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土御門ラヴァーズ 外伝  作者: 猫又
第一章
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賢、和泉、十六歳 青春悪霊退治③

「じゃあ、一番のペアからどんどん行っちゃって~~」

 と神田の声がして、肝試しが始まった。

 生徒が集まっている図書室前のロビーには非常灯がついているし、四十人もがわいわい騒いでいて少しも寂しくはないが、スタートして廊下を奧へ進む度に暗闇が濃くなる。

「うちのクラスの十人くらいが脅かす役に回ってるらしいわ」

 と一美が寄ってきて言った。

「一美ちゃん、何番?」

「三番」

「誰とペア?」

「分からないの」

 と一美が言った所で、「二番出たよ~三番の人~~」と呼び声がした。

 一美はきょろきょろと辺りを見渡しながら、スタート地点へ歩いて行ったが、進行役の神田と話をしてからまた和泉の元へ戻ってきた。

「どうしたの?」

「三番の人いないみたい。神田君がどこかペアと一緒に行けばって言うから、みかどちゃんと一緒に行っていい?」

 と一美が言った。

「いいよね、賢ちゃん」

 と和泉が言い、賢もうなずいた。

 そしてすぐに五番の人~~と呼ばれて、三人でスタート地点から出発した。



「今、悲鳴したよね」

「うん」

 和泉と一美が並んで歩くその前を賢がすたすたと歩いて行く。

 所詮は急ごしらえの計画なので、それほど凝った演出もない。時々、階段の上から脅かし役の生徒が叫んだり、教室の窓からにゅっと手が出てくるくらいだ。

 それでも、男女ペアというのがなかなかの相乗効果なのか、きゃっと可愛らしく驚いたりする女子に格好よく手を貸す男子、という場もある。

 和泉もそれなりに驚かされて悲鳴を上げたりもしたが、本当の恐怖はまだ先だった。

 三階に上がって廊下を進み、一番北の端まで歩く。

 その先の階段から屋上へ上がればゴールだ。給水塔の下に置いてあるバケツへ自分のくじ番号を入れれば終わり。

 後は下りてくるもよし、途中で誰かを脅かす役になるのもよしだ。

 三階の一番北の端まで歩いて、賢が足を止めた。

 和泉を振り返り、

「そこから進むな」と言った。

「どんなのがいるの?」

「生徒だ。自縛してしまってこの場から離れられないから、誰かに憑こうとしている。恨みの念が強い。しかも今夜みたいなお祭り騒ぎに興奮して、給水塔の奴とくっついてしまって巨大化したようだ」

「どうすればいいの? 走り抜けたらいい?」

「上まで行く事はないだろ。要はくじをバケツに入れてくればいいんだ。俺が行ってくるから、ここで待ってろ」

 と言って賢が手を出したので和泉はくじを渡した。

「えと、斉藤さんだっけ、あんたのも」

「あ、ありがとう」

 一美も賢にくじを渡した。

「そこで待ってろ」

 と言って、賢は階段の方へ歩いて行った。

「ねえ、何の事?」

と一美が聞いた。

「階段のとこと上の給水塔には霊がいるの」

「霊? 幽霊?」

「まあ、そんなもん。賢ちゃんの家は代々そういう霊をお祓いするような家系なの。あたしも同じ血筋だから、少しは視えるんだ。霊とか」

「だから、肝試しが嫌だって言ってたんだ」

「うん、賢ちゃんはそういうのに強いけど、あたしは駄目なの。下手したら取り憑かれちゃうんだ。だから、入学した時に賢ちゃんにこの辺りには近寄るなって言われてて」

「そ、そうなんだ。仲がいいんだね。土御門君と」

「う~ん、小学生くらいの時はよく一緒に遊んだけどね。悪い霊に追いかけられると助けてもらったりしたけど」

 カタンカタンと音がして、和泉ははっと顔を上げた。

 二人は一番端の教室の前で立ち話をしていた。

 音は階段のある暗がりから聞こえてきた。

「土御門君が下りて来たのかな?」

 と一美がそちらを覗こうとしたので、和泉は一美の腕を引っ張って止めた。

「見ない方がいいわ。賢ちゃんが見るなって言うんだから、絶対に危ない」

 一美は首をかしげて和泉を見た。

「土御門君の事、すごく信頼してるのね?」

「え? うん、霊に関しては賢ちゃんの言うことに間違いはないもの。賢ちゃん、昔は意地悪でよくいじめられたけど、その事だけは嘘は言わないの」

「ふ~ん」

 またカタンカタンと音がした。

「ねえ、でも、なんか変じゃない? 次の人も遅いよね?」

 耳を澄ますと遠くの方で笑い声や悲鳴が聞こえる。

 誰かが走り回っているような足音もする。

「うん」

「ね、あれ」

 一美が教室の角を指さした。人影が立っていて腕が見えた。体操服にジャージらしい、その腕が手招きした。

「土御門君じゃない?」

 一美が立ち上がって、ぱっとそちらへ走りだした。

「待って!」

 駆けだした友人を止めようと和泉も走った。

 一美の腕を掴もうとして、するりと抜け、一美の身体が角を曲がってしまった。

「え? いない」

 角を曲がった一美は足を止めたが、誰もいなかった。

 続いて角を曲がってしまった和泉の方へ一美が振り返る。

「!」

 和泉はそれを視てしまった。

 階段に蹲る黒い物体。

 寝そべった老婆のような身体。

 座っている男子。

 天井からぶら下がっている女。

 首のないジャージ姿の生徒。

 それらが全て混ざり合って、一つの大きな塊になっている。

 それはぶよぶよと大きくなったり、小さくなったりしていた。

「どうしたの?」

 一美には見えていないのだろう。

 固まってしまった和泉の方へ問いかけるが、和泉は返事が出来なかった。


 霊が視えるという事を相手に気づかれてしまったようだ。

 その黒いぶよぶよとした奴は和泉の方へ一斉に視線を向けて、それから間を置かずに飛びかかってきた。

「嫌!」

 慌てて逃げだそうとしたが、すぐに腕が捕まった。

 身体ににゅるっとした物が巻き付いた。

 足も捕まった。身体全体がぎゅうっと押しつぶされそうになった。

 息が出来ない。

 霊が笑っているのが分かった。

 それから和泉の身体を運んで行こうと動き出した。

 捕まった身体が浮き上がり、それは階段を上り始めた。

 屋上への扉が開き、和泉の身体はもの凄いスピードで動いていく。

 何の躊躇もなかった。

「和泉!」

 と賢の声がした。

 だが次瞬間、霊に取り憑かれた和泉の身体は屋上のフェンスを乗り越えて宙に舞った。

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