第1話 目覚め
(まだ眠ったままなのか)
(ああ)
(俺が代わる、お前少し休んで来い。何かあったら連絡する)
(・・・そうさせてもらう)
(失礼します。点滴の交換です)
(お願いします)
ーーーー。
遠くで誰かの話し声が聞こえ、カチャカチャと音がする
起きなくちゃ、でも瞼が重くて目が開かない
誰か起こしてっ、うっ、くぅぅ
「うぅっ、んーー」
「瑠璃っ、聞こえるかっ!瑠璃!」
目を開けると淡いクリーム色の天井が見えた
そして微かに薬の臭いがする
何処だろう
そして私の名を呼ぶ声の方に顔を向けた
「分かるかっ!聞こえるか?」
「あっ・・・歳三兄さん?」
「ああ良かった、分かるんだな!俺の事がっ!」
分かる、分かるけどどうなっているのだろう
辺りを見回すと私はベッドに寝ていた
腕を上げたら点滴のチューブに繋がれている
看護師が医師を呼んでくると出ていった
「おい!瑠璃が目を覚ましたぞ」
するとドアから何人か入ってきた
「瑠璃!おまえっ、心配したんだぞ」
眉を下げ、安堵の表現を見せたのは 左之兄だ
「瑠璃、驚かさないでよっ」
突然誰かが私に抱きついて来た 総司だった
待って、皆恰好が・・・洋服着てる!
「あのっ、此処は、どこですか?」
「病院だ。おまえマンションの玄関で倒れてたんだ」
「・・・え?」
其処へ看護師と医師が入ってきた
「申し訳ございませんが、少し外でお待ちいただけますか?」
歳三兄さんたちは、しぶしぶ部屋を出ていった
「少し混乱していますか?大丈夫ですよ、直ぐに落ち着くと思いますから。吐き気とか、頭痛がするなど変わった事はないですか?」
「今のところは・・・」
ぼーっとしたまま診察を受ける
ふと医師の胸に付けてあった名札に目が止まった
内科精神科医 山崎丞
「あっ!やっ、やっ、山崎くん!?」
「瑠璃さん、落ち着いて下さい。ゆっくり説明します」
その医師は小さい声でそう言った
看護師が外にいる兄弟たちに状況を説明する為に出た
「・・・」
「瑠璃さん、もしかして何かの記憶がありますか」
「記憶?それって、その、新選組…」
「やはりそうですか。よかった、僕だけかと思いました」
「皆にはないのですか?」
「恐らく、僕は気付いたら此処で医者として何の違和感もなく働いていたんです。瑠璃さんが運ばれてきて思い出したのです」
「時を越えた・・・と言う事ですか?」
「分かりません。時を越えたのか、または前世の記憶なのか」
私は昨日の事の様に覚えている
あの時代に行く前の事の方が思い出せない
「あのっ、もう一人親しい人が居ると思うのですが、その人もこの時代にいますか?」
「・・・斎藤さん、ですか?」
「はい」
「すみません、皆さんとはこの病院で初めて出会ったので分からないのです」
「そう、ですか」
一さんだけ居なかったらどうしよう
もしこの時代に居たとして、記憶があるとは限らない
胸が苦しくて、切なくてどうしようもなく
涙が溢れて、それを止めることが出来ない
「瑠璃さん・・・」
「ごめんなさいっ、涙が勝手に」
ごしごしと袖で涙を拭った 心配かけてはいけない
皆が戻るまでに気持ちを整えなくては
「もう大丈夫です!」
「では、皆さんを呼んできますね」
兄たちが再び病室に入ってきた
私は歳三兄さんが働く会社に就職が決まり
その日が初出勤だったらしい
時間になっても現れない私を心配しマンションを訪ねた
そしたら玄関で倒れていたと
その前にこの時代でも皆は兄弟なのだろうか
「質問してもいいですか?」
「なんだ改まって」
「皆は私と兄弟、ですか?」
「おいおい、なんだよ寂しい事言うなよ」
「私と総司は双子?」
「瑠璃?どうしたの。僕は君の兄だけど双子じゃないよ」
「え!違うの!?」
頭の整理が出来ない、振り返えるとベッドの患者名が見えた
入院日 平成27年3月26日
主治医 山崎丞
患者名 土方瑠璃 女性
え!、土方瑠璃!? 佐伯じゃなくて?
「ちょっと待て、瑠璃もしかして混乱してるのか?記憶が曖昧になってるんじゃねえか?」
「歳三兄さん、私の苗字が土方になってる!」
「落ち着け、先ずお前は俺を歳三兄さんなんて呼んでなかったぞ?歳兄と言っていた。それに昔からお前は土方だ」
「昔から?」
「誰が好きでこんな名前にしたか知らねえけどなっ!ったく迷惑なんだよ。会うやつ皆、新選組の?とか言いやがる」
「此処に居る皆、土方ですか?」
「他に何があるんだ」
じゃあ、土方左之助、土方総司ってこと?
「瑠璃もまだ混乱してるからよ、休ませてやろうぜ。なっ」
「兎に角、ゆっくり休んで。急に頭を使ったから疲れたでしょ」
私が目覚めて安心したのか、歳三兄さん以外は帰宅した
歳三兄さんは家族控室で休むからと部屋を出た
休めと言われたけど眠れそうにはない
一人になると、どうしても考えてしまう
「一さん、貴方はこの時代にいますか?」
一さんの事を想うと、胸の奥がズクンと疼いた
目を閉じれば貴方の顔が浮かんでくる
せめて夢の中だけでも会いたい 会いたい