1-18 朱緑の眼―捻曲―
俺は右足を膝から下から、前の方向へ、つま先が太ももに付きそうになるまで曲げられていた。出血もしており、靭帯も勿論切れている。俺は立てなくなり、座りこむように倒れこんでしまう。
「翔也さん!」
色神によって吹き飛ばされ続けている破片を防ぎながら、此方を見る。
俺は激痛のあまり何も言う事ができない。歯を食いしばって、痛みに耐えているのが精一杯だった。ナイフの神器を地面に突き刺して立ち上がろうとしても、立ち上がることはできない。力が上手く入らない。
その隙を狙ったかのように、俺が防いでいた方向から大きな瓦礫の破片が飛んでくる。
「伏せて下さい!」
梓はそれを、右手に出現させていた球体で弾くことにより、辛うじて防ぐ。
俺が破片を防いでいた方向が空いてしまい、梓は全方向から飛んでくる破片を防ぐことになってしまった。
俺は痛みに耐えながら意識を失わないでいるのに精一杯だ。
このままでは、梓の力が尽きたら俺らは二人とも死ぬ。いや、俺を捕らえるように命令をされているはずだから、梓だけが命を落とすことになる。このままでは…。
「梓…」
何とか力を振り絞り、声を出す。
「お前だけでも、逃げろ。お前のその力なら大丈夫なはずだ」
「そんなことはできません!」
此方を振り向きもせず、手に持った球体で飛んでくる破片を次々とはじき返す。
「そんなこと言ってもだ…、お前の体力が尽きれば…終りなんだぞ…。それに俺は…、死ぬことは無いはずだ…」
「いやです!」
梓は大きく叫んで、俺の言葉を受け入れようとはしない。
「絶対に守ります!」
梓は手に持つ球体を大きくする。
『反重力三十倍!!』
大きな球体二つを周囲に放り投げる。
『爆散!』
梓が叫ぶと、空中に浮かんでいた球体が少しだけ縮んだ後に、大きく膨らみ爆発した。轟音と共に周囲の大気が押し出されて、飛んできた破片は反対方向へと、飛んで行く。
梓はすかさず手を合わせて、眼の光をより一層光らせる。
『独立結界重力二倍!』
叫んだ後に手を大きく広げて、半透明の大きな球体を出現させる。それは急速に大きくなり、俺と梓を覆うようになる。半径二メートル位の大きさまで膨らんだ後、ピタリと止まる。
中は紫色の半透明なせいか、薄暗くなる。
飛んでくる破片は球体にぶつかる瞬間、全てが反対方向へと飛んでいく。
梓は額から大粒の汗を浮かばせながら、息を荒くしている。昨日の今日だ、体力もそろそろ限界なはずだ。
「翔也さんはここにいて下さい」
「馬鹿かお前は!体力だって残ってないだろ、いい加減諦めろ!」
俺の言葉に少しだけ黙り込む。しかし俺の眼を見る事は決してしない。
そして意を決したかのようにこの結界から出ていく。
「私の任務は、翔也さんを守ることです」
短く言うだけで、歩みを止める事はしない。色神の方へと進んでいく。
「そんな体力で私に勝てるとでも?」
色神は怪しく笑いながら梓を見据える。
気付くと破片が飛んでくることはなくなっており、辺り一帯は静まり返っていた。どうやら無駄と思って、一旦止めたのだろう。
「それじゃ、あなたから殺してあげる」
色神は手の平を梓に向ける。
『捻じれろ』
梓の首元の空間が揺らぐ。そして時計回りに急回転を始めて、梓の首を捻じ切ろうと襲う。
「梓!」
俺は叫ぶが、梓は反応しない。
ギン!―
肉と骨が曲がるような音の代わりに、金属と金属がこすれ合うような大きな音がする。そして捻じれかけていた空間はその音と共に消滅する。そして首元には小さな紫色の球体が浮かんでいた。
「なるほど相殺したの。それじゃ、これでどうかしら?」
色神は手のひらを梓に向けて両手に構える。
まるで全ての狙いを、梓に集中させるかのようだ。
『全ては私の意のままに―捻死―』
色神は眼を一層光らせながら、言葉を放つ。
『反重力二十倍!』
