第2話 退院
翌日から精密検査を受けた
レントゲン、血液検査、エコー検査、CT検査など
全身をくまなく調べられた
特に脳の関する検査は慎重に行われた
「検査結果が出ましたのでご説明をさせていただきます。どなたが同席されますか?ご本人と・・・」
私たちには両親はいないのだろうか
兄たち3人とも同席を願い出た
「あの、皆で聞くのですか?」
「当たり前だろっ」
そうなのかな?普通は代表で一人だと思うけど。
そして主治医である山崎くんからの説明が始まった
「では検査結果をご報告させていただきます。血液検査結果は申し分なく、またエコー検査、レントゲン検査においても問題ありませんでした。脳内のCT検査結果ですが、医学的な問題は見つかっていません」
「と、言うと?」
「身体に関しては正常であり、むしろ優良です」
「・・・じゃあ、なぜ瑠璃は倒れたんですか」
「原因不明、としか今は言えません」
「なんだそれ」
医学的にはどこも悪い所はないらしい
それは本人が一番よく分かっている
1週間様子を見て変わりが無ければ退院し
定期的なカウンセリングを勧められた
「一番気になっているのは彼女の記憶に関してです。混乱からくる一時的なものと見ていますが、長期的なサポートが必要かと考えています」
「どういう意味ですか」
「瑠璃さんは、倒れる以前の記憶が抜けているようです。家族構成、これまでの自身の生活などです。今後の生活に支障はないと思いますが、過去に関しては不安が」
「確かにな、俺達の事は一目見て分かったのに兄弟かって聞いてきたからな」
「うん、僕と双子だと思っていたし。それに自分の苗字が土方だってことに驚いていたから。」
「分かりました。当面はお願い致します」
こうして何事もなく1週間が過ぎ、私は退院した
マンションのエントランスを抜けエレベータに乗る
新しい建物で、同フロアの世帯数が少ない
「ここだ、覚えとけよ部屋番号」
「はい、1507!角部屋だから間違えないですよ」
「それもそうだな」
心配性な歳三兄さんは私が住んでいたマンションを
引き払い、自分が住むマンションに私を呼んだ
歳三兄さんと二人暮しをするらしい
「わぁ、広い。此処に1人で住んでたんですか!」
「そうだ」
何の仕事をしているんだろう
普通のサラリーでは買えないと思うけど
「お前の状態が落ち着くまで出社は保留にしておく。焦らなくていいからな、少しづつ元の生活を取り戻せばいい」
「はい」
「なあ、瑠璃。お前は何が分かっていて、何が分からないんだ?俺に教えてくれ」
「・・・えっと」
「説明出来る範囲でいい」
正直な所、何も分からない
皆が何の仕事をしているのか 何処に住んでいるのか
私はこれまでどう過ごしていたのか
「私が知っていることは、歳三兄さんと左之兄と総司が兄弟だって事だけです。目が覚める前までの自分の生活や育った環境は何にも覚えていません・・・」
歳三兄さんはかなり驚いた様子で
「・・・そうか」
と、ため息混じりの返事が帰っえてきた
私はそんな歳三兄さんを見て、急に不安になった
孤独感が押し寄せて来た
「っ!る、瑠璃!大丈夫だ。俺達の事はしっかり覚えていたじゃねえか。お前の事は俺が守ってやる。心配するな、だから泣くな」
私は知らずに涙を流していたようだ
すっかり涙腺が崩壊してしまったようで
涙は暫く止まらなかった
歳三兄さんは困ったように眉を下げ
そっと私を抱き寄せ、背中を擦ってくれた
「ごめんなさいっ、私、自分の事がよく分からなくて。怖くて」
「俺達が付いてる、大丈夫だ」
西の空が赤く染まり、また一日が終わろうとしていた
歳三兄さんの胸で子どもの様に泣いた