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BLUE EYE―碧き眼―  作者: 斬谷恭平
第一章【蒼の章】
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1-5 殺害未遂現場(改稿完了)

 四月二十日土曜日午前九時--

 空は雲一つない快晴。

 兄さんの取材を受けた後は予定通り一日中寝て過ごした。部屋から出るのは食事の時のみ。食事はインスタントの簡単なものばかりだが。何故なのかと言えば、両親は共働きであまり家にいないからだ。朝早くに出ていき夜遅くに帰る。息子が命の危機にさらされているというのに、特に気を留めていないようだ。土曜日の今日も普段通りに出かけて行った。

 結果、俺は春休みの悪習をそのままにした状態である。これでは体にカビが生えてもおかしくはないかもしれない。

 ニュースを見るとまだ事件は続いているようだった。生存者は俺とあの女性のみ。そして女性はまだ意識が元に戻らないらしい。結果、俺が犯人にとって唯一の汚点ということになる。いつ再び殺されかけてもおかしくはない。

 というわけで家の前には不審車両…もとい警察の覆面パトカーがずっと貼りついている。いくら自分を守ってくれているとはいえ、監視され続けているため心中穏やかではない。それにあのような犯人に警察がかなうのだろうか、という疑問もある。あれと渡り合えるのは同じ神眼所持者の朱鳥位な気がする。

 そんなことを寝起きの布団の上で考えていると枕元の携帯が鳴った。画面には“武神朱鳥”の文字が。無視するとやっかいなので(出るまで何度もかかってくる)緑色の通話ボタンを押す。

「珍しく一回で出たわね」

 心の底から驚いているようだ。いい加減俺も学習するに決まっている。

「で、何の用事だ?」

 気だるそうな声を出しながら答える。

「これからお邪魔して良い?」

「嫌だ」

 間髪いれずに答える。こいつは何を言っているのだろうか。惰眠をむさぼりたいのにその邪魔をするとは何というやつだ。

「俺は寝たいんだ。じゃあな」

「んー…、もうついちゃっているんだよね」

「じゃぁそのまま回れ右して帰れ」

 普通出かける前に連絡するのがマナーだろう。

「それは面倒くさいわよ。早く開けてくれなきゃ護身用に持ってきたこれで切り開けようかな」

 カチャカチャと金属音の鳴る音が電話越しに聞こえる。

「待て…お前まさか真剣もってきたのか…?」

「そうよ。ここ最近とっても物騒だからね。非常事態に備えてこれくらい持っていないと自分の身を守れないわよ。それじゃ試し斬りということで」

「わかった、わかった。頼むからその物騒なものをしまえ」

 警察は一体何をやっているのだろうか。自宅の前に真剣を構えている人物がいるのに。どこからどう見ても不審者なのだから取り押さえるのが仕事では。職務怠慢とは日本警察も困ったものだ。

