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BLUE EYE―碧き眼―  作者: 斬谷恭平
第二章【朱の章】
36/39

2-15 空港編―其の肆―

 同じ時刻、空港内にて…

「未樹さん、武器を持っていない方をお願いします。くれぐれも無理はせずに。あなたはこれからの私たちにとって重要な存在です」

「大丈夫、私が死んでいる未来は視えていない。あなたが死んでいる未来は存在しない」

 断言する。

 この戦いに死ぬことはないとことを。

 未来視は視たい未来が近ければ近いほど、自分の意思で見ることが可能だ。逆に言えば距離、時間共に遠くなればなるほど視ることが不可能になる。ただ稀に偶然、遠い場所でも遠い未来でも視えることがあるのだが、それはふとした瞬間に見えるもので自分の望んだものが視えるわけでもない。このように未来視はそれなりの制約が生じるため使う場所とタイミングが重要になる。

 そしてこのような戦闘では大きな戦力となる。戦いは戦局を読み取ることが重要だ。それを読むのではなく、視ることができる。

 あとは取捨選択さえ間違わなければ問題ない。

 負けることがない。

 朱鳥は刀を中段に構える。

「それじゃいくわよ」

「いつでもどうぞ」

 朱鳥は神器を持っている方、織神易絲易(しきがみいとい)へと向かう。式神家分家一の織神家。武神家で言えば神威家にあたるものだ。武神家と同じようなシステムで分家が並べられているかはわからないが、分家一に据えられるだけの理由はあるはず。

 そしてあの黒い刃の神器。

 今まで見たことのないものだ。神器そのものは作る職人の数だけ存在するのだから、見たことが無くても当然ではあるがそれしてもあれは異様だった。

「最初から」

「全力で」

「行く」

 敵の二人が呟く。すると武器を持っていなかった方が、浴衣の懐からナイフを取り出しもう一人へと渡した。

「朱鳥ちゃん、大きく左へ避けて!」

 神崎未樹の声に素早く反応して大きく避ける。

「発動」

「神器」

『牢獄―始まりの章―』

『牢獄―始まりの章―』

 識神から織神へ渡されたナイフは黒い刃が出現しもう片方の剣と同じ形へと変わる。

 そして

『剣撃』

『序』

 二つの剣が同時に振り下ろされ、朱鳥のいた位置へと不気味な黒い二つの斬撃が飛んでいく。ズン!という音と共に床に触れた瞬間、周囲数メートルを消し去った。跡形もなく瓦礫を残すこともなく。すべてが斬撃に吸い込まれ消え去る。そして最後には斬撃そのものも虚空へと消えた。

「威力が高い神器ね。あたったらひとたまりもなかったわ…」

 未樹のサポートがなければ既に死んでいたかもしれない。それほど出が速く威力も大きい。

 一方の未樹は既に攻撃を開始していた。そこにあの斬撃の後は隙が生まれることがわかっていたのだ。剣を振り下げたばかりの織神へと突撃する。

 しかしそこへ武器を持っていない、識神が横から入り込む。

 それでも未樹はスピードを緩めない。むしろ微笑んでいた。自分の視ていたとおりのことが起きたことを喜ぶように。未来と言うのは変化する。しかし未樹にはその未来もしっかり視えるのだ。あらゆる可能性が理解できる。

 割り込んできた識神の顎に向けて拳を放つ。識神はそれを後ろに一歩ずれ狐のお面をかすめるだけで避ける。避けられた未樹はそれでもほほ笑む。

 その異様な様子に識神は脅威を感じた。全て見透かされている恐怖を感じた。

 未樹は一歩下がる識神が視えていた、だから振り上げた拳はわざと力を抜いてある。拳を直ぐに振り下ろし地面につけ、体を持ち上げた。そして両足を一歩下がった識神の体に向けて放つ。

 回避行動への追撃を避けることは難しい。回避行動に更に回避行動を加えるには、それこそ攻撃を読むしかないのだ。しかし識神は今未来視の神崎未樹を相手にしている。そんな敵に読み勝つこなど不可能。

