主催者登場
細かいルールを確認していると、バスの運転手が参加者たちの前に出た。
「はじめまして。私がこの屋敷の主である大神黒子です」
主催者の正体は、読み通り、バスの運転手だったようだ。
彼は、自分の正体だけは明かさないまま、参加者たちの会話や反応をチェックしていたのだろう。
常にうすら笑いを浮かべているような不気味な男なので、人間観察が好きな人狼プレイヤーに違いない。なんとなく、そんな気がした。
「ところで、犬屋敷人狼っていうのは何なんですか?」
俺が尋ねてみると、大神さんが嬉しそうに口を開く。
「わざわざ携帯も通じない山奥まで来て頂いたのに、普通の人狼をプレイするだけでは物足りないと思いまして、皆さんには特別なルールとリスクをご用意しました」
「リスクがあるなんて聞いていないんですけど」
「ええ。言っていませんからねぇ。平和な村で暮らしていた人々が、突如、姿の見えない殺人鬼に襲われるのが人狼ゲームだと認識しております。ですから……それなりの恐怖やサプライズがあってもおかしくないと思いますが」
「そんなものはいらねぇから、早くゲームを始めろよ」
バスのストレスですっかり苛立っている強面のオジサンが俺の想いを代弁してくれると、バスの運転手が大げさに肩をすくめながら特殊ルールの説明を始めた。
「皆様の荷物はコチラで部屋に運び入れますので、個室の準備が整うまでの30分間、『屋敷内の談話室』か『庭』のどちらかを選び、自由にお過ごし下さい。もちろん人狼を見つけるための追放会議を行っても構いませんが、今から5分後のゲーム開始と同時に談話室の扉と窓が自動的に閉まり、鍵がかかりますから、挟まれないように気をつけて下さいね。追放者の投票は30分後に行います」
「つまり、それまでに追放したい人物を決めておけってことですよね?」
「そうなりますねぇ。ご存知の通り、勝利陣営に属していた方の参加費は全額お返しします。それから、豪華なディナーと朝食もご用意させていただきますよ。ただし……負けた場合は、宿泊する部屋のランクが低くなり、ゲームに勝つまで屋敷からは出られません」
「出られないっていうのは、どういう意味ですか?」
俺が聞き返すと、周りの参加者たちも怪訝な表情で耳をすました。
「安心して下さい。次のゲームが始まれば、それに参加出来ますし、勝利すれば参加費は全額お返ししますから」
「それじゃあ、何回負けても……命を取られる……なんて事にはなりませんよね?」
念のために確かめてみると、あっさり笑い飛ばされた。
「もちろんですとも。実際に人を襲うような事をすれば、私もタダでは済みませんからねぇ。この屋敷では1ヶ月くらい前から何度もオフ会を行っておりますが、1人の犠牲者も出たことがありません」
ニヤリと笑みを浮かべる大神さんの話では、負けた場合は次の日に行われるゲームにも参加しなければならないが、ペナルティーの罰金さえ払えばリタイアも出来るので、そんなに心配はいらないという。
あくまで人狼はゲームにすぎないし、連休は4日間もあるので、毎日参加すれば誰でも勝利陣営に入れるらしい。
よほどのトラブルでもない限り……。
「そうですか。分かりました」
結局は参加費も返してもらえるみたいだし、どうやら金持ちの道楽に付き合えばいいみたいなので、思いっきりゲームを楽しむのも悪くないだろう。
ただ、最初から感じていた妙な違和感だけは拭えない。
この、なんともいえない不安は何なんだ!?