 仕方なしに布団から起き上がり階段を下りていく。玄関に向かい鍵をガチャリと開ける。そこには晴れやかな笑顔で真剣を片手に持つ少女がいた。

「何の用だよ…」

「ちょっと話があってね。しかしあんた気を付けなさいよ。家の前に不審な車があるっていうのにどうして警察呼ばないの。怪しいから取り敢えず気絶させといたよ」

 朱鳥の後ろをみると不審車両…ではなく覆面パトカーの前に三人の男が倒れていた。どうやら俺を守ってくれている警察を不審者と間違えたらしい。

「馬鹿か。あれが俺を守ってくれている警察だよ」

 えっ、と呟きゆっくりと後ろを振り返る。背後からもわかるほど動揺しているようだ。倒れた三人組を確認し再びゆっくりと此方を向く。その顔には冷や汗が浮かんでいた。

「どどどどどうしよう」

 舌がうまく回らないようだ。真面目な朱鳥にしてはかなり珍しい。

「いや、どうしようとか言われてもなぁ」

 此方も起こして事情をわざわざ説明するのは億劫である。

「ほっとけば良いんじゃないか?後で勝手に目覚めるだろうし」

「大丈夫かな、良かった殺さなくて」

 ほっと胸をなでおろす。どうやら彼らは運が良かったようだ。

 しかし、朱鳥にもかなわないようではあの犯人を止めることが不可能に近いかもしれない。警察は期待できなさそうだ。

 そもそも事情聴取の時に、神眼と関連性のあるものについては無視されていた節があるからこのような状態は、当然なのかもしれない。

「んじゃあの人たちが眼を覚ます前に」

 そのまま早足で家に上がってきた。

 リビングに入り刀を脇において着席する。俺は麦茶を冷蔵庫から取り出し机の上に持っていく。

「さて、さっきと同じ質問になるけれど何の用だ?」

 こんな朝っぱらから来るのだから何か重要な用事でもあるのだろう。

「翔也は、犯人が気にならないわけ?復讐したいとか思わなないの?」

 いきなり表情が真剣になる。

 確かに犯人は気になる。しかし、先日の戦闘を思い起こす限りこちらに勝機は一切ない。寧ろ一方的におもちゃにされるだけなのが目に見えている。

「そんなこと考えていないし、俺があいつに敵うとは思えない」

「そりゃあんた一人だったらね」

 えーと、こいつは何を言う気なのだろうか。嫌な予感がする。それを口にする前に朱鳥の口が先に開いてしまう。

「私はね、あの犯人が許せない。絶対に許さない。翔也のあの姿を見たら余計にね。あいつを燃やしつくて黒い炭にして白い灰にしてやるわ」

 刀をきつく握り締める。眼は普段と違い朱くなっていた。今にもこの部屋が燃え上がりそうだ…。

「待て待て。ここで能力を使うな。家を炭にされたらたまったもんじゃな。」

 あ、ごめんと眼の色を変える。快眠できる住処を失くす所だった。

 だが肝心の問題が解決していない。このまま放っておいたら犯人探しが始まるだろう。あまりこちらからは行動を起こしたくない、啓祐兄さんにも言われているし。遭遇して何日か経つが犯人側からのコンタクトは一切ないのだ。このまま動かないのが得策だろう。

「そこまで俺を心配してくれてるのは嬉しいけどさ、さっきも言ったが敵わないんだから動いても意味がないよ」

「大丈夫、私も一緒に行くから」

 やっぱりこうなるか。

「んじゃお前が一人でやれよ」

「何言ってるの。犯人の姿を見ているのはあんたしかいないんだから勿論ついてきてもらうわよ。殺されそうになっても私が守るから」

 確かに朱鳥なら勝てるかもしれない。

「でもさぁ…」

 ダン!と俺の脇に刀が振り下ろされる。鞘に納められていたので机が真っ二つになることはなかったが、俺を脅迫するには申し分ない迫力だった。

「行くわよね?」

「はい」

 首を縦に振ることしか俺には選択肢が存在しないらしい。反論すれば机が四本足で立っていられる保証がなさそうだ。その後は俺が…

「早速これから現場に行きましょ。時間は少しでも早い方が良いからさっさと始めるわよ」

 刀を手に取り立ちあがる。俺もその後をついて行き玄関を出ていく。

 警察官はまだ倒れていた。ピクリとも動く様子がないので、少し不安になるが息はしているようなので暫くすれば眼を覚ますだろう。

 その脇を通り現場となったビルへ向かう。

 ビルに到着すると外壁の足組は以前と同じ高さで止まっていた。というよりこれは警察によって解体工事を強制的に中断させられたのだろう。それを物語るかのように黄色いテープが入口に貼られていた。

