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人狼当てゲームのシナリオです  作者: 古月 ミチヤ
人狼ツアー(メインストーリー)
16/70

それでもゲームは続く

「すぐに下の部屋を調べるぞ」


 俺は茶畑のオジサンと一緒に階段を駆け下りた。

 遊技場の真下にあったのは、『鶴の間』という宴会用の広い和室で、真ん中のふすまを取り払うと、隣にある『亀の間』とも繋がって、かなり横に長い部屋になる。


「おいっ。誰かいるかっ」


 オジサンの声は畳みに吸収され、むなしく消えてしまった。


 ……誰もいない。

 押入れを開けてみると、慌てて押し込んだような布団があったが、残念ながらバスガイドさんは見つからなかった。


「くそっ。誰かに連れ去られたのか?」


 誰か……といっても、選択肢はほとんどない。

 俺たちは鍵をかけられた部屋の中に閉じ込められていたのだから、フリータイム中に移動出来たのは、大神黒子だけだろう。


 確か、この辺りに穴があるはず、と思って天井を見上げてみると、まるで台所にある床下収納の扉のようなものが天井についていた。

 しかし、さっきまで開いていたはずの扉が閉まっている。


 一体、誰が閉めたのだろう?

 太陽さん?


 ゲーム部屋の中でバスガイドのお姉さんと2人きりだった彼なら、彼女を突き落とすことが出来ただろうが、上の部屋に残っていた太陽さんには、落ちたバスガイドさんを連れ去ることは出来ないはずだ。


 もしかすると、プレイヤーの中に紛れ込んでいる殺人鬼は、1人じゃないのかもしれない。

 人狼ゲームの狂人と狼たちのように、複数の人物が手を組んでいる可能性だってあるはずだ。

 

 どうしてこんな重要な事を見落としていたのだろう。

 

 だが、茶畑のオジサンが調べてみると、天井の扉にはセンサーのようなものが付いており、屋敷の扉と同じように遠隔操作で閉じたり開いたり出来るらしい。

 ……ということは、ゲーム部屋を監視していた大神さんが、太陽さんの隙をついて、バスガイドさんを落とした可能性も高い。



「これ以上、ココにいても仕方がないだろう」


 茶畑のオジサンにうながされ、俺が部屋に戻ろうとすると、鶴の間をのぞきに来ていた緑川に声をかけられた。


「消えた人間は、ドコにいるのかな?」


 えっ?

 そういえば、負傷した黄崎さんと紫刃さんは病院に運ばれたらしいが、狼に襲撃された清水さんや、呪殺された桜さんは、ドコに消えてしまったのだろう?

 バスガイドのお姉さんだって……。


 屋敷の中は、シンと静まり返っている。


「俺の友達、若草も消えた」


 若草というのは、食堂で毒殺された高校生のことだ。

 スマホばかりいじっていた、モジャモジャ頭の変な奴。


「ええと……今は非常事態だから、犬縛りは無しってことで話してもいいかな?」


 俺は久しぶりに人の言葉を口にしたような気がする。

 なんだか変な気分だ。


「犬なんてどうでもいいよ。だって、犬屋敷人狼はカモフラージュだろう」


「カモフラージュ?」 


 緑川は、ゲームの裏で、誰かが殺人計画を実行しているんじゃないか、と言い出した。

 どうやら、俺と同じような考えを持っているらしい。


 しかし、この状況では、みんな似たような事を考えているはずだろう。

 疑わない方がオカシイのだから。


 そして、殺人鬼の正体が分からない以上、誰もが嘘付きな犯人に思えてくる。


 だから、探りを入れにきたのか?

 緑川は、俺を疑っているのかもしれない。

 

「若草君なら、病院に連れて行かれたんじゃないの? だって、毒入りのジュースを飲んだんだろう?」


「なんで食堂にいなかったポチがその情報を知っているのかが不思議なんだけど……まぁ真実じゃないから、今は置いておこうか。若草は、毒殺なんてされていない。だから、戻ってくるはずなんだけど……」


「は? どういうこと?」


 緑川は奇妙な事を言い始めた。


「全部、演技なんだよ。若草は、毒殺されたフリをしていただけなんだ」


 それなのに、大神さんに食堂から運び出された後、連絡がとれなくなってしまったという。

 

「なんで俺に、そんな話を?」


「ポチ君が、何かを調べているみたいだったから。何か分かった?」


「いや……」


「ゲームが続いているってことは、まだターゲットが残っているのかな」


 緑川は不気味なセリフを吐きながら、2階の部屋に戻ってしまった。


 ゲームはすでに終盤だが、謎は増えるばかりだ。

 一体、誰が味方で、誰が敵なのか。

 それだけでもハッキリさせておきたいのだが……。


   ***


 頭を悩ませながら101号室に戻ると、すでに大神さんが待ち構えていた。


「あっ!!」


「ポチさん。随分遅かったですねぇ。一体ドチラに寄り道されていたんですか?」


「いえっ、その……すいません」


 俺は直角に腰を曲げて頭を下げた。


「まぁいいでしょう。先ほど、ポチさんと同じ卓球部屋にいた人外の数ですが……0でした」


 やっぱり、メイドさんは人狼ではなかったようだ。


「そうですか」

 

「もしかして、ポチさんはお腹をすかして食べ物を探していらしたのですか? あいにく、屋敷内に自動販売機のようなものは置いておりません。ゲームが終われば食事を用意できますから、もうしばらく、お待ち下さい」


「はい……」


 ゲームが終わらなければ食事の用意が出来ないのは、なぜなのだろう。

 人狼ゲームの中では、狼の疑いをかけられて追放された人物は処刑されてしまうが……今夜の夕食の材料は、一体何なのか?


 途中でいなくなった人物の行方は分からない。

 まさか……!?

 それだけは勘弁してくれよ。


 大神さんが出ていってからしばらく経つと、夜のターンの結果が発表された。


――狼に襲撃されたのは、空君です。

 彼が放った反撃の矢によって、赤井太陽さんが道連れになりました。



 ……これで犬屋敷人狼の残りプレイヤーは6人になった。

 もし、狼陣営が全員残っていれば3対3。

 次のフリータイムで決着がつく。


 だけど俺たちは1度も投票していないし、勝手に追放者が決まってしまうなんて、おかしくないか?


 やっぱり、これは人狼ゲームなんかじゃない。

 緑川がいっていたように、誰かが殺人計画を隠すために仕組んだ偽装工作の可能性がある。

 

 だとしたら、俺はどうして、このツアーに招待されたのだろう?


   ***


――5分後に朝のターンを開始します。プレイヤーの皆さんは、玄関前のロビーにお集まり下さい。


 ゲーム内で5日目の朝。

 俺は恐ろしい光景を目にすることになった。


 牙を隠している狼たちと、彼らを絶対に追放したい村人たちが集められたロビーには、円筒状のおりが用意されていた。

 鳥かごを縦に引き伸ばしたようなその檻の天井部分には、今にも落ちてきそうな巨大なシャンデリアがユラユラと不気味に揺れていたのである……。

※追放されたり狼に襲われた時に反撃の矢を放ち、任意の相手を1人道連れにするのは『ハンター』という職業です。小説内での説明が不足していて申し訳ありませんでした。

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