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人狼当てゲームのシナリオです  作者: 古月 ミチヤ
人狼ツアー(メインストーリー)
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プロローグ

「本日は『人狼ツアー』に参加していただき、ありがとうございます。私は案内役のたちばな燈子とうこと申します」


 陽が暮れてからバスが動き出すと、すぐにバスガイドのお姉さんがしゃべりだし、俺は最前列の窓際の席で、心臓をバクバクさせながら平静をよそおっていた。


「あの……顔色が悪いみたいですけど、大丈夫ですか?」


 突然、隣の席の女の子に声をかけられ、ビクリと肩を震わせる。

 俺と同じ、高校生くらいだろうか。

 けっこう可愛いので、この子をだますのはちょっと気が引けるなぁ。


「……大丈夫です」


 せっかく可愛い子に声をかけられても素直に喜べないのは、バスに乗った直後に『今夜行われる人狼ゲームに勝利すると、1泊3万円という微妙な参加費がタダになる』という説明を聞いたからだ。


 けして生死を揺るがすほどの金額ではないが、高校生の俺には結構な出費だし、金が関わると人は目の色を変える、というか……本性が現れる。

 かくいう俺も、勝って参加費を取り戻したいと思っていた。


 だから大丈夫ですか? と尋ねられても、一体何を探るつもりなのだろうと、警戒してしまうわけである。


 人狼というのは、村人のフリをしている狼を見つけだすだまし合いのゲームなので、相手の発言を疑ってかかるのは基本だし、狼や裏切り者になったプレイヤーは平然と嘘をつく。

 おそらく他の参加者たちだって、他人を出し抜こうとする気持ちで一杯なのだから、こんな状況では会話すらままならない。


 まだ誰が人狼役になるかは分からないが、バスの中は、久しぶりの連休を同じ趣味の仲間たちと楽しく過ごそうと思っていたオフ会のメンバーが乗っているとは思えないほど、不気味な静寂に包まれていた……。




「すいません。目的地に到着するまで、どれくらいかかるんですか?」


 これ以上、空気が重くなるのは勘弁して欲しいと思っていると、後ろの方から質問が飛んできた。

 すかさずバスガイドのお姉さんが反応して俺の顔を見る。


「このバスは、ゲームの舞台となる大神おおかみ邸に向かっていますが……到着するまで1時間くらいかかりますから、自己紹介でもしていましょうか」


 まだ新人らしいお姉さんにうながされ、俺はヨロヨロと立ち上がった。


白田しろたけんです。あっ! すいません。ネットゲームで使っているハンドルネームは『ポチ』でした。今日は……その……よろしくお願いします」


 ポチというのは、我が家のペットで、犬の名前である。

 白い犬の飼い主の名前が、白田犬……。

 この話をすれば、少しはなごやかな空気になるかと思ったが、うっかり本名を名乗ってしまったことに動揺して、後の言葉に詰まってしまった。


 それに、後ろの席には明らかに堅気じゃなさそうな強面こわもてのオジサンが座っていたし、まるで犯罪者の顔でも確かめるように強い視線が注がれて、長話が出来るような雰囲気ではなかった。

 この空気は一体何なんだ!?


 

 人狼ツアーの参加者は、俺とバスガイドのお姉さんも含めて16人。

 若者から中年男性まで世代も職業もバラバラで、小学生を連れた親子もいるし、メイド姿のコスプレをしている女の子に、秋葉系のカップルに、スーツ姿の大人までいる。

 彼らは本当に、オフ会のメンバーなのだろうか?


 皆、かなり神妙な顔つきをしているので、勝っても負けても『お疲れ様でした~』と言って解散するネットゲームのノリとは全然違う。


 俺はネットでしか人狼をプレイしたことがないが、実際に集まって遊ぶ人狼ツアーがあると聞き、冗談半分で参加してみることにした。

 この話を持ちかけられたのは、何ゲームも遊んで盛り上がった直後だったし、『大神黒子おおかみくろこ』という、いかにも怪しい主催者の名前に大ウケしながら、二つ返事で了承してしまったのだが……。

 どうやら、ただのオフ会ではなかったらしい。


 俺が腰をおろすと、隣の席の女の子が立ち上がり、ネット上では『ワタル』というハンドルネームでプレイしていることが判明した。

 てっきり男だと思っていたのに、まさかこんなに可愛い女の子だったとは……。


 俺も愛犬家の女性プレイヤーに間違えられることがあるが、ネットというのは、つくづく恐ろしいと思う。

 相手の顔を知らなければ、ヤのつく恐ろしい職業の人にも気安く暴言を吐いてしまうし、いっけん匿名とくめい性が高そうでも、正体を知られてしまう可能性はいくらでもある。


 バスの中には、いかにも金と暴力が好きそうな派手なスーツのお兄さんや、手帳を開いてメモを取り始めたサングラスをかけた男なんかも乗っているので、もし、そんな怖そうな人たち相手に、下手くそとか、〇ね、とかチャットしていたら殺されるかもしれない。


……俺は、何も言っていないよな?


 淡々とした自己紹介を聞き続けてみたが、ほとんど知らないプレイヤー名ばかりだった。

 もしかしたら急きょハンドルネームを変えたのかもしれないが……1人だけ、言いたい放題の事をネットで垂れ流しているヤバイ奴がいた。

 見た目はヒョロッとした草食系のお兄さんだが、そこそこ有名な動画サイトの投稿主なので、顔が知られている分、誤魔化しようがない。


「ど、どうも~。黄崎きざきオンラインで~す。いつもご視聴ありがとうございま~す。ええと、皆様の了解を得られればなんですけど、今夜のゲームも動画にしちゃっていいですか~?」


 ……長い沈黙。

 誰も返事をしないので、ハハハと誤魔化し笑いをしながら腰をおろした青年は、恋人らしい隣の女性に不満をもらしながらイチャつき始めた。


「なんか思ってたのと違うな~。こんな事なら来なきゃ良かったよ~」


 俺だってバスに乗るまでは、

「ポチです。はじめまして~」

とか言いながらニコやかにゲームが始まると思っていたので、気持ちは分かるが……ネットで顔をさらされるリスクは案外高い。


 どんなトラブルに巻き込まれるか分からないし、バスに乗っている人たちのほとんどが秘密を抱えていそうなので、許可できないのだろう。

 俺が考え込んでいると、トントンと隣の女の子に肩を叩かれ、ビクリと飛び上がった。


「なっ、なんですか!?」

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