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土御門ラヴァーズ 外伝  作者: 猫又
第一章
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賢、和泉、十六歳 青春悪霊退治②

 北高の一年生は五月に宿泊訓練がある。

 正門入って左の小道をずっと歩いて行くと、宿泊訓練棟がある。

 部活動の合宿などにも使われる棟で、二段ベッドが二十五台にシャワールームも完備されている。

 北高は一つの学年が六クラスで、クラスの人数は約二十~二十五人。

 なので宿泊訓練は二クラス合同となる。


 和泉はあまり規則を破るほうではないが、少しだけお菓子を紛れ込ませたり、携帯の充電器をカバンの底に隠したりして、荷造りした。

 たった一日だけの事なのに、クラスメイトと宿泊するのは特別な事のように思う。

 問題はクラス内では主立った者が肝試しの計画をたてている事だ。

(参加したくないなぁ)

 賢に近づいてはいけない場所を聞いたばかりだし、それ以外にも和泉の目の端に何かが映る時もある。

 学年のアイドルが背負う恨みがこもった男の霊、生活態度に厳しい先生の足下にすがりつく赤ん坊の霊、他にも何の意味も無くさまよう霊がいる。

 気がつかないフリをするのも慣れたし、力のない霊にならば気づかれずにやり過ごす事も出来るようにはなった。

 だがそれも相当な気力を必要とする。

 小学生くらいの時は泣きながら逃げ出す、という霊には格好の餌食だった。

 賢や弟達の所へ走って行けば追い払ってくれるが、そこまでの道のりが果てしなく遠く思えたものだ。


「みかどちゃん、聞いた? 肝試しの話」

 クラスでようやく友人と呼べる、斉藤一美が休み時間に和泉に話しかけてきた。

 土御門は言いにくいので、みかどちゃんと呼んでもいい? と言われた時は衝撃だった。

「うん、あれって全員参加?」

「そうらしいわ」

 和泉はため息をついて、一美はそんな和泉を見て首をかしげた。

 一美は黒髪をおかっぱにして純日本風の美人だった。

 クラスでは大人しく真面目で、いつも本を読んでいる。友達になってから和泉が携帯番号を聞いた時に、「持ってないの」と言ったのも驚きだった。

「みかどちゃん、嫌なの?」

「うん、あんまり、そういうの好きじゃない」

「私もよ。でも全員参加だって、神田君が張り切って道筋のコピーをしてた」

 と言って、一美はコピー用紙を和泉の机の上に置いた。

「道筋?」

「うん、北校舎の一階、図書室前から出発して、二階、三階をぐるっと回って屋上の給水塔の前までだって」

「嘘……絶対無理」

「どうして?」

「……」

 霊が出るからなんて言えない。

 それで過去に友人をなくした事もあるし、嘘つき呼ばわりされた事もある。

 賢のように「だったら見せてやる」というような技術もない。

「怖いじゃない? 夜の学校なんて。あたし、怖いの嫌いだから」

「そうよね。やりたい子だけやればいいのにね。私も出来たら参加したくないわ」

「やっぱり無理。あたし、不参加にする」

「え? 本当? じゃ、私も」

「そうよ、やりたい人だけでやればいいわよね」

 と二人の間では話が決まったのだが、お祭り騒ぎのクラスの連中には通じず、不参加の意志は却下された。

 お祭りの中心は神田という男子とさやかだった。

「だめだめ、不参加なんてクラスの士気を落とさないでくれる? 土御門さん」

 と神田が言った。神田は進学高にしては不良で洒落た感じの男子だった。さやかと並べば派手でファッショナブルなカップルだった。

「怖いの駄目なの。見逃して」

 と両手を合わせてみるが、却下の一点張り。

「あ、そうだ、神田ぁ。この土御門さんてあの土御門君の親戚なんだって、土御門さんに言ってもらったら? 一組の子も参加させたいんでしょ?」

 とさやかが言った。

「そうだけど、一組には断られたんだよね。あいつら協調性ねえな。宿泊訓練の日に肝試ししないでどうするよ?」

 と神田が長い髪をかき上げながら言った。

「一組は夜の自由時間を自習に使うんだってさ」

「へえ、真面目。さすが理数系トップクラスねえ」

 とさやかが答えた。

「土御門さん、その親戚君に頼んでみてよ。一緒にやろうって」

 和泉は顔をしかめて、

「嫌よ」

 と答えた。

「じゃあ、うまいこと頼んでくれたら、土御門さんと斉藤さんは肝だめし除外してあげてもいいよ」

 と神田がにやにやして言った。

「そんな事…」

 と言いかけた和泉に一美が、

「頼むだけ頼んでみたら?」

 と口を挟んだ。

「え、でも、賢ちゃ……土御門君自身、そういう遊びが嫌いだから、絶対無理だと思う」

 何だか腹がたってきたので、和泉はそれだけ言って教室を出て行った。

 肝試しうんぬんよりも、何故、神田とさやかに指図されなければならないのか、という方が腹が立つ。それならもういっそ宿泊訓練の日など休んでしまおうか、とも思ったがそれも負けたようで悔しい。

 肝試しには出たくはないが賢に迷惑をかけるわけにはいかないと話すと、一美は心細そうな顔をして「そう……」と言っただけだった。 



 宿泊訓練当日。

 昼間の授業は滞りなく受け、問題は放課後だ。

 体操服に着替え荷物を持って宿泊訓練棟に移動する。

 講堂で道徳ビデオを鑑賞しその感想文を書く。

 その後、食堂で夕食を取り、体育館でバスケットやバレーをして汗を流す。

 そしてシャワーを浴びて着替え、就寝までは少しの自由時間がある。

「北校舎一階の図書室前に集合ね!」

 と神田が声を張り上げている。

 大方の生徒が楽しみにしているらしく、どこからも苦情は出ない。

 図書室前は広いロビーのようになっていて、生徒がわらわらと集まり始めている。

 和泉と一美も渋々そこへ重い足を運ぶ。

「順番決めるから、くじ引いてね~~。同じ番号同士でペアになってもらうよ! 一組も四組も混じってもらうからね!」

 とさやかが箱を持って立っている。

「おい」

 と呼ばれて和泉は振り返った。

「賢ちゃん!」

「先にくじひいてきて何番か言え」

「え、うん、え、どうして? 賢ちゃんが肝試しに参加するなんて。そう言えば、やけに人数が多いね。一組もみんな参加なの?」

「早く行ってこい」

「うん」

 急かされて和泉はくじの箱から一つくじを引いた。

「五番だって」

「よし」

 賢がさやかの前に行き、くじの箱に手を入れた。

「土御門君! 一組も参加してくれて超嬉しいんだけど!」

 とさやかが言った。

 賢はさやかを無視して、小声で「五番」とつぶやく。

 賢の手にくじが触れたので、それを引き出す。

 和泉の所に戻って、

「五番だ」とくじを開いて見せた。

「え~よかった~~~賢ちゃんと一緒なら安心~~、でもすごい確率だね?」

 と喜ぶ和泉に賢は呆れたような顔で、

「お前、簡単だな」

 と言った。


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