 朱鳥はそれを無視してくぐりぬけ中に入っていく。

 昼間とあり中は以前と比べてとても明るかった。壁はコンクリートむき出しになっており無機質な空間だった。相変わらず埃っぽい。

 朱鳥が動かないエレベーターへと向かう。

「おい、それ動かないよ」

「え、そうなの。工事中だから当たり前か。そういえば何階?」

 記憶を探っていく。あれは確か…

「十階だったかな」

「十階ね。階段で登っていきましょ」

 早足でエレベーター横の階段に向かっていく。階段に足を置くたびに埃が立ちあがる。幾つかの踊り場には工具がそのまま置かれていた。無言のまま登り続け十階に到着。

「こんな酷いことになっていたのか」

 思わず声を上げる。表面が剥がれている壁。砕けている柱。あちこちにはナイフの残した跡が沢山残っていた。前は月明かりのみだったので部屋の様子がよく見えなかったがはっきりとその惨状を見ることができる。

良く生き残れたな--

 我ながら少し感心してしまった。

 ふと地面をみると人型に描かれたチョークのマークが引かれている。

「そこに倒れたのね」

 そこには血の跡がまだ残っていた。その範囲はとても広く上半身を覆えるほどだった。これだけ血液を流しているにも関わらず、本当によく生き残れたものだ。

 朱鳥はずっと部屋の中を歩き回っている。時々立ち止まり感覚を研ぎ澄ましている。その目は朱くなっていた。

「おかしい…神眼を使った形跡が残ってない」

「形跡って何の話だ?」

「神眼の力は使うと空間にその跡が必ず残るの。啓祐さんの話によれば言霊使いだった可能性があるのよね。もしそれが本当ならば、その言霊使いは相当な力を持っていることになるのだけれど」

 ん、待てよ。こいつはいつ啓祐兄さんと会ったんだ?

「啓祐兄さんと会ったのか?」

「会ってはいないけど今日の朝早くに連絡を入れたの。もう翔也から情報を聞いていると思ってね」

 勘の鋭い奴だ。

「で、さっきの話はどういうことだ?」

「言霊使いは空間に干渉することができるの。だから空間に残った神眼の使用跡を消すことができるのよ。ただこれは相当な力がないと無理。それこそ人を殺せるようなレベルの所持者ね」

「〝死ね〟って言えば人を殺せるのか?」

「それは流石に無理、死に方を指定しないと。例えば心臓を止めるとかね。人間の肉体には常に動き続けなければならないものがあるからそれに干渉するの。でも生命活動に関わる部分に干渉するのは非常に難しい。理由はわかってないけど。そして空間に干渉するのはそれすらも超えている。もし犯人が言霊使いならば私でもかなわないかもしれない…」

 どうやら状況はあまり好ましくないようだ。

「でも、犯人が言霊使いとは限らないからね。この眼で確認するまでは」

 この様子からして犯人探しをあきらめる気は全くない。

「お前、確認してからで間に合うのかよ」

 俺の言葉を気にも留めず現場を調べ続ける。部屋の中を歩き回りその痕跡とやらを探し続けているようだ。

「んじゃ他の殺害現場にも行くわよ」

「まだ探すのかよ。というか他の殺害現場ってどういうことだ?」

「啓祐さんに情報をもらっといたの。全部で後五件ね」

 五件もこの近辺であるのか。俺のを含めると計六件。随分度派手にやっているらしい。

「犯人の狙いは何なんだろうな」

「眼をくり抜いているって話だから他の神眼狙いかもしれないわね」

「おい、だったらお前が一番危ないじゃないか」

 コイツは正気なのだろうか?自分が一番狙われているかもしれないのに、何故こんな悠長に犯人探しをしているのだろう。

「いや、悪魔で予測。殺された人たちは全員神眼所持者ではないしね。そんな話も聞いていない」

「ふーん、というか神眼の眼ってそれ単体で何かに使えるのか?それと一般人の眼も何かしらに役に立ったりするのかよ」

「それはわからないわ。私、研究者じゃないしね」

 本当に意味が分からないらしい。

「そもそもこれだけ人を殺しているのよ。目的が何であろうと私は許さない。さっさと次に行くわよ、幾つか気になる点もあったし」

「気になる点?」

「ちょっとね。他の現場を見ないことには判断できないから」

 そう言いながら足早にエレベータ横の階段に向かっていく。

 殺害現場は残り五件--

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