表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土御門ラヴァーズ 外伝  作者: 猫又
第一章
2/13

賢、和泉、十五歳 青春悪霊退治 後編 

 翌日、和泉が学校へ行くとすでに前の席に奈美が座っていた。

「おはよー」

 と気軽に声をかけてくるので、和泉も、

「おはよう」

 と答えた。カバンを机の横にかけながら、奈美を見る。

 賢に言われるまで気にならなかったが、確かに足下に何かの気配がする。

 それはもの凄く小さく微力な者だったので、和泉はほっとしたのだが可哀相な気がするのは確かだ。

 賢のようにどうにかしてやるほどの霊能力を持っていないので、和泉は眺めているだけしか出来ない。

 勉強に集中しなければならないのに、少しも集中出来ずにいた。


 昼休み、図書室へ行こうと和泉が中庭を横ぎっていると、言い争うような声が聞こえた。

「?」

 校舎の裏の人気のない場所で、奈美と風間が言い争っている。

 立ち聞きはよくないと思い、行き過ぎようとすると、

「あんたがいじめの首謀者だってネットで流してやるから」

 と奈美が言うと、風間がいきなり奈美を殴りつけた。

 頬を叩かれ、奈美の身体が芝生の上に倒れた。

「何すんのよ!」

「お前みたいな、援交やってるようなクズの言うことなんか誰も信じねえよ」

「そんなことないわよ。あんたがいじめやってんの、生徒の間じゃ結構噂になってんだから! あんたにいじめられて転校した子、自殺未遂したらしいわよ!」

「あのいじめの犯人はちゃんとあがったじゃねえか。そいつも転校したしな」

「あんたが首謀者じゃないの!」

「どこにそんな証拠がある?」

 冷たい笑顔を見せた風間の背後がゆらっと揺れた。

 黒い大きな影が広がる。

「そんな事より、金出せよ。援交でさんざん稼いでんだろ? 金出さないなら、お前の親父に言うからな」

「もう、ないわよ。親にもばれたし。妊娠したのが親にばれて、ぶん殴られた」

「ケ、使えねえな」

「信ちゃんの子供だよ!」

 風間はぺっと芝生に唾を吐き出した。

「妊娠して堕ろしたのか? 俺の名前は言ってないだろうな!」

「うん」

「まあ、お前みたいなクズから生まれてくるなんて不幸だからな。堕胎したほうが子供の為に幸せだってことさ。まあ、お前のガキなんかどうせクズだろうけどね」

 風間の言葉に奈美の足下の気配がぶわっと膨れた。

 背後の霊気も徐々に大きくなりつつある。

(怒ってるんだわ)

 和泉は少しずつ後ずさった。

 ぱきっと音がして、足下の木を踏みつけた事に気がついた。

 しまった、と思った時には、風間がこちらをのぞき込んでいた。

「土御門さんじゃん。あれぇ、立ち聞き? 悪趣味だね」

 きらっと白い歯を光らせて、風間が言った。

「風間君、今すぐ、謝ったほうがいいわよ」

 と和泉が言った。

「何に?」

「いじめて自殺未遂した生徒と、赤ちゃんに。とても怒ってるわ」

 と和泉が言うと、風間はぷーーーーーーーっと吹き出した。

「何それ。土御門さんて、宗教みたいな人?」

 と言いながら、和泉の方へ近寄ってくる。

「本当の話よ。あなたの後ろに生徒の生き霊が憑いてるわ。あなたの事をすごく怒ってる。赤ちゃんも、クズって言われて怒ってる」

 奈美は真っ青な顔をして、和泉の方を見た。

「土御門さん、赤ちゃんが見えるの? いるの? ここに?」

「ええ、吉田さんにすがりついてる。悲しいって。でも風間君の暴言に怒ってる。自殺未遂した生徒の生き霊と怒りが同調して、大きくなってるわ」

 和泉がそう言うと、奈美はぽろぽろと涙を流した。

「ご、ごめん。ごめんね。赤ちゃん」

 そう言って奈美は座り込んで泣き出してしまった。 

「後悔してるの? だったら、どうして、そういう事をするの。予防しなかったの?」

 避妊という言葉くらい知っているが、和泉にしても口に出すのはまだ恥ずかしい。

「だって信ちゃんが……してくれない」

「け、して欲しいならそう言えよ」

 風間には話にならないし、話しても無駄かも、と和泉は思った。

「ね、吉田さん、赤ちゃんはただ悲しいって今は吉田さんにすがりついてるけど、もうしばらくしたら、空へ還るわ。それまで、大事に話しかけてあげて。また次に元気で生まれて来てねって言ってあげて」