 もろに食らった足技を受け流すこともできずに後方へ吹き飛ばされる。一方その様子がわからなかった織神は、自分へと飛んできた識神を受け止めることはできない。最悪の場合両手に持っている剣で傷付けてしまうかもしれないからだ。だから受け止めることをせず横に回避するしかない。

 ただ彼らも戦闘のプロである。無様に転がるようなことはしない。

 未樹に蹴り飛ばされた識神は空中で体をひねり、地面に足から着地。横に避けた織神も床を転がり、立ち上がって剣を構えて次の攻撃を繰り出そうとする。

「そうはさせないわよ!」

 無論、それは朱鳥も同じだ。さっきの攻撃を回避し、態勢を立て直すには十分な時間稼ぎを未樹がしてくれた。燃え上がる刀を織神に向けて振り下ろす。

 ギン、と金属がぶつかり会う音が響く。

 織神は両方の剣を交差させ受け止めた。黒い刃が生き物のように揺らめく。

 朱鳥よりも背が小さい子供にもかかわらず、受け止めて耐えたのだ。その小さな体にどれほどの力があるというか。

 朱鳥は押し合いをしても時間の無駄になると判断し、後ろに五歩下がり下段に刀を構える。

「未樹さん。そっちの方は倒せそう」

「どうかしら、時間はかかりそうね。本当は今の攻撃であっちの方を戦闘不能にするつもりだったのだけれど、未来をはやめることには失敗したみたい。そっちの禍々しい神器の方は」

「ちょっと手こずりそう。あの神器は神成家の重力の神眼と似たような効果があるみたい。威力も高い。よっぽどあの織神は力があるみたい」

 神器は使用者の力が強ければ強いほど、高い攻撃力と効力を発揮する。

 また大きく分けて三種類の神器が存在する。

 使用者の神眼を補助するものと、神眼を再現した攻撃を発揮できるもの、そして式神厭人の使っている武器として使えるものだ。

 朱鳥が所持している者は一つ目。朱き眼の神眼の威力を高めたりコントロールをするのを補助する。

 では織神のもっているものはどちらだろうか。一つ目ならばそれはそれで対策を一本化できるのだが、二番目であれば厄介だ。何故ならば複数の神眼の能力を扱うことができるかもしれないから。神眼を再現するのならば一種類しかできないなどという縛りはない。しかし、それは神眼所持者ではない方が向いてる。

 力というのは神眼所持者でなくとも誰でも所持しているが神眼がなければ使うことはない。但し神器に力を使って神眼のような能力を扱うことは可能だ。

 しかしそれはそれで威力が低くなる。純正には敵わないと言う事だ。

 一方、神眼所持者が二つ目の神器を使用した場合はどうなるのか。自分の能力とは違うものを使った場合はやはり威力が落ちる。神眼所持者の力は所持者があらかじめ持っている能力に変換しやすいようになっており、故に他の能力へ無理矢理変換させようとしても上手くいかず威力が落ちるのだ。下手すれば発動すらできない。

