さんも一緒に乗ることになった……。

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