「お、怒ってない?」

「ええ、今は寂しくてお母さんを探してるだけなの。だから、しばらく一緒にいてあげて」

「わ、分かった」

「行きましょう」

 和泉が奈美の肩へ手をやり、奈美が立ち上がった。

「奈美、いいのか? 俺を裏切って、お前の写真をばらまいてやってもいいんだぜ」

 と二人の背後から風間が言った。

「や、やめてよ」

「じゃあ、土御門さんにお願いして、ここでの話は内密にって事にしようぜ」

 奈美が泣き顔で和泉を見てから、

「ごめんね、土御門さん」

 と言った。  

「え?」

 奈美は和泉の後ろにいた。

 奈美の手が伸びてきて和泉の両腕を後ろから羽交い締めにした。

「きゃっ」

 と和泉が言った。

「土御門さんの恥ずかしい写真撮っちゃおうかな」

 と言って風間が近寄って来た。にやにやしながら、和泉の方へ手を伸ばしたのだが、

「うわっ」と急に風間の動きが止まった。

「な、なんだ? 腕に何か、噛みついてる……痛い痛い!」

 見えない何かが風間の腕を噛み、肘の辺りがあり得ないほどに凹んでいる。

 かさかさと足音がして、

「癖の悪い腕なんか、いらないだろ。食いちぎってみようか? 和泉に手ぇ出したら、地獄まで吹き飛ばすぞ」

 と声がして、賢がやって来た。

「賢ちゃん!」

「この二人には近寄るなって言ったろ。お前の頭はザルか?」

「だ、だって」

 賢が奈美を見た。奈美は怯えて和泉の腕を離した。

 和泉は慌てて賢の後ろに隠れた。

「和泉の好意を無駄にしたな」

 と賢は奈美を睨んだ。

「ご、ごめん。だって写真、ばらまくって……いつもそう言って……」

「何かやばい写真でも持たれてるのか」

 奈美がこくんとうなずいた。

「まあ、でも二、三日のうちに風間君は写真を返してくれると思うぞ」

 と賢が言った。

「なあ、風間君、そうした方がいい。俺がいるから、お前みたいなぼんくらにも見えるだろう?」

 そう言って賢が手を出した。賢の手からぽわっとした光が現れた。

 その光は周囲に広がって、そして風間の背後の生き霊と奈美の足元の赤ん坊の姿を映し出した。

「う、うわ!」

 生き霊はやせ細った男子学生だったが、怒りに震えた顔は恐ろしいほど歪んでいた。

 生き霊は力の限り風間を睨んでいる。風間を道連れに出来るのならば、命はもう惜しくないという決意が伝わってくるほどだ。

「うわああああ、た、助けて」

「しばらく友達と過ごせばいいんじゃね? 赤狼、もういいぞ。汚い物を食ったら腹を壊すかもな」

 と賢が言った。

 風間の腕を噛んでいた何かがふっと離れて、風間はその場にしゃがみ込んだ。

「行こう、昼休みが終わる」

 と言って賢が歩き出した。

「あ、賢ちゃん」

 和泉も歩き出し、奈美もその後ろからとぼとぼとついてきた。

「いいの? あのままで」

「二、三日したら、少しは反省するだろ。吉田さんに写真を返しにきたら、離してやるよ。生き霊の生徒も少しは気がすむだろう。吉田さんのやる事に口を出す気はないけど、あんたもちょっとは真面目に生きたほうがいいぞ」

 と賢が奈美へ向かって言った。

「うん、ありがとう……」

「どうして、風間君とそういう風になったの?」

「あたし達、幼なじみなんだ」

 と奈美が言い、賢と和泉は思わず顔を見合わせた。

「あたしの方がずっと好きで……信ちゃん、頭いいし、格好いいし、人気者だし、あたしなんか眼中にないって感じで。でも、信ちゃんの言うこと聞いたら、相手にしてくれるから」

「眼中にない、か。確かにそれはつらいな」

 と賢が言ったので、

「賢ちゃん?」

 和泉が首をかしげた。 

「授業が始まる」

 と言って、賢はそそくさと走って行ってしまった。


「ありがとう、土御門さん」

 と奈美が言った。

「ううん、あたしは何も出来なかった。賢ちゃ…土御門君のおかげよ」

「土御門君ってちょっといいわね」

「え?」

 和泉がまじまじと奈美を見た。

「うふふ、嘘。だって、土御門君こそ他の女の子なんか眼中にないって感じじゃない?」

 和泉は首をかしげた。そんな和泉を見て、

「土御門さんって、鈍感って言われない?」

 と奈美が言って笑った。                  了


悪霊退治になってないやん<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