 ただ此処で忘れてはいけない。

 今戦いをしている相手は、神眼研究に突出した式神家の分家であることだ。その所有する神器は今までの常識が通用するとは限らない。

 現に扱いの難しい〝重力〟を上手く攻撃に使っている。そして威力も安定しており十分な脅威だ。掛け声が『序』であることも気にかかる。つまりまだ始まりにすぎない。

「でも、攻撃をし続けてさっさと全部披露してもらうしかないわね!」

 考えても始まらない、攻撃を始めて戦況は動くのだ。

『獄炎-炎槍-!』

 刀を振り上げ炎の槍を生み出し飛ばす。

 織神は黒い刃を振り上げ斬撃を飛ばす。

 ドゴォ、とぶつかり合い相殺され視界が蜃気楼で歪む。

「まだまだ!」

 朱鳥は何度も炎槍を飛ばし続ける。織神も同じように続ける。

「はぁ!」

 未樹は斬撃を飛ばし続ける織神へ一気に距離をつめ、こめかみを狙う様に蹴りを加える。そこを識神が再び間に入り同じく蹴りで防ぐ。

「その小さな体でよく受け止められるわね…感心する」

 地面を蹴りあげて後ろへと下がる。

 そこへ識神は追撃を仕掛け動き出す。飛び上がりつつ、首を狙った回し蹴りを加える。未樹はそれを少しだけ腰を屈めて避ける。そのまま両手を大きく後ろに伸ばす。

 そして回し蹴りから着地態勢に入った識神の喉元へと両手を勢いよく突き出した。

「上手くいかないわね」

 クロスした両手に防がれてしまった。とは言っても威力は十分だったのだろう。相手はそのまま後ろへとつんのめり、背中から地面に倒れた。

 未樹はそれを逃さない。

 識神の鳩尾が来るであろう場所めがけて既に飛び上がり、そして識神が倒れた瞬間にはその上に着地していたのだ。

 グボォという気持ちの悪い音が狐のお面の中から聞こえ、識神はピクリとも動かなくなった。

 これで二人が一人へ。怪しげな斬撃を放ち続けるもう一人を倒すのみ。

 未樹は朱鳥の傍まで移動し直立。

「朱鳥ちゃん、一刻も早くこいつを倒すわよ。でないと神威が危ない」

「!?あの神威が…」

 此処から神威が戦っている発着場までは距離があるわけではないので、未来視の効果もしっかりと発揮されている。したがって神威の戦況が劣勢になりかけていくのが未樹には視えているのだ。

 しかし勝負の結果が視えない。

 それほど変わりやすい未来なのだ。かすかな何かの介入だけでも大きく変化する可能性がある。逆に言えば未樹と朱鳥がそこへ介入すれば未来が確定するということ。

 未樹はこの戦いを早急に終わらせ次のステージへと移行したい。

「そのまま炎の槍を飛ばし続けて。私はそれに乗じてあいつを倒すわ」

 それに対し、無言で頷く朱鳥。

 後一人。

「いくわよっ!」

 足に力をこめてただ剣を振り続ける織神へと接近。

 腕を構えて狙いを定める。

 しかし、そこで織神の動きが止まった。そして刃を十字に交差させ呟く。

『牢獄―自由への章―』

『破』

 刃の色が黒から透明に変化する。そして色の変わった二つの刃を地面に突き刺す。

『氷壁』

 織神がそう呟くと、織神を中心に高い氷の壁が出現。朱鳥の炎槍を防いだのだ。

 武神家一族の中でも威力の高い朱鳥の炎を…

「攻撃を止めて!それ以上は無意味だわ。そっちの倒れている方を拘束しておいて、あとは私に任せて」

 未樹の指示に素直に従い、振り続けていた刀の手を止める。そし倒れていた識神の方へと向かう。

『氷棘』

 ギャン、という音が空中に響く。すると、倒れていた識神のを中心に氷の塊が落ちてきて守るように地面に突き刺さる。

「こんの、邪魔な氷ね!」

 朱く燃える刀を突き刺して、砕こうとする。

 しかし、ギィィと削る音が響くだけで何も変わらない。削っても切っても燃やし尽くしても、再生して元の形へと戻っているのだ。

 朱鳥の炎が通じない。どれだけの力をあの小さな体に秘めているというのだろうか。複数種類の能力を発揮できる神器を使うのならば、強い力を出せるのは一種類のはず。しかし織神は重力に続いて氷も同様に使いこなせてる上、力も十分強い。

 あの子どもが使う神器はどれも高威力を発揮するのだろうか。

「まさか…神器を強力に使いこなす能力の神眼ってこと」

 朱鳥は驚くと同時に否定する。そんな神眼は存在するわけがなし、いくら式神家とはいえ新たな神眼を作り出すのは無理だろう。更に言えば神器は神眼誕生よりも後につくられたはずだから、神眼そのものに神器に関する種類のものは存在しないはず。

