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人狼当てゲームのシナリオです  作者: 古月 ミチヤ
人狼ツアー(メインストーリー)
14/70

姿無き犯人

 俺は慎重しんちょうれたハシゴを下りきったが、ゲームは一時中断されることになった。


 大神さんと何人かの使用人たちが追放扱いになった紫刃さんの体を運び出すため、ビニールシートでグルグル巻きにして、ロープで吊って屋上からおろす作業をしている間、俺たちは風呂に入るよう勧められたが、雷に撃たれた直後に、いつ放電されてもおかしくない危険な湯船に浸かる気にはなれない。


 俺は濡れた洋服を着替えると、101号室のベッドの上に寝転がった。


 ……大神さんは、どうして天気が悪くなってきたのに、俺たちを屋上に出したのだろう。

 この屋敷の主なら、アソコが危険な場所だってことくらい分かっていたはずだ。


 誰かがハシゴから転落する事を狙っていたのか?

 それとも、大神黒子は天才的な気象予報士で、屋上に雷が落ちる事が分かっていたとでも?


 いや、そんなはずはない。

 未来なんて、誰にも分かるはずがないだろう。

 でも、喉の奥に小骨が引っかかっているようにスッキリしない。


 俺の中で、大神さんはかなり黒に近いが……確信を持てない灰色グレー状態だった。

 このツアーの主催者は大神黒子なので、彼が1番怪しいのだが、ゲームに参加していないので、事故が起きる現場にはいない。


 誰かが空君を突き落とそうとした屋上にも、大神さんはいなかった。

 もし、彼じゃないとしたら……屋敷の中に潜んでいる殺人鬼の正体は、プレイヤーになりすましている別の誰かなのか?

 

 部屋の中に閉じこもっていても退屈だが、桜さんと話してみたくても女湯には近づけないし、彼女が本当にワタルだったとしたら、一体、ホストの何を調べようとしていたのだろう?


 あぁ腹が減ったなぁ、と思いながら待っていると、扉がノックされ、大神さんが入ってきた。


「うわっ」


「やだなぁ。ポチさん。そんなに驚かないで下さいよ。私までビックリするじゃありませんか。いやぁ、今日は本当に酷い日ですねぇ。誰か、私に恨みでもあるんでしょうか?」


 俺は何も答えずに黙り込んだ。

 誰かが主催者の大神さんに嫌がらせをするために、ゲームを台無しにしているという考え方もあるのかもしれない。


「さすがに、お疲れのようですねぇ。私もです。……では、先ほど屋上にいた人外の数ですが……」


「まだ、続けるんですか?」


 俺の問いかけに答えないまま、大神さんは人外の数だけを機械的に告げた。


「3名でした」


 ゲームの犠牲者は4人に増えたが、人外は1人も減っていない。

 村人陣営は、徐々に追い詰められていく。


「紫刃さんの容態は、どうなんですか?」


「安心して下さい。一命はとりとめましたから。今から、ふもとの病院まで運ぶことになりました」


「あの……このゲームが終わったら、屋敷から出してもらえるんですよね?」


「もちろんですとも。勝利陣営に属していれば、出られますよ」


 負けたら出られないなんて意味が分からないが、おそらく本当に出してもらえないのだろう。

 俺は、この屋敷内に漂っている異常な気配を感じとっていた。


 ココはルールだけが正義の狂った空間。

 勝手にゲームをやめる事は出来ず、屋敷の中には、参加者たちを襲い続ける人狼のような殺人鬼が潜んでいる。


 この屋敷から抜け出す方法は、ゲームに勝つことだけ。

 だとしたら、絶対に勝って抜け出したい。

 そのためには……第3陣営の妖狐を見つけだして排除しておかなければ。


 もし妖狐が1人勝ちしてしまうと、屋敷から出られるのが1人だけになってしまうので、そいつが残された俺たちを助けに戻ってきてくれるかどうかは疑わしい。

 できれば村人陣営が勝利して、1人でも多く脱出することが理想的だが、この作戦を口にしても、まだ4人も残っている敵対勢力の人たちが協力してくれるだろうか?


「後で助けに戻ってきますから、ゲームに勝たせて下さい」


 誰がそんな言葉を信じるんだ?

 他の奴がそう言ったって、俺はきっとソイツを信じられないと思う。 


「屋敷の外に出られたら、どうせ戻ってこないつもりだろう」

と突っ込んでしまうはずだ。


 おまけに参加者たちを狙っている殺人鬼がいるかもしれない、なんて話をすれば、村人と狼、どちらの陣営が脱出するかで激しく揉める事になるだろう。


 誰だって『こんな屋敷には残りたくない』と言うに決まっている。

 その上、勝った場合は参加費がタダになるのに、負けたら金も取り戻せない。


「金も脱出も諦めて下さい」


 誰がそんな条件をのむものか!

 たかが3万円と思っていたが……あの金は、プレイヤー同士の談合を禁じるための仕掛けだったのかもしれない。


 最後の最後に醜い争いをさせ、人間の本性をさらし出すことが主催者の目的だとしたら、メチャクチャ趣味が悪いぜ。

 くそっ。

 完全にもてあそばれているじゃないか。


 ベッドに横たわっていると、精神的な疲れもあって、ウトウトと睡魔に襲われた。


「マズイ……。ここで眠ったらおしまいだぞ」


 きちんとゲームに参加し続けなければ処刑される。

 それがこの屋敷のルール。


 ベッドの上で体を起こし、顔を叩いて気合を入れていると、夜のターンの終わりを告げる放送が流れ始めた。


――騎士が人狼の襲撃を防ぎました。

 さらに、占い師が妖狐を呪殺しました。


 今夜の結果は、村人陣営にとっては朗報だ。

 厄介なキツネを退治できた上、仲間も減らずに済んだのだから。


 呪殺を行えるのは本物の占い師だけだから、俺たちにはまだ切り札が残っている。

 それに、騎士と本物の犬も残っているから、あと1日くらい凌げれば、狼たちを追放出来るはず。


――あと5分で朝のターンを始めますので、プレイヤーの皆さんは3階の遊技場に移動して、お好きな個室にお入り下さい。

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