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湖面に浮かぶ月 03

一月以上お待たせしてすみません・・・;;;

しかもなんか尻切れトンボ。

 画面に表示された文字に紫は口元を歪め、有能な部下を頭に浮かべた

 あの男は紫が期待していた以上の仕事をしてくれたらしい。











「お久しぶりですね、お義姉さん」

 そういって微笑んでやれば、義姉となった彼女の肩が揺れた。


「今日はどうなさったんですか?わざわざ僕に会いたいなんて」

 本来であれば、結婚祝いの一言でも投げかけてやるべきだったのだろう。たとえそれがまったく心にないことであったとしても。

 しかし、到底、そんな気にはなれず、要件を切り出すよう促せば、義姉は少しためらったあと、口を開いた。


「あの、ごめんなさい。忙しいのに会いたいって言っちゃって。だけどどうしたらいいかわからなかったの」


 うっすらと涙を浮かべ、健気に振舞う彼女に紫は内心でうんざりしていた。

 兄にトラウマがあるのは知っているが、だからといって、これはこれでないだろうとも思うのだ。兄が彩月に興味を持たなかったが故に、紫は彩月を伴侶にできるのであるけれど、目の前で弱弱しく微笑んでみせる女と戸籍上、姻族になったことすら我慢ができそうにない。なので、あれこれ報復を考えてはいるが、それは今ではない。ようやく仕掛けに食いついてくれたのだからゆっくり不自然にならないように毒を塗していけばいい。


 外面だけは最高だよな、なんてかつて賞賛された(のか貶されていたのかよくわからないが)ことのある笑顔を浮かべてやれば安心したかのような表情を見せる。女は女優だとよく言うが、ここまで自然に表情を作れる人間も珍しいだろう。彼女はある意味で、ポーカーフェイスより性質が悪い。目に見えるものがすべてではない、と言ったのは誰だったか。


「斎さんが、経営陣から外されたというのは嘘よね?」

「いいえ、本当です。とはいえ、それは内部における話で外部に対しては今までどおり、兄さんがトップということにはなりますが」

「どうして…」

「どうしてといわれましても。強いて言えば能力がないと父が判断したんでしょう」


 どこか投げやりな紫の言葉に、更紗はそんなっ、と声を上げた。


「そんなことはないわっ。だって、斎さんだもの。斎さん以上に相応しい方などいらっしゃるわけがないわ。…」


 いかに斎が「王様」であるのか、ということを一心不乱に語っている彼女には悪いが、紫は彼女の話をほとんど聞いていなかった。


 おそらく、彼女の言い分も間違っているわけではないのだ。斎は「王様」であれと育てられた。あの兄は「王様」である以外の生き方など知らないのだろう。しかし、それは斎が「王様」たる素質を有しているからではない。

 いってみれば、彼は純粋培養なのだ。



 よくぞここまで純粋に育ったものだと紫は驚嘆せずにはいられない。「斎」という素材をここまで仕立て上げた祖母には狂気めいた執念すら感じられる。祖母が男性であったならば、彼女はきっともっと幸せだっただろう。あの女性ひとの不幸はあの聡明さにあったに違いないのだ。


 祖母と祖父は政略結婚だったという。あの当時、恋愛結婚のほうが珍しい。由緒正しき血を引き、蝶よ、花よと育てられた深窓の令嬢に恋愛結婚が許されるわけがない。ゆえに、祖母も納得した上で結婚したのだろう。

 悲劇が生じたのは、祖母は祖父を愛したが、祖父は祖母を愛さなかったことだ。義務といわんばかりに一人息子を授かってからは、祖父は祖母に見向きもしなかったらしい。


 斎が生まれたときにはすでに祖母の心は壊れていたのだろう。

 紫の病弱さを理由に斎と紫は同じ屋敷にあっても離れて暮らすことになった。祖母がそう望んだのだ。それをあっさり笑って受け入れる両親もどうかとは思うが。母にいたっては「獅子はわが子を崖から突き落とすっていうしね。うんうん、がんばれ!」とよくわからないことを紫に言っていた。わが母ながら、なかなかにぶっ飛んでいる。そしてそんな母が父は心底愛おしいらしい。


 そういうわけで、斎は祖母の下、育てられた。

 祖母に従順で祖父によく似た面影を持つ斎を祖母は殊のほか慈しんでいたようだ。


 しかし、祖母とて人であるからには寿命がある。

 それほど年をとっていたわけでもなかったけれどあっさりと帰らぬ人となった。


 斎を溺愛していた祖母は、斎に女が近寄るのを良しとしなかったにも関わらず、斎はこっそりとある姉妹と絆を深めていた。それが悲劇につながるとも知らずに。

 白石茜、楓姉妹は祖母が開いていた茶道教室の弟子で、月に2、3回、嘉納の本邸を訪れていた。斎も自分が女の子と仲良くしていると祖母の機嫌が悪くなることに気がついていたのか、あくまでこっそりと友好を深めていったらしい。

 しかし、祖母がいなくなってしまえばこっそりと会う必要もない。そのころには斎にも竜崎とい親友ができていたから四人で仲良くしていたのだという。


 思春期というものはおそろしいものだ。

 茜は竜崎に恋をし、楓は斎しか見えていなかった。ただ、それだけだったのに。



紫「ねえ、母さんのどこが好きなの?」

父「安心する」

紫「は?」

父「彼女を見ていると自分が一般人であることをしみじみ理解できるんだ」

紫「え?」

父「え?」

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