2-16 空港編―其の伍―
一方、生上翔也は空港内を走っていた。
発着場から離れるためだ。あの場所に居ては巻き込まれてしまうのが目に見えている。
『僕ってもしかしたら疫病神なのかもしれないな』
「いきなりなんのことだ?」
短剣に自らを封印した少年が幼い口を開いた。
『ほんの数年前に同じような場面を経験したことがあるんだよね。僕の所持者と状況が少し違うけど。死ぬまで波乱万丈の人生なのかな。逆に最近は平和そのものだったよ』
「へーそうだったのか。ということは俺が今こうして空港の中を走り回っているのは、案外お前のせいだったするのかもな」
『それは言いがかりだよー。確かにその一因を担っているかもしれないけど、それはプラスの方向だと自負してる。だって僕がいなかったら君は式神家に囚われて、いいように実験体にされていたかもしれなよ』
確かにそれは一理ある。この短剣がなかったらこの状況に至る前に、俺は式神家につかまっていたかもしれない。武器の扱いとか、戦い方とかを知らない俺が今もこうして自分の意思で動けているのは、異常ともいえよう。
だからこの少年が言っていることはあながち間違いではない。
「で、俺はどうすれば良いんだ?」
問題はそれ。このまま走り続けていても致し方ない。
空港から無事に抜け出すことはまず不可能。何しろ運転していたのは神威だし、空港内はこの通り地図などあてにならないほどの崩壊が始まっており、朱鳥のこともある。
目的である神崎未樹についてもこの状況では一体どうなるのか。
こうして考えてみると、解決しなければならない問題は山積している。そして最大の問題は俺自身にそれらの解決能力がないということだ。
だからこの短剣に住まう少年に意見を聞いてみたのだが…
『どうしたら良いんだろうね。僕にもさっぱりだ』
このようにこの少年自体もお手上げらしい。
『できることと言えば取り敢えず逃げることじゃないかな。あと武神家の人に連絡をとるとかさ』
連絡。
そうだ、誰かしらに連絡をとるべきだった。
ズボンのポケットから携帯電話を取り出し、電話帳から武神朱鳥の名前を押す。
…………
呼び出し音が鳴らない。
さっき旅客機の前半分を避ける時に壊してしまったのだろうか。
しかし携帯の電源はついてるしボタンもしっかり反応する。となると…
『んー、式神家って科学技術にも長けていたみたいだね』
そういうことか。
画面右上にある電波の受信状況を示すマークを確認する。
案の定〝圏外〟の二文字が書かれていた。空港全体が電波妨害に曝されているようだ。これでは何処にも、誰にも連絡を取ることができない。
「どうやらお前と二人で、この状況を切り抜けなきゃいけないみたいだ」
『オニイチャンコワイヨー』
「棒読みで変なこというな。いつから俺がお前の兄になったんだよ。それに戦闘という分野においては、お前の方が俺よりも通じているはずだろ」
俺が神文字とかいうものを使えるようになったのはこいつのおかげだ。
「俺の命はお前にかかっているし、お前の命も俺にかかってる。それで俺自身につていうと、自分で言うのもあれだが、このままだと式神家に囚われる自信がある」
一様死ぬと言う事はないから命という表現はどうかと思うけど、それも式神家に囚われてしまえば元もこうもないわけで。
それはこの少年も同じだ。
背後から爆音がする中、空港の外側絵と走り続ける。ところどころ神威が投げた旅客機の破片が通路を塞いでしまったりしており、大回りをしなければならなかった。