同時に梓も叫び、右に大きく走り出し色神の攻撃を回避して色神へ急接近する。
瞬間、梓のいた場所は空気が捻じれて大きな風が吹き荒れる。敷かれていたアスファルトは巻き上げられ、大きな穴が開く。巻き上げられたそれも、空中で粉々に砕かれ、砂塵と化した。
そんな光景に眼もくれず梓は色神との距離を縮め続ける。
「あなたの能力は厄介ね。これ以上成長する前に、始末するのが正解かしら」
梓は色神との距離は十歩程度。この距離ならば、もう回避することはできないはずだ。梓は両手に構えた球体を、色神の顔面に突き出すように構える。
一方色神はそれを避けようとすることは一切しない。
むしろ右手を突き出して、梓の球体を受け止める。梓と色神がぶつかり合った瞬間、金属がこすれ合うような音が響き渡る。
梓は両手を押しこみ、色神の片手を吹き飛ばそうと力を込める。だが、全く動かすことができない。自分の能力である重力が、色神の捻曲によって相殺されている感覚が、手のひらから伝わってくる。それどころか…
「お腹があいてるわよ」
色神が怪しく微笑みながら、開いていたもう片方の手で梓の腹をなでる。
その手が梓の腹から離れると同時に、斜め後ろの方向に向かって、身体をきりもみさせながら吹き飛ぶ。梓の血が大きな弧を描く。そして地面に転がるように着地する。
暫くピクリとも動くことはしない。
「おい、梓!起きろ!」
俺はまだ治らない右足を恨む。永劫を封じている呪は半分も削られているにも関わらず、中々効果を発揮することはないようだ。一層の事、神器で心臓を貫こうか考える…。
「あ、う…ごほっ…」
咳き込みながら血を吐く。腹の傷口を抑えている片手からは、血が漏れている。
「翔也さん…余計な事は…しないで…くださいね」
途切れ途切れに、辛うじて声を出す。地面から身体を起こし立ち上がる。
「あら、片手だけだとまだ甘いみたいね。それじゃ」
色神はスッと両手を再び構える。捻死を使う気なのだろう。
このまま捻死を食らうのは、留めの一撃になるに違いない。
『重力四十倍!』
捻死の発動よりも早く、梓は叫び地面に手を叩きつける。
色神の周囲の地面に紫色の円が、次々と描き出されていく。
捻死はその威力と比例して発動するまでには、ほんの少しだけ時間がかかる。だから梓は後先考えずに、梓の重力はどんなに使っても相殺されることがわかっていても、能力を発動させる。死なないためには戦い続けるしかない。
そして紫色の円は、色神の足元にも出現した。それに気付いた色神は動じる事も無く、両手を梓から地面に素早く移す。
『捻死』
色神の真下で広がろうとしていた円は、相殺され収縮していく。
『反重力五十倍!』
梓は少しだけ身体を浮かばせて、滑るような移動を開始する。地面に広がる紫色の円に触れても、少しだけ沈むのみで、止まることはしない。一直線に色神へ向かっていく。
色神は周囲を紫色の円で囲まれているので、動くことができない。それでもなお、色神は怪しい笑みを崩すことなく余裕の構えだ。
その不審な様子に梓は少しだけ眉を潜ませる。それでも尚攻撃は続ける。そうしなければ、捻死を使われてしまうからだ。
色神との距離を五歩まで縮めて、片手に一つずつに球体を構える。
そして片方を顔面目がけて、片方を鳩尾目がけて放つ。
ガン、という音と共に色神も片手ずつそれぞれを防ぐ。足を踏み込み重力の円がない部分に踏みとどまる。二人は掴み合いの状態になりこう着状態が続く。
一歩も動くことはない。
梓は眼を強く光らせながら、色神の眼を獣のように睨みつける。
「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫び声を上げて球体の大きさをより一層大きくする。
その勢いに押されているのか、すこしずつだが色神の踏ん張っている足は、重力の円へと近づいてゆく。あの中に入れば自分の体重はたちまち四十倍になり、内臓もつぶれて致命傷、或いは殺すことができる。