 ひたすら堅い氷を斬り続ける。せめて中で気絶している識神さえ捕えれば式神厭人に関する情報を得られる。

 そしてこの小さな戦いを終わらせるのを早めることができるかもしれない。

 一方未樹は、剣を構える織神へと近づくために氷の壁へと走り続ける。

「この堅い壁は朱鳥ちゃんの炎で無理。崩せる未来も視えない。あれを使えば崩せるけど、私の未来視が暫く使えなくなる」

 二年前に別れた碧き眼を持つ青年。その種類の力を封じ込めた神器。

 今でも大切に肌身離さず持ち続けている。

 彼の神眼の名前は〝因果殺し〟

 あらゆる原因と結果を書き換えてしまい、人の生死までも悪戯に変えてしまう。更に気まぐれで対象が決まるものだから、確実性のないギャンブルのような性質も備えているのだ。

その特性故に未樹の未来視は〝因果殺し〟の前で力を発揮できなかった。ノイズが走り視える未来もすべて視えなくなる。その場その場で未来という結果を書き換えられてしまうから当然だ。

 したがって彼と出会った高校一年生の一年間は酷いものだったが、かといって悪いものでもなかった。万能と驕っていた自分の神眼の限界を知ることにより、人間として成長することができたと感じている。

 その彼との思い出の神器。

 大きな青い平たい宝石のついた、手のひらに収まるくらいの髪留め。

 因果殺しの効果は発揮させるとその周囲の空間全体に影響を及ぼす。神器についても同じだろうから、未来視も使えなくなるだろう。この状況で未来視が使えなくなるのは危うい。しかも因果殺しに自分たちも巻き込まれ、生きる予定だった未来が覆されてしまう可能性もある。

 だがこれを使わなければこの氷の壁は絶対に崩せない。

 彼の力を信じるしかないのだ。

『神器―因果殺し―!』

 未樹はそう叫んで手に取った髪留めを氷の壁へと突き刺す。

 同時に空間が大きく歪み始める。

「この気持ち悪い感覚…ちゃんと発動してくれたようね」

 朱鳥でさえ砕けなかった氷の壁に、大きな亀裂が走る。

 そしてバギン!と大きな音をたてて壁は崩れた。キラキラ輝く結晶になって床へと降り積もっていく。

 氷の壁の中で剣を突き刺していた織神は、うろたえながらも剣を回収して後ろへ高く飛ぶ。態勢を立て直すつもりなのだろう。

「諦めなさい。この神器の前ではあなたの力は全て無効になるわ」

 右手にある髪留めを突きだす。

 その見知らぬ神器に織神は対策を練っているようだが、良い案が浮かばないようだ。透明な刃の剣を構えつつも攻撃態勢に出ることはない。

 当たり前だ。

 何しろ未樹自身もこの〝因果殺し〟に対する有効な対応策がわからない。高校一年生の数か月それで悩んだのだ。今更になってわかるまい。

 だからこの神器を使う事は避け続けた。

 勿論ヨーロッパに行ってもこれを手にすることなく過ごした。自分の役目は未来を予測することであり、このような実戦の場で戦うことがなかったというのもあるが。

 髪留めという形状をしつつも、その役目は果たさせなかった。

 これを敵に奪われるのだけは防がなければならないから。髪なんかにつけてしまえばいつ奪われるかわかったものではない。奪われてしまったら彼に合わせる顔がない上になさけないだろう。いつか再開したときに何と言えばよいのだろうか…。

 いや、そもそも再開できるかはわからないけれど。

「ッツ…」

 思わず眼を抑える。さはり未来を視ることができないようだ。

 見ようとするとノイズが走り頭痛もする。初めて彼と会った時の痛みと同じ。あの時は自分の生き方や考え方に対して信じられない衝撃を与えられたものだ。

 ただ、今はひどくなつかしいだけなのだけれど。

 大人しく神眼の能力の使用をやめる。

「さーどうするの。これ以上の攻撃を止めて願わくば降伏してくれれば楽なのだけれど。どちらにせよあちらの識神はいただくわ。こちらが攻勢に出られるチャンスだから早々手放す気はないわよ」