いくら神威家とは言え、神眼の力で此処まで人外の力を発揮できるとは。
「そう言えばさっき言っていた式神家のやつらの気配はどうなんだ?」
『んーと、結構距離は離れたみたいだね。武神朱鳥とか、もし此処に居れば神崎未樹のも感じるはずだけどこれだけ距離が離れると難しいかな』
何やかんや言ってかれこれ十分近く走り続けている。先ほどの場所からは大分遠ざかってしまったのだから仕方ないだろう。
「朱鳥無事かな」
『大丈夫でしょ。何か君あんまり自覚してないみたいだけどさ、武神家って結構イレギュラーなくらいの強さを持った家系なんだよ』
「イレギュラーってどういうことだ。朱鳥の家は神眼を備えた家系を幾つか束ねた頭首だけど、それのことか?」
『勿論、つまりは式神家もそうなるんだけど。もっとも没落しちゃったけどね。元々神眼所持者のいる家系っていうのは、それぞれが独立していたんだ。神眼という特殊な力を活かして世界で生きてきた。それが当たり前で、誰もが異論を挟まない常識。だから武神家みたいな家系は、かつての式神家を残してほかにもないんだ。最近に至っては武神家が中心になって〝神眼同盟〟なんていうものが、できてたりするみたいだけどあんまり効力を発揮している様子はないね。ちゃんとしっかり機能していれば、ヨーロッパで起きている眼狩りも被害を抑えられたと思うけど。それほど神眼所持者ってのは元来から独立心が高いんだよ。命が関わっていようともね』
「それがどうしたんだ?武神家がイレギュラーな存在っていうのはわかったけどさ」
『君は馬鹿だなぁ。なんで気づかないの。どうして〝炎〟を操るという能力如きで、分家十個も抱えることができたのかって話。〝炎〟の朱眼なんて言うのはさ、本来そこまで強くはない能力だよ?現に朱眼を備えた家系はもう武神家しか残っていない。他の家系は全部途絶えちゃったから』
途絶えた?
一つの家系が途絶えるということが有り得るのか。
『盛者必衰、栄枯盛衰。なにごとにも滅びってのは平等にくるんだね。そんな中でも武神家は今でも残っている。それは何故なのか』
「何故なんだろうな。是非とも聞いてみたい」
そこへ、目の前から別の声が割って入ってきた。その口元は酷く歪んだ笑みが浮かんでいる。まるでこれから楽しいことがあって、その喜びを抑えているような表情。しかしとても醜いものだ。
「式神厭人!」
直ぐに短剣を構えて剣先を式神へと向ける。
「何でお前が〝無傷〟なんだろうな。ここいらで体が半分吹き飛ぶくらいの怪我でもしてくれないと、いつまでたってもその目は〝蒼〟のままなんだが。菖蒲のやつは何をやってるんだろうな。こっちは便利な足が消えて忙しいというのに」
はーあと手で首元を描きながら翔也の事を蒼い眼で睨み続ける。黒いフードで顔元が陰っていおり、二つの蒼い点だけが浮かんでいる。
『へーあいつが式神厭人か。本人と会うのは初めてだな』
「見当たらなくなったと思ったら、そんな小さな短剣の中に隠れていやがったのか」
俺にしか聞こえないはずの声に、式神は反応し答える。
「お前、何でこいつの声が聞こえる」
「んなもん聞くまでもないだろ。俺は前に武神の女にどんな攻撃を加えたんだっけか?」
前に弎塑稀さんが言っていたのは、朱鳥は精神的ダメージを受けたと言う事だった気がする。ということは精神に攻撃を加えるものなのか?
