思い出
ようやく全ての問題を解き終えると、ドッと疲れが出て、俺は布団の上に寝転がった。
まるで留置場のような場所にいると、昔の記憶が蘇ってくる。
『俺はやっていません。何も盗っていません』
『嘘をつくな。早く吐いて楽になれ』
『絶対にやっていません。だから……盗っていないって言ってるだろっ!!」
数年前、防犯カメラに俺とよく似た背格好の中学生が映っていたというだけで、俺は何日も取り調べを受けた……。
嘘なんてついていなかったのに、どんなに説明しても、大人たちは信じてくれなかった。
「なんだか嫌な事を思い出しちまったな」
あの時、俺の言葉を信じてくれたのは……毎日小言ばかり言ってくる母さんだけだった……。
『どうせ俺の言う事なんて信じていないくせに』
『そんなわけないでしょう。アンタは勉強はしないけど、嘘をついたらどんなに損をするかってことが分からないほど馬鹿じゃないからね。嘘じゃないならとことん戦いなさい。絶対に、犯人の方がボロを出すはずだから』
『出すわけないよ。俺が捕まって、ラッキーくらいに思ってるんだ』
でも、何日も粘っていると、犯人が別のコンビニで万引きをして、すぐに捕まった。
そして、あぁ、違ったんだ。みたいな感じで、俺はあやふやに帰された……。
人間なんて適当だよな。
自分にさえ被害が及ばなければ、他人の事なんてどうでもいいと思ってるんだ。
俺だってそうだけど……嘘をつくのは嫌いだった。
人狼にハマッた理由は、狼たちの嘘を暴くのが楽しかったからだ。
嘘には必ず綻びがある。
それを見つけて破綻させてやれば、何度でも村を救う英雄になれた。
嘘をついても損をするだけ。
俺は、誰よりもソレを知っていたはずなのに……。
人狼好きな人たちが集まるというオフ会に参加するため、俺は家族に嘘をついて出かけてきた。
『母さん。友達と勉強合宿をするから、お金ちょうだい』
『一体、いくら必要なの?』
『3万』
『はあ? 何に使うのよ、そんな大金』
『大金じゃないよ。食費や旅費に使ったら、あっという間だと思うけど』
『別荘に行くって本当なの?』
『あぁ。母さんだけは、俺の味方だよね?』
『後でちゃんと返してよ』
『分かってるって』
軽い気持ちで嘘をつき、3万円を振り込んで、本当にツアーの詳細が送られてくるのかどうか半信半疑のまま待ち続けて……。
本当にパンフレットが送られてきた後も、どうせ人なんて集まらないんじゃないかと思いながら冗談半分で集合場所に行ってみたら、バスが停まっていて……。
「あぁ、本当だったのか」
とようやく信じて乗り込んだら……ダマされた。
なにが『連休を楽しく過ごしましょう』だ。
全然、楽しくない。
こんな事なら、嘘なんてつかなければよかった。
本当の事を話していれば、母さんはお金をくれなかっただろうから、今頃、こんな所にいることもなかっただろうに……。
騙した大神が悪いのか?
騙された俺が悪いのか?
どうして、こんなに胸が痛いんだろう。
***
俺はいつの間にか眠ってしまったらしく、大神黒子に起こされた。
「ポチさん、もう朝ですよ。8時に迎えにきますから、あと30分で食事を終えて待っていて下さい」
「あ……はい」
昨夜は、久しぶりに家族の夢を見た。
ペットのポチと一緒に遊ぶ夢。
すごく楽しくて、みんなで笑って……。
だから、ココがドコなのかって事を完全に忘れていて、目を開けたら、だいぶ慣れてしまったはずの恐怖が蘇ってきた。
薄暗い牢屋の中で目を覚ますと、絶望的な気分になる。
これが全部夢だったら、どんなに良かっただろう。
そんな事を考えながら、置かれていた牛乳を飲んだ。
俺は今、臓器の取引をするようなヤバイ組織の地下室に、商品として閉じ込められているらしい。
そんなの、信じられるかよ!!
たかが3万で。
しかも金を払ったのはコッチなのに。
屋敷からは出られませんとか言われて……。
大神黒子は、俺が1番嫌いなタイプの人間だ。
きっと、助けてくれって手を伸ばしても、笑いながらそれを踏みにじる。
俺は昨日のゲームの事を振り返った。
全てがおかしい。
どうして気付かなかったのか不思議なくらい、異常だった。
真面目に考えてしまうとルールがどうのという話になるが、全てが、奇妙な問題ばかり作っていた人物が考えたトリックだったと気付いてしまえば、いたって簡単な仕掛けだったのかもしれない。
犬屋敷人狼は、普通の人狼ゲームではない。
正しい推理をしようとすると妨害を始めるメイドさんのようなゲームマスターの仲間がプレイヤーの中に紛れていて、さらにゲームの展開を操るために、邪魔な存在がいれば、事故に見せかけて排除していたのではないだろうか?
貴重な占い師が消えてしまったり、犬の正体に気付いたホストが雷にうたれたり。
おそらく、何をしても村人陣営が勝つことは出来なかったのだ。
大神さんは、俺が勝てない事を知っていた。
だから笑っていた。
……そうだよな?
奴の目的は、猟奇殺人ではなく、ゲームの結果をコントロールすることだったのだ!!
この屋敷で行われていたのは、ただのゲームではなく、本物の騙し合い。
俺はすっかり目くらましの犬屋敷人狼に夢中になって、本当に戦うべき相手を間違えていた。
誰が主催者の仲間なのかを見抜き、プレイヤーの中に紛れ込んでいる『大神陣営』の人間を全て排除しなければ、この理不尽なゲームに勝つことは出来ないってことだ。