「若さのっていうのは損よね。その有り余る力に頼って、頭を使わない。もっとも、そうじゃなきゃ吊り合わないわよね」
そう言うと、色神は梓の両手を掴んだまま身体を低くする。そうして身をひるがえし、素早く梓の横に移動する。その流れのまま、梓の腰に蹴りを入れた。
梓は腰を中心にくの字になって真横に吹き飛ぶ。
吹き飛んだ身体は、道路を超えて反対側の歩道にあった電柱にぶつかるまで止まらなかった。
ベキベキという音を立てながら電柱に激突、そのまま下に落ちる。梓の来ていた黒装束は、所々がすり切れており、その下から血が地面へと流れ出ていく。
梓は虚ろな目を夕焼けに滲む空へと向けて、ピクリとも動かなくなった。色神の周囲に合った重力の円も消失する。
「梓!おい、梓!しっかりしろ!」
俺は大声で呼びかけるが、反応する様子はない。
「さて、これで留めにしようかしら」
色神は屍まで後一歩の梓の身体に向けて、両手の平を向けて、眼の光を強める。
「ふざけるな!」
俺は考えるよりも先に身体を動かした。梓が時間を稼いでくれたおかげで、右足は動かせるまでには回復していたのが良かった。
完治しきっていない足を引きずりながら、色神に向かって神器を向ける。
すると色神はその両手を、俺に向け直した。
『捻死』
ベキベキ、ゴキゴキ―
俺は足の支えを急に失って前のめりに倒れる。手に持っていた神器は、地面に転がり落ちる。
右腕は外側に大きく反り、左腕は三百六十度横に回転。手首はねじ上げられている。全ての指の関節は反対方向へと九十度に曲がる。
足は左足が立てに百八十度回転、右足は横方向に一回転。足首も内側に百八十度回転。
首は右方向へと曲がりきらない位まで、捻じられていく。
視界に移っていた、異形の光景は少しずつ視界から消えていく…。
「う…が…あ…あっ…」
激痛に叫びを上げたくなるが、首を絞めつけられているため、肺から空気が出ていかない。
アスファルトには関節から溢れ出る血によって、赤い池がどんどん広がっていく。
身体中から血液が抜けていくのと、肺にある空気が入れ替わらないので、ものすごい速さで視界が狭くなっていく。
「これはおかしい…」
ただの肉の塊へと変化していく様子を眺めながら、訝しげに首を傾げる。
「何で此処までの致命傷を負いながら、覚醒をおこさないのかしら。このままで死んでしまう…」
今までになかった焦りを顔に浮かべる。
「まさか、人違い…。それはないはず、あの蒼い刃を出現させていた神器を見る限り間違いない。だとしたらこれは…」
色神は構えていた両手を交差させる。
バキン―
何かが外れる音がしたかと思うと、俺の身体中の関節がこ以上曲がることを止めていた。どうやら捻死を止めたようだ。
カツ、カツ、と色神の履いてたハイヒールが音を立てながら俺に近づいてくる。
ピシャっという音と共に、色神の姿が俺の視界はいる。俺は、その眼を睨みつけながら敵意を示すが、他には何もできない。ここまで関節を破壊されてしまえば、回復するのには数分では無理だろう。
「おかしいわね…。回復は始まっているけれど、何でこんな中途半端なのかしら。これでは私の捻死の方が先に止めを刺してしまうところだった…」
安堵の表情を浮かべる色神。
携帯電話を取り出し、電話番号を押す。
「色神妖偽よ。生上翔也を捕獲したわ。覚醒を促す様に致命傷を与えたはずなんだけれど、覚醒しないのよね…。これってどういうことかしら」
暫く色神は頷きながら、俺の方を見続ける。
「わかったわ。抑え込んでいる呪の類いを見つけて、破壊すれば良いのね」
携帯をしまい、俺の身体にしゃがみ込む。
「さて呪いはどこかしら」
俺の服に触れる。そして、ビリビリという音がしたかと思ったら、服が破かれていた。
「どこにあるのかしらね…取り敢えず上半身の服は邪魔だから全て剥がそうかしら」