『簡単な話だろ。あいつの能力は心を読むことと、心に攻撃を加えることだ。君との会話が筒抜けなのも、心を読まれているせいだよ』
「ふーん、頭のいいガキじゃねぇか。此処で俺の能力が明らかになったとして、お前にできることなんてないけどな」
瞬間、厭人の袖口から細い糸が幾つも伸び、瞬く間に翔也を隔離してしまった。空港のロビーという広い空間にも関わらず、翔也を中心に全てを囲ってしまったのだ。
その糸には血液でも流れてるかのように、蒼い光が流れ続ける。
「準備はこんなものか。取り敢えずお前を此処に隔離した。その短剣で切ろうとしても良いが無駄だぞ。切っても切っても生えてくるからな」
酷く歪んだ笑みを浮かべながら楽しそうに言う。
どうやら逃げ場をすべて封じられてしまったようだ。
「そうそう、さっきそのガキが言っていた分家を束ねていた方法?ってやつを俺も聞いてみたいんだが」
『没落した家系に与える知恵なんてないよ』
冷めた口調で厭人の問いに答える。
「それもそうか。聞いたところで俺の力じゃまだまだ扱えそうにはないからな。それじゃ俺は此処引き上げよう」
「誰が逃がすといった!」
「おいおい、逆に聞くがお前に何ができるっていうんだ?」
確かに俺には何もできないだろう。
しかし、みすみす何もせずに逃がすというのは気持ちが悪い。
「お前の相手は菖蒲がすることになっている。それじゃ俺はちょっとした荷物を見てくとしよう」
そう言うと厭人は右手を天井に掲げる。同時に袖口から多数の糸が高い天井へと延びていき、四角形に穴をあけた。破片は地面に達するまでに粉々に切り刻まれる。
「また会おう、生上翔也」
厭人は飛ぶように天井へと上がり鼠色の空へと消えてしまった。
『何か逃げ場をふさがれてしまったね。これでもう戦うしかないのか。でも式神はどうして君を捕えないんだろうね。てっきり捕まえに来たのかと思ったよ。蒼のままとか言ってたけど何か心当たりある?』
〝蒼のまま〟
俺にもそこら辺の事情についてはいまいちわかっていない。前に覚醒とか言っていた記憶が微かに残っているが、それだって気絶する前に聞いた話だから俺の記憶から大体の内容は消え去ってしまっている。
ただいくら考えたって式神の技術云々に関することについて俺が理解できるとは到底思えないのだけれど。
「心当たりがあるけど、わからない。正直赭攣さんとかに聞いた方が良いと思う」
『そっか、それじゃ仕方ないね。ところで式神の言っていた菖蒲ってだれのこと?』
そう、俺もその名前は今回初めて聞いた。
現段階でわかっているのは、その菖蒲とかいう人物が俺に攻撃を加えようとしていることだけだ。つまりは式神家分家の人間ということになる。
その時だった、いつの間にか目の前に一人の少女が立っていた。まるでさっきからそこにずっといたように、普通に、自然にそこに居たのだ。
処女は穴の開いたジーパンと、上は黒と白の縞模様のTシャツだけで、あとは胸に不気味な色のペンダントをぶら下げているという、飾り気のない服装だった。
そしていきなり口を開いて唱えだす。
『具現化せよ私の想像、具現化せよ私の意思、想像は創造を生み出し想像を超える創造を生み出せ』
カーンという乾いた音が一つした後、翔也が立っていたのは空港ではなく荒野へと移っていた。
どうやら相手は今まで何度も翔也たちをたぶらかした、全領域の神眼所持者だったらしい。本人の姿を見るのは今回が初めてになる。
その少女は呆れたような顔で、赤色の空を見つめてため息をつく。
「はーあ。厭人さまってどうしてこう、秩序だった状況よりも混沌による不確実さを好むのかな。私の名前を教えたらどうなるか知っていたくせにさ」
額に手をあてながら、あーあと項垂れていた。
『恐らく姿を隠す神器でも使っていたみたい。発動条件は恐らく〝相手に名前を知られない事〟かな。全領域から抜け出す手っ取り早い方法が、その術者を倒すことだからね。姿を隠す神器と全領域を併用していれば、確かに無敵かもしれない。それこそ神威だけしか打倒できない程に』