 降伏するように誘う。

 相手が何を出しても意味はないし、こちらもとしてもこれ以上の戦闘を避けたいところ。未来視なしでの戦闘もできなくはないが、勝算のわからない戦いには慣れていないのだ。

 しかし織神はそれでも剣を構える。

 逆手に持ち替え、そして両腕をクロスさせ唱え始めた。

『牢獄―投獄への章―』

 織神の周囲に怪しい風が吹き始める。更に周囲の光もその中へと吸収されるように暗くなっていく。識神を囲う氷塊の前に立っていた朱鳥も、攻撃を止め見張っていただけだったが織神の急な異変を察知し、そちらへと全ての集中を注いでいた。

 刀を下段に構えて攻撃態勢に入る。

「朱鳥ちゃん、取り敢えず私に任せて。あなたはその識神を監視していて頂戴」

「でも、その神器を使ったら未樹さんは…!」

「大丈夫。私に任せて」

 未来視は使えない。

 しかしこの神器がある。彼がいるわけではないけれど、彼の一部がここにある。

 彼と同じようにこの神器も自分を守ってくれるのだろうか。

 それを確かめたいのだ。

 渦巻いていた空気と光が全て織神の刃に収束していく。

 そして剣を振り下ろす。

『キ…』

「待て」

 突然織神の詠唱に割って入るように、高い天井から声がした。

「…、式神厭人(しきがみあきと)!」

 朱鳥が声のした方へと叫ぶ。

 未樹も高い天井の方へと眼を向ける。そこには黒いパーカーと黒い半ズボンを穿いた蒼い眼の青年が空中に立っていた…、いやよく眼をこらすと細い蒼い糸が張り巡らされておりその上に立っているようだ。上には穴が開いており、丁度その破片が床へと落ちてガランと大きな音を立てたところだった。

 その穴から中へと侵入してきたのだろう。

織神易絲易(しきがみいとい)、いくらなんでもその技は早すぎやしないか?もう少し他の技を試してからそれを出すべきだろう。踏むべき段階を飛ばし過ぎだ。これではお前たちに式神の技術を用いたことが悔やまれることになるだろうが。自分が他にどのような影響を与えてしまうのかくらい考えろ」

 その声を聞くなり織神は構えを解いて、長くなっていた剣の刃をただのナイフくらいの大きさまで短くし懐へとしまった。

 織神への対応に未樹は眉をひそめる。さっきの話からすれば武器をしまうことまでする必要はないはずだ。むしろ言われたとおりに他の技をだして式神厭人と共闘すべきなのではないだろうか。

「式神厭人、だったかしら。一体これはどういうわけなの。こちらには識神が残っているのよ。もしかしてあの子を私たちにくれるというのかしら」

「そんなわけないだろう。そいつも大事な駒だ。返してもらう」

 厭人は蒼く光っていた眼を一層光らせる。

『封印解除、戻れ』

 ゴォ、という音をたてて氷塊が内側から砕け散った。そして気絶していたはずの識神は立ち上がり、式神のいる天井へと高く飛び上がる。そして細い糸の上に着地しこちらを見下ろす。

 その狐のお面には何やら印が浮かんでいた。それは蒼黒い禍々しい光を放っている。

 同じく織神も飛び上がり厭人の傍へと移動していた。

「私と戦わないで逃げる気か、このくそ野郎!」

 朱鳥は激昂し刀に力を集中させ、攻撃を放とうと構える。

「その通りだ。こちらもちょっとした収穫があったんでね。これからが楽しみだよ」

 酷く歪んだ笑みを浮かべて愉快そうに笑う。

「収穫って…まさか!」

 未樹は上を見上げて笑い続ける式神を睨む。

「そういうわけだ。それではまた会おう」

 そう言って三人は空へと消えて行った。

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