ビリビリという音を立てながら俺の来ていた服が破かれていく。染みついていた血が周囲に飛び散る。
このまま、上半身を剥がしても無駄なはずだ。俺の呪は心臓に直接刻まれているからだ。その表面を見たところでわかるはずがない。
それでもなお色神は、俺のボロボロの身体を丁寧に確認していく。
「ここにもないのね。武神家の呪なのだから、中途半端な効果の物をかけるはずはない…だから厭人さまが襲った時に、身体の表面に記された呪が傷ついて、半分解けていると考えたのだけれど…。もしかして、内側にあるのかしら?」
ブツブツと独り言を言いながら、考え続ける色神。
誰か一人でも通って、この現場を見つけてくれる人はいないのだろうか…。
あれ、おかしい…――
そういえばさっきから人がいない。俺、梓、色神だけだ。
これも何かしらの神器を使っているのだろうか。さっきからあれだけの轟音が鳴り響いているのにも関わらず、人が集まらないのはいくらなんでもおかしすぎる。
「ちょっと身体を開けてみようかしら。でもこれ以上やると本当に死んでしまうかもしれないし…難しいわね」
立ち上がり、何故か梓の方へと歩み寄っていく色神。意識を完全に失ってしまっている梓の襟首を、片手で持ち上げて俺の直ぐ横へと持ってくる。まさか…
「あら、良い眼をするじゃない。そうね、あなたなら知っているはずよ。どこに呪があるのか。それを教えなければ…」
色神はもう片方の手で、梓の頭に触れる。
「この子の頭が吹き飛ぶわよ」
怪しく微笑みながら、梓の頭をなでる。
それだけは…、それだけはだめだ。止めてくれ…。
「もっとも、私としてはこの子を殺したいのだけれど。もし殺しちゃったら教えてくれないものね」
俺は首を何とか無理矢理曲げて、しゃべれるようにする。
「や、止めろ…。呪は…しん」
「余計な事を言うんじゃない、このクソガキ」
今まで聞いたことのない声が俺の鼓膜を震わせる。
「誰!?」
色神は梓を片手に持ち上げながら、声のした方を向く。俺も少しだけ曲がるようになった首で、そちらの方を向く。
「ったく、式神家の神器っていうのは、本当に優秀だねぇ。この私を数分間も迷わせるとは、流石だよ。この“人祓い”の神器」
漆黒のような黒くて長い髪。来ているスーツは左右が中心で、綺麗に黒と赤で別れている。つけているネクタイや中のシャツもだ。一目で見ただけで、異色な存在である事はわかる。
「ま、この神器は私がありがたく頂いてやろう。これから必要だしな」
そう言うと長方形の不思議な文字の書かれた和紙を、ヒラヒラさせる。
しばらくすると、それは白い部分が朱から黒へ、黒から朱へと変化し続ける不思議な紙へと変貌した。
その色を見て、色神は急に顔色を変えた。どの色は、恐怖、驚嘆、そして憎悪が浮かんでいた。
「あなた…もしやその色…」
「おやぁ、私たちの事を知っているのに、生きているのか。これは一体どういう事かね。多分あの糞野郎のせいだろうな。全く、あの馬鹿野郎はどうして私たちの掟を、中途半端にしか守らないのかね。ま、私もそれは一緒だけどな!」
キッと色神の事を睨みつける。そして瞳の色を変化させる。それは朱から黒へ、黒から朱へとグラデーションの波のように変わり続ける。
「そ、それ以上近づかない方が良いわよ。でなければこの子の命は無くなるわよ」
あからさまに動揺している色神は、梓の頭に再び手の平を近づける。その手はとても震えていた。さっきまでの余裕な笑みも一切ない。そのかわりに、汗がその額を濡らしていた。
さっきまで、優位に立っていたはずなのにこの変わりよう。あの女の人はそれだけ強いのだろうか。
「それはこの私に対する脅しのつもりか?笑わしてくれるじゃないか」
腹の底から大きな笑い声を、周囲に響かせる。