なるほど、姿を隠す神器か。
どうりで姿が見えなかったわけだ。
「あーもう、大体予想はついたって表情ね。だからといってこの私、始貴神菖蒲を倒せるとは思わないで」
ズカーンという地響きが響く。
地面が大きく揺れ、各所から鉄の槍が地面から生えてきた。堅い岩の地面を砕きながら、視界一杯に鋼色の槍が無造作に並ばれていく。
そして菖蒲は手短にあった一本の槍を手に取った。
「どうやらあんたはそうそう簡単に死ねない体らしいわね」
「そうだけど、痛みがないわけではないからな。そういうのは勘弁願いたいね」
最近気づいたことなのだが、俺はもしかして人類が味わったことのない痛みを感じているのではと思い始めた。何しろどんな怪我でも俺は死ぬことがないのだ。
つまり、普通の人間ならばそんな痛みを感じる前に死んでいるのに、俺はそれでも生きることができてしまう。痛さを感じることができてしまう。
それを回避する方法はもはや気絶しかない。
何度も言うようだが不死身の体と言うのは、一見すると便利そうだが意外とそんなことはないのだ。もっとも、これで痛さを感じなればそれはそれで完璧かもしれない。
「勘弁もなにもないわよ。私は容赦するつもりはない。むしろ容赦する必要がなく、殺しても殺しても死なないなんて、無限プチプチ並みの快感をあじわえるということじゃない」
槍の矛先を舌でなめながら、獲物でも見つけたような気味の悪い色の眼で眺める。
無限プチプチとは、酷い言われようだ。
「あのな人体っていうのはつぶれる時プチプチとか綺麗な音はならないぞ。グシャッとかグチャッとか気味の悪い音だぞ」
『君は馬鹿か。突っ込むところはそこではないし、こんな危機的状況で突っ込みを加えるという馬鹿さ加減には心底呆れるよ』
天を仰ぐような動作がわかるほど呆れた声だった。
「ふーん。何か余裕みたいね。それじゃグチャッといきますか」
そう言うや否や目の前の少女はもう一本の槍を抜き、その二本をそのか細い腕で投げつけた。
『短剣を斜め上に思いっきり振り上げろ!』
「わかった!」
少年に言われたとおりに短剣を右上に振り上げる。カン!という音で二本の槍は軌道を変え、翔也の背後へと突き刺さった。しかしその反動で無様にも地面に尻餅をついてしまう。
『さっさといくよ。此処で僕は命尽きるのは嫌だからね!』
「わかってるで、俺はどうすれば良いんだ?」
さっき尋ねた質問をもう一度する。
『僕の言う通りにしてくれれば良い。短剣を両手で構えて』
「こ、こうか?」
言われた通りに剣先を菖蒲へと向け、両手で短剣を構える。
『解放―聖剣―デュランダーナ』
その言葉と同時に蒼い短剣は長剣へと変化。その刃には何かの文字が多数刻まれていた。
そして刃の文字は蒼く一瞬光り輝くと、刃から柄、そして翔也の右腕にまで浸食を初める。
「おい、これはなにしてるんだ?」
今起きている現象に一瞬戸惑う。
『それが神文字だよ。君を強化しているだけだから気にしないで』
腕に浸食した文字は更に増えて、巻きつくような形に文字が並ばれていく。
「よそ見とはいい度胸じゃない。此処がどこか忘れたの?」
ズカンという音と共に、地面に刺さっていた槍が全て浮かぶ。そして魚の大群のようにキンキンという鉄が擦れ合う音をたてながら空を舞い始めた。
「おいおい、あれどうすれば良いんだよ…」
『良いから。そのまま長剣を空中に思いっきり振り上げて』
再び言われたとおりに長剣を下に構え、力いっぱい振り上げた。同時に眼に鋭い痛みが走る。
キーンという音が振り上げた刃からしたかと思うと、そこから大量の光が空中へと登っていく。それらは槍の大群と衝突すると、全てを蹴散らしなが赤い空を駆け巡る。
