「アナタを考察します」
「よく人を考察するんだぞ」
刑事の父が口癖のようにいつも言っていた。
しっかり考察しないとその人の本当の姿が見抜けない、と。
◆
警察官である僕は深夜の街を徘徊していた。
今いる住宅地からは昼間とは打って変わって静寂に包まれており、不気味な気配が漂っている。
ため息をついた。今日も異常なし、だな。
しばらく歩いていると、小さな公園が目に入った。
一休みでもしよう。僕は端に置かれてたベンチに腰を下ろした。
ところどころにある外灯が乏しく思える。
それにしても殺風景だ。
この公園にはすべり台やブランコといった遊具はなく、キャッチボールをする広さでもない。
公園、というより空き地というべきだろう。
ふと後ろから足音が聞こえた。
背筋に寒気が走った。おそるおそる背後を振り向く。
一人の女性が立っていた。高校生だろうか。顔は髪で隠れて見えない。
「あの、どうかしましたか」
おそらく家出だろう。近頃、家族と揉め事になって家を出るのは珍しくない。
「アナタを考察します」
ハスキーの声で女性の口から漏れた。
えっ、と僕は言った。
「アナタを考察します」
「どういう意味ですか」
考察されても困る。しかも、父がよく使ってた言葉だ。
むしろ、考察するのは僕のほうではないのか。
「アナタを考察します」
「あの、お名前は?」
しかし、僕の質問には答えずに「アナタを考察します」の一点張りであった。
僕は腰を上げると、女性と向き合った。身長は僕と同じくらいである。
「学生さんですか。もう深夜の一時を回るので帰宅しましょう」
「アナタを考察します」
だんだん苛立ってきた。舌打ちをする。
「あの、それだけ言われても困ります」
口調は怒りで強くなる。
女性は一歩、近づいてきた。
「アナタを考察します」
「いい加減にしてください」
「アナタを考察します」
さらに彼女は一歩、もう手を伸ばせば届くほどの距離になっていた。
「だから、僕を考察するのは構いませんが質問には答えてください」
女性は小さく笑い、僕の首に両手を伸ばしてくる。
「アナタを絞殺します」