「どこのどいつかわからないが、お前はもう既に選択を間違えたんだよ。お前は、私たちの存在について実感として信じている、珍しい存在なんだぞ。だから真っ先に逃げるのが正解だった。ところがだ、あろうことかお前は私を脅迫するという、自殺行為を行った」
「まさか、この子がどうなっても良いと思ってるの?」
色神は何とか言葉を発する。正直、あの女と相対するのは自分でも不本意だ。しかし、あいつらには恨みがある。だからこそ引けるに引けないのだ。勝機があるとすれば、人質のある今しかないのだ。
ここで、あの女だけでも仕留める事ができれば、もう思い残すことはない。仇討にはならないが、贅沢は言うまい…。
「そんな人質なんていうのは、私には意味ないんだよ。単に一手間増やすだけで、私にとって何の枷にもなることはない。そうだな、もし私に枷を付けたければ神様でも連れてくるんだな!」
より一層、色神を睨みつける。しかし、その表情は楽しそうでうずうずしている。
「私はな、仕事は熱心にしない、面倒くさいからな。だがな、遊びには予断がないんだよ。それじゃ行くぜ!」
そう叫ぶと同時に姿を急に消した。
そして、既に色神の眼の間に降り、その拳を鳩尾へと向けて殴りこんだ。同時に、片手で持ち上げられていた梓奪い取った。
殴られた色神は空中を数秒間浮遊して、数十メートル先へと落ち、転がりながら止まった。
片腕で上半身を起こしながら、立ち上がろうとする。身に着けていた服は、所々が避けていた。
「く…がはっ」
口に滲んできた血液を全て吐き出す。
そして尚立ち上がる。
「ほう、ちょっとは私を楽しませてくれそうじゃんかよ。私の一撃でくたばらなかっただけでも、誉めてやろう。そして何をする気なんだろうねぇ」
片手で梓を抱えながら笑っている。
色神は両手女の人に構え、眼を強く光らせる。
『捻死!』
女の人の周囲の空間が捻じれ始める。
しかし、身体は捻じれる事は無かった。むしろ、あろうことかその部分を梓を抱えてない方で殴りつけた。
バキン!―
打ち砕く音が響く。
バキン、バキン、バキン、バキン、バキン――
次々と捻じれている空間へと強引に叩きつける事により、消し去っていく。
その暴力的でとても強引なやり方に、色神は我が目を疑った。自分の使える最強の技が、乱暴に殴りつけられるようにして、打ち破られていく。
バキン!―
最後の捻じれていた空間が、打ち破られた。
「なーんだ、こんなもんかよ。ったく、期待して損したな」
チッと舌打ちして、不満そうな表情を浮かべる。
一方の色神は、力を使い果たしたのだろうか、膝から崩れ落ちるように倒れていった。
「さて、あのゴミを片付けるかな」
梓を脇に抱えながら、色神へと歩を進めていく。
「ゴミって言うな…」
倒れたはずの色神は、顔だけを此方にあげる。
「ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…ゴミって言うな…」
ぶつぶつと同じ言葉を続ける。
「私はゴミじゃない!!!」
眼を大きく見開いて、俺達三人を睨みつけた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
狂ったような叫び声をあげて、立ち上がる。まるでその姿は幽霊のようであり、妖怪じみていた。
「あーらら、もしかして理性失っちゃったのかな。ったく面倒くさいな」
梓を一旦降ろそうと、地面に横たえる。
その時、いきなり叫び声が消えた。
「あぁ?」
色神の所を見ると、そこには水色の浴衣を着ている二人が、色神を抱えていた。
そして、そのまま立ち去ってしまった…。
「くそっ、逃がしちゃったか。でも追いかけるには行かないからな畜生。取り敢えずてめぇらを運ぶか」
右腕には梓、左腕には俺が抱えられる。
「んじゃ行くぜ」
一瞬自分の身に何が起きたのか分からなくなる。取り敢えず、大きなショック、所謂ブラックアウトして俺は意識を失ってしまった。