更にその光は空中を一通り蹴散らした後、そのまま地面へ、始貴神菖蒲の所へと急速に効果し始めた。しかし菖蒲はそのれに対して動じない。
「ふん、邪魔ね」
そう一言いうとどこからともなく、ビルが飛んできてその光を打ち消す。そして気づけば菖蒲の背後には廃ビルが大量に浮かんでいた。
『あちゃー、何か本気にさせちゃったみたいだね…』
気付けば菖蒲の雰囲気は先ほどとは違い、殺気がその体から余すことなく放たれている。
「私の幻想を滅茶苦茶にしてくれたわね…」
顔を俯けながらブツブツと呟く。
「死ねえええええええええええええええええええええええ」
そう言うと空中の廃ビルが所狭しと、翔也に向けて飛ぶ。
飛んでくるのはそれだけではない。地面から黒い帯のようなものも多数出現し、廃ビルの隙間を縫うように飛び交う。
『あの黒い帯は駄目だ。あれだけは何としても避けて!』
「なんでだ?」
『あれはあいつの概念の塊だ。いわばこの全領域を形作っている純粋な構成要素。そんなものを食らったら、多分タダじゃすまない。いや、君は死なないだろうけど僕は間違いなく死ぬ』
意味が分からない。
意味が分からないけど、取り敢えず危ないことはわかったから走る。
「でも何処に逃げればいいんだ?」
そう、此処は始貴神菖蒲の世界だ。逃げ場なんてものはそもそもない。
少年の話によれば長剣もダメな事がわかっている。つまりこちらの対抗策はない。
気味の悪い響いた音が近づいてくる。その物体は不気味な威圧を醸し出していた。
逃げてもダメ、向かってもダメ。
ならば向かって可能性にかける。
長剣を握りしめて、巨大な塊へと走っていく。
『おいおい、できるのかな…』
不安そうな声が頭に響く。
確かにできないかもしれない。でもやれば可能性はあるかもしれない。
「無謀者が。悔しく惨たらしく泣き叫び苦悶しながら死ね」
瞬間、翔也は走ることができなくなった。いや、立つことすら出来なくなった。
「グアああああ」
思わず叫び声をあげる。走ることができない。
足が、足が膝から下がなくなっていた。
倒れこむ体が生暖かい血液の中へ倒れる。
どうやら足元から黒い帯が出現し、足に絡みつき足を消滅させてしまったらしい。
激痛のあまり、視界が段々狭まれていく。目の前には巨大な廃ビルが押しつぶそうと俺に迫っている。少年の声も聞こえない。
長剣の方を見ると、それは既に短剣へと変わっていた。
腕に巻きついていた神文字も消失している。いや、腕もなくなっていた。
右腕が消えていた。左腕を確認するが血液を失いすぎているのだろう。体が動かない。
「最初からこうやって四肢を切断しちゃえばよかったのよね。逃げ惑うのを追いかけるのが楽しかったけど、こうやって何もできないやつをいたぶるのも良いかもしれないね」
ンフフと楽しそうな声が響き渡る。
しかしその声は長く続かない。途中から悲鳴に変わっていた。
「な、なんで。そんな馬鹿な!おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。そんな、それはもう存在しないはずじゃない!何で何で何で何で何で何で。厭人さまあああああああ」
翔也が気を失う前に聞いた悲鳴はそこで途絶えた。
そしてこのことを目覚めた時には覚えていない。
自分の眼に多数の文字が現れ、それは長剣に刻まれていたものと非なるもの。
その文字は翔也の眼から地面へと流れ込み始貴神菖蒲の神眼を浸食。
全領域の世界を崩壊させる。地面は腐り始め、赤い空は蒼い文字によって隅から隅まで、虫の大群に蹂躙されるように崩壊していく。
この世界は菖蒲そのものだ。それが侵略されるのは、すなわち菖蒲自身の没落を意味する。
それを短剣から眺めていた少年は
『ふーん、式神厭人がこいつの眼を欲しがるわけだよ。しかもこの力ってまだまだ伸びていくんでしょ。永遠の命が云々言っていたけどさ、実際の所どうなんだろう』
そんなふうに生上翔也の抱えているものを品定めしていた。