第9話 確認しておきたい事
週末の夜は特別な事が無い限り左之兄と総司がやって来る
歳三兄さんはすごく嫌そうな顔で迎えるけれど
全く気にしない二人
「うちは定食屋じゃねえんだ」
「はいはい、瑠璃お土産だよ」
「ありがとう。美味しそう!」
「総司が見つけたんだ、デザートにいいだろ?」
「うん!」
「おい、聞いてるのかっ」
「なんですか、歳三さんばかりずるいでしょ。毎日、瑠璃の料理食べておいて。だったら僕の部屋に越して来るとかどうかな」
「お、引っ越すなら俺んちでもいいぜ」
「駄目だっ!」
「喧嘩しないでください。私は何処でもいいですよ?なんだったら一人暮らしを・・」
「駄目だっ!!」
一人暮らしも、どちらか二人の部屋に越すのも駄目らしい
歳三兄さんは頑なに拒否している 眉間に皺を寄せて
「ふふっ、ふふふ」
「おい、何で笑ってやがる。俺は瑠璃の事を考えてだな」
「ふはははっ、すみませ、ふふっ」
「あー、ツボにはまったね」
「だな」
笑う私を他所に、三人は夕食の配膳をしている
割と平和だった京の新選組時代を思い出す
「ねえ瑠璃、勇さんに会ったんだって?」
「社長にあったのか?」
「はい、先日。それで来月から出社する事になりましたので、よろしくお願いいします」
「そっか、じゃぁ朝は僕が迎えに来てあげるよ」
「なんでお前が迎えに来るんだ、俺と一緒に住んでるんだ。その必要はないだろ」
「え、二人ともいいですよ。なんか自立してないみたいじゃないですか」
「瑠璃がいいって言ってるんだ、好きにさせてやれよ」
左之兄のおかげで通勤は一人でできそうだ
でもやたらと兄たちは私に構いたがる それはちょっと勘弁してほしい
そんなんだと本当に彼女できないよ そっちの方が心配だ
どうしてこんなに構ってくるのかは後から知ることになる
「それはそうと、総司も歳三兄さんもどうして社長を勇さんと名前で呼ぶんですか」
「うーん、何でだろうね?」
「・・・何でだろうな」
「え、分からないんですか。左之兄は呼びませんよね」
「ああ、そうだな。呼んだとしても大久保さんかな」
「ずいぶんと親しい感じですね」
社長の性格かまたはグローバルを目指しているのか
基本的に社内では役職名を付けずに苗字や名前で呼ぶらしい
最近はそう言う会社が増えてきた
共通語を英語にしようなんて恐ろしい事を決めた企業もあったなぁ
「社内はもちろん日本語ですよねっ」
「時々メールで英文は見かけるけど、会話も会議も日本語だよ」
「よかった」
「おい」
「はい」
「まさか忘れちまった訳じゃねえよな」
「何をですか」
「英語と中国語だ」
「え・・・。私、喋れるんですか?」
「・・・」
「留学までしておいて、それはないでしょ」
「留学!?したんですかっ」
「なんなら聞かせて見たらいいじゃねえか」
という訳で、どこからともなくCDとイヤホンが出てきた
テレビでよく見るスピードなんちゃらの英語と中国語版だった
皆の視線が痛いのですが・・・
ふむ、ふむ、へぇ、なるほど 分かるじゃないか!!
おー、私って凄いかもしれない
「どうなんだ」
「いや驚きました。私って外国語もマスターしていたのですね」
ほっとする歳三兄さん、ケラケラ笑う総司と左之兄
「うちの会社に入れたのはその為だからな、焦らせるんじゃねえよ」
「その為?だったのですか。忘れてなくてよかったぁ」
私の配属先は海外とも取引のある運輸部で
いざと言う時の通訳補助だったらしい
基本的にはプロに委託しているらしいけれど
パーティーなどでは社員を連れて行きたいのが本音だと
「勇さんが、そういう場面は瑠璃を連れて行きたいって言うから」
「責任重大ですね」
もうすぐ社会復帰というのか、進出というのか
新しい生活が始まる
忙しくしていれば、きっと忘れられる
そう思っていた