第4話 兄妹
過去の記憶が無いとはいえ体は覚えているようで
スマホの操作もそれなりにできた
街も普通に歩けるし、たぶん電車やバスだって乗れる
スーパーでの買い物も夕飯のメニューを考えるのだって
全く苦にならなかった
やっぱり、あれは夢だったのかな、もしくは前世の?
「今日は久しぶりに皆で飯食おうぜ」
「じゃあ私が作りますね」
「瑠璃が作ってくれるの?」
「うん、簡単なものしか出来ないけどね」
3人でスーパーにより、夕飯の買い物をした
歳三兄さんが帰る頃までには作り終わりたいな
ピリリリリリ♪ ピリリリリリ♪
「瑠璃、携帯鳴ってる」
「えっ!誰?」
「出てみなよ、ほら早く」
さっき契約したばかりなのに、もう間違い電話?
早く出ろと急かす2人の気迫に押され
恐る恐るスマホを取った
「もしもし・・・」
「やっと取りやがったな、あと1時間したら帰るからな。飯どうする、何か食いに行くか?」
「へ?あの・・・」
「おい、俺だよ分からねえのか」
俺って、まさかオレオレ詐欺っ!
「・・・」
「くくっ、驚いたか。さっき総司から教えてもらった」
「歳三兄さん!?なんだぁ、もうっ。あ、夕飯は準備しますから皆で食べましょう」
歳三兄さんは楽しみだと言ってくれた
でも、兄さんたちの番号登録したのに
なんで表示されなかったのかな
「あ、ごめん瑠璃。歳三さんの番号は2つあるんだ、忘れてた」
「それって・・・わざと」
左之兄と総司はケラケラと笑っていた
私の反応が相当ツボにハマったらしい
4人で夕飯を囲む
炊き込みご飯、焼き魚、揚げ出し豆腐、だし巻き卵、
お吸い物、おひたし、浅漬け
左之兄と総司はビール、歳三兄さんと私はお茶
「なんか意外だな」
「ん?何がですか?」
「瑠璃って和食派だったっけ」
「口に合いませんでしたか?」
「いや、美味いんだ。文句の付けようがない」
「よかったぁ。でも、以前の私って違ったんですか?」
「料理はあまりしなかったかな」
そうなんだ、料理してなかったんだ
「それとさぁ」
「はい」
「ちょっと古風になったよね」
「は?どういう意味ですか」
「悪い意味じゃねえよ、言葉使いが丁寧だし気が利くっつうか」
「へぇ」
「おまえ随分と他人事だな」
「だって、完全に他人事ですよ」
和やかに夕飯が終わると
左之兄と総司も泊まると言い出した
歳三兄さんは眉間にちょっと皺を寄せて抵抗したけど
2人はお構いなしだった
「お風呂入れますか?」
「瑠璃はしなくていいぞっ、あいつ等にさせればいい」
先に入れと言われたけど遠慮した
お風呂も広くて、ますます副社長の懐が気になる
そして、体を洗いながら気づいた
「何これ・・・」
右膝から太腿にかけて縦に怪我の痕があった
触ってみたけど痛くない
ミミズ腫れのように少し盛り上がっていた
「これって、何の痕だろ」
お風呂から出ると総司が布団を敷いている
皆で和室に雑魚寝をするらしい
一人暮らしなのに布団が揃ってるのが凄い
「なんか懐かしい感じがするな」
「なんだろうね、初めてなのに懐かしいって」
「ああ、不思議だな」
「・・・」
殆ど毎日一緒に寝ていたんですよ
なんて思わず言いそうになる
兄たちのお陰でとても楽しく過ごすことができた
これが現実なんだ あれは夢か前世の記憶なんだ
少しづつ取り戻せる きっと
長い長い映画を見たと思えばいい
そう言い聞かせながら目を閉じた
夜中に喉が渇いて目が覚めた
起こさないようにそっと布団を抜け出し水を飲んだ
何気に眠っている瑠璃の顔を覗いたら
泣いていた
涙が頬を伝った跡がある
だいぶ笑うようになったと思ったんだがな
歳三は優しく瑠璃の髪を撫でた
なんで瑠璃がこんな目に合うんだ
俺はおまえを守ってやりたいのに
何にも出来ねえのか・・・
そう心の中で呟くと、再び布団に入った