第5話 通院
1週間に一度、通院する事になっている
今日がその通院日
「本当に一人で大丈夫か」
「大丈夫ですよ。子どもじゃないですから。何かあったら電話します。早く仕事に行ってください」
「分かった、気をつけて行けよ」
「はい」
追い出すように歳三兄さんを送り出した
本当に心配性なんだから
まあ、そういう風にさせてしまったんだろうけど
予約時間に合わせて家を出た
山崎くんは私より歳上だった、あの時は年下だっはず
だから山崎さんって呼ばないと
「土方瑠璃様、どうぞ」
看護師に呼ばれ、カウンセリング室に入った
誰かのマンションの一室を思わせるような
落ち着いた空間だ
看護師は同席しないみたい
「瑠璃さん、1週間ぶりですね。どうですか調子は」
「はい、体調は全然問題ありません」
「よかった」
この1週間をどう過ごしたのかを話した
友達に話すように、少しの冗談も混じえて
「お兄さんたちは本当に頼もしいですね。懐かしいな」
「はい、皆あの時と変わりなかったですね。時代が違うから余計に違和感を感じてしまって。武士がサリーマンになってるんですよ?」
「ははっ、それを言うなら僕だって医者ですよ」
「ふふ、不思議ですね。幕末以前の記憶が無いので余計に。兄たちが言うには以前の私と今の私は少し違う見たいです」
「それはどんな風に」
「古風になったと言われました」
「ああ、なるほど。仕方ないですよ、瑠璃さんにとって直前の記憶があの時代なんですから」
「そうなんですけど・・・」
「僕は以前の瑠璃さんを知りませんからね、どんなお転婆娘だったのかな。気になるな」
「気になりますか?気にしないでください」
こうして同じ記憶を持つ人と話せるだけで
心が平穏を取り戻しているような気がする
「僕には遠慮しないで、何でも話して下さい。喜怒哀楽全て吐き出して貰っていいですから」
「ありがとうございます」
そしてまた、1週間後の予約をして家路に着いた
近くの公園に差し掛かったら桜の木があった
4月の上旬だけど桜はもう散りはじめていた
ハラハラと風に舞う桜の花弁を追いかける
「はぁ・・・」
何故か溜息が出た
午後空いた時間を利用して病院に行った
瑠璃の状態を把握しなくてはならないからだ
「瑠璃さんですが、体調はいいみたいですね」
「はい、家の中の事は全部してくれます」
「一緒に暮らしてみて、何か気に掛かる事はありますか」
「・・・時々、涙を流しながら眠っています。あれは記憶がない不安から来るものでは無い気がします」
「そうですか。瑠璃さんはその事に関して何か言っていましたか」
「いえ、特には」
「今はまだ不安定な時期ですし、責任感が強い様なので自分に負荷をかけてしまっているのかもしれません。時間が必要です」
「分かりました」
瑠璃は何かまだ俺達に言えない事があるのかもしれねえ
だが、無理に問いただしても追い詰めるだけだ
話せる日が来るまで見守るしかねえのか
家族なのに無力だな
何処からか風に吹かれて桜の花弁が飛んできた
この頃は桜が散るのが早いな
来年は花見でもするか
その時までにあいつを呼び戻さないとな
そんな事を考えながらまた、